第110話 建国式典

 仕切り直した会議では色々なことが決まった。


 まず、西のパルデンスはエルフと人間が共存する精霊都市として改革を進め、東のオルディニスはドワーフと人間が共存する機工都市として改革を始めることになった。


 勿論、他種族故に差別などの問題も発生することが予想されるが、悪影響を与えていた貴族が死滅した今なら、共に手を取り合って乗り越えられるはずだ。


 そして王が死んだこの中央都市国家はナーシャが女王となったことでルクスから名前を変えることになった。


 今からその式典が始まる。グローリア世界最大の都市国家の始まりだ。


 ナーシャが王宮のテラスみたいなところから演説をしている。ギルドマスターが1人1人歓声を受けながら登場している。


 南のギルドマスター、アルは相変わらず軽い態度。


 西のギルドマスター、ロルフは女にだけ手を振っている。


 東のギルドマスター、ショウゴはガン無視決め込んでいる。


 中央のギルドマスター、アルスは至って普通だが包帯だらけで足取りもやや遅い。


 話によると、開戦初期の段階で名も無き部隊ネームレスのナンバーズ全員と交戦して重傷を負ってしまったらしい。


 俺達が到着した頃にはすでに意識不明の重体で、治療の真っ最中だったようだ。


 次に登場したのはエルフの族長、オラフ。彼の登場により民衆の声が止んで静寂が場を支配する。


 次に登場したのはダークエルフの族長、ヘイムダル。やはり民衆は数百年振りに表舞台に登場した異種族が珍しいのかもしれない、聴衆は数えきれない人数なのに誰1人声を上げない。


 次はドワーフの族長、ボトム。その次は魔族の代表としてサテュロスが壇上に上がり、自己紹介を終えた。


 一応ナーシャが補足紹介したらパチパチと拍手の音が聞こえてくる。驚いてるだけで、嫌悪の情はないかもしれない。


『半年程前、原初の森に勇者が召喚されました。すでに疲弊しきった女神は彼を導くことができず、表舞台に立つまでに時間がかかりました。それでも彼は戦い続け、遂にはここルクスの窮地を救ってくれました。──彼が、勇者です!』


 騎士が壇上に上がるように指示をしてきた。


 正直こういうのは好きじゃない。こんなのはどちらかというとルークの仕事だ。陰キャの俺には荷が重いし、元の世界でもスポットライトに当たったことなんてなかった。


 しかもワンの世界中継魔道具を使ってるから、姿や声もワールドワイドに伝わっちまう。


 だけど、俺を支えてくれた人や救ってくれた人には恩があるからさ、頑張るしかないだろ?


 椅子から立ち上がり、バージンロードみたいな赤い絨毯の上を歩く。


 ──ガヤガヤ。


 動揺の声。当たり前か、見るからに冴えないし、イケメンじゃないし、足も微妙に震えてるしな……仕方ない。


 マイクらしき魔道具の前に立ち、向き直る。


「あー、あー、テステス」


 嘲笑に近い笑い声が聞こえてきた。ふむ、どうやらこの世界にマイクテストの習慣はないようだ。無駄にバカにされてしまった。


「えー、先ほど紹介された勇者の拓真です。こういう場で話したことはないのでかなり緊張してます。で、俺から言えることはそう多くはないんだが……まずジョブについてだが、俺は印術師だ」


 ──ガヤガヤ。


 ああ、そうだろう。期待してた勇者が印術師だから落胆してるのか?


「まぁ期待するのは勝手だ。だけど弱いとか決めつけんなよ。確かにスペック上は歴代勇者最弱だろうよ。元の世界でも期待どころか無能とか、使えないって言葉を何度も言われてきた。転移したとき、少しだけ期待しちまったよ? もしかしたらこの世界ならってな。でも結果は変わらなかった、雑魚だった。パーティからも外されて、捨て身で挑んでもゴブリンにタイマンで負けた」


「諦めかけた時にさ、諦めんなって手を差し伸べたやつがいたんだ。それ見てさ、俺……夢見ちまったんだ。もしかしたら愛する人の隣に立てるかもって! いや、それどころか守れるかもって!!」


「この世界はマジでクソだ。なんなら元の世界の方がよっぽど生きやすかった。街からちょっと出たら魔物はいるし、必死に稼いでも一泊がやっとだし、物価は無茶苦茶たけえし、それでも最後に1度だけ自分を信じて頑張った。差し伸べてくれた手を取って立ち上がった!」


「そのお陰で、妹を守る力を手に入れた。理不尽を退ける力を手に入れた。強きを挫く力を手に入れた。そして、世界を守る力を手に入れたんだ」


「諦めんな、最弱の俺にできたんだからアンタらにもできるはずだ。そして手を取り合え、衰弱する世界で生き残る唯一のチートだ。魔族、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ……彼らは俺達を信じると言った。なら俺達も信じようぜ! 諦めんな! みんなでチートを作ってさ──」


「世界を救おうぜ!!」


「「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」


 雄叫び、拍手喝采、そして口笛。


 "諦めんな"という言葉が伝わったみたいだ。本当に大事な言葉だ。諦めていたらきっと今も宿屋で雪奈を待つ毎日だったに違いない。


 だけどまぁ、こう言うのはやっぱ得意じゃないな。世界を救ったら挨拶をする前にさっさと立ち去ろう。昔のドラマにあったおにぎりが大好きな画伯みたいに、さ。


 そして最後にナーシャが新しい中央都市国家の名前を発表した。


 その名は──救世都市ルクセリア。

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