第109話 これからのこと

 ライラが起きたあと、俺達は王宮から呼び出しを受けた。


「タクマ様ご一行ですね。どうぞこちらへ」


 俺達の姿を見るなり玉座の間に案内された。王は殺されて王宮は半壊したというのに、やけに落ち着いてるな。


 王宮に入るとさらに驚かされることになった。瓦礫どころか石ころ1つ落ちていない、しかも内装が前の赤を基調としたものではなく、青を基調としたデザインに変わっている。


 それだけじゃない、メイドや貴族らしき人間が忙しそうに右へ左へと移動している。


 その様は、まるでここ数日の出来事がなかったかのようだ。


 ──カツカツカツ。


 俺達が玉座の間で待機していると、ナーシャが天幕の裏から現れた。いつものような冒険者の服装じゃなくて、王族が着るようなきらびやかドレスに身を包んでる。


「皆様、ご足労頂き、感謝しております」


「いや、気にするな。どのみち来ないといけないだろうからな。ナーシャも無事みたいで安心したよ」


「タクマさんのお陰でこの中央都市国家ルクスは救われました。この城も4人のギルドマスター達によって前以上に修復されましたし、これで人類側の憂いはなくなりましたね」


「だが王を早く選出しないとまずくないか? ここは世界の中心なわけだし……」


 俺の言葉にナーシャはかぶりを振って玉座に座った。


「その……生き残った貴族達と話し合った結果、私が女王になることが決まりまして……」


「──はぁっ!? なんでそんなことになったんだよ!」


「それがですね──」


 ナーシャの話によると、生き残った貴族はほとんどが悪事に手を染めていない者ばかりで、その中で最も民衆の心を掴んでるのが地域密着型のグレシャム家だった。


 そして話し合いの結果、ナーシャが女王にと声が挙がったとのこと。


 きっとこの結果もワンが狙ったことなのだろう。つまり、奴の人類浄化計画に俺達は踊らされたことになる。


「奴は執拗に俺のことを"希望"だと言ってたよな……クソッ! これじゃあ試合に勝って勝負に負けた感じじゃねえか!」


「タクマ君、それでも人類側の不安要素が払拭されたことには違いないだろ? 結界は今も弱まりつつある、嘆く前にこれからのことを考えようぜ」


「あんたは……アルさん!」


 後ろからアルさんが歩いてきた。そして俺の肩をポンと叩いてグッとスマイルをしてきた。


「でさでさ、タクマ君ってエルフやドワーフの協力を取り付けたってマジ?」


「えぇ、まぁ……」


「奴等未踏領域に住んでたんだよな……めっちゃ強いじゃん!? で、すぐに合流するの?」


「ああ、マルグレットさんが連絡をすると言ってたからそろそろ来るんじゃないか」


「ふむふむ、彼らは教本でしか見たこと無かったからね、マジで楽しみなんだよ! んじゃ、僕は彼らを出迎えに行ってくるよー!」


 アルが去ると玉座の間はシーンと静まり返った。


「ルナからも少し話があるニャ」


「──キャッ!」


 何故かナーシャのドレスから現れたルナはそのまま前に出て話し始めた。一応女王らしいからもう二度としないように後でしつけないといけないな。


 俺はそう心に誓った。


「えー、まずはタクマ達」


「朝からいないと思ったら、なんだよ」


「タクマとセツナちゃんとティアちゃん、君らは死ねなくなったニャ」


 ……は? 死ぬわけにはいかない使命がある、そんな感じの意味か? 今さらなんでそんな話を?


「度重なる戦闘でついに壊れたか?」


「失礼ニャ! ルナが言ってるのはタクマ達の寿命についての話しニャ! 君らはワンとの戦いで共鳴し過ぎて寿命じゃ死ねなくなったんだニャ!」


 思い返してみる。確かに、やられそうな場面に陥った時に紐帯印術エンゲージライン・深紅が虹色に変わった。


 ティア、雪奈、そして月の神子が力を貸してくれたような感覚がして、魔功の解析と分解能力がかなり向上した。


 だが、それと寿命に一体なんの関係があるんだ?


「セツナちゃんとティアちゃんの想いが強すぎて紐帯印術エンゲージラインが限界突破したのニャ。その結果、ティアちゃんの神性がタクマに、タクマの神性がセツナちゃんに循環して3人とも神に近くなってしまったニャ」


「寿命か……良かった」


「良くないニャ! 長く生きる存在にはそれ相応の苦悩があるニャ! それを背負えるのかニャ!?」


 確かに、物語で長く生きた存在が死を望むような話しをよく聞く。それはとても辛いことなのかもしれない、でもさ……体験してみないことにはわからないし、それに普通の人より長く愛する人と過ごせるのなら全然いいと思うんだ。


「てかさ、限界突破しなかったらティアが長く生きることになったんだよな? ティアだって妹だぜ? 兄として、1人にできねぇよ」


「お兄ちゃん……」


 ティアが俺に体を預けてきたので俺も肩を抱いて抱き締めた。


「イチャイチャするのも後にして欲しいニャ……」


「ル、ルナちゃん! 1つ良いですか?」


 ライラが何か聞きたいことがあるらしく、ルナに質問をした。


殿しんがりとしてナインさんと戦ってる時にタクマさんの気配がしたんですよ! もしかしてそれも寿命に関係ありますか?」


「それは恐らく……タクマの闘気が力を貸したのかもしれないニャ」


 闘気は体から漏れでた寿命を世界に還さず活用する技術。体や武器を補強するもよし、胞子のように散布してジャミングしたりもできるスキル。


 闘気が世界に還らないと言うことは、これから立ち寄る場所全てが攻撃範囲になるということか。


 俺の闘気が付着した場所は属性付与の対象となる。これから街中で下から風を吹かしてスカートの中を見たりもできるってことだ!


「やべぇな!」


 ──むにゅう。


「兄さん、あまり私達以外を見ないで下さいね? じゃないと、雪奈妬いちゃいます……」


 そう語る雪奈は兄の手を取って自身の胸に押し付けていた。自分以外が目に入らないほどにメロメロにさせる、そんな情熱を秘めた目をしていた。


「ニャ……。ナーシャたん、今日はもうお開きにするニャ」


「うぅ……タクマさん顔に出過ぎです。言ってくれれば私だって……」


「女王もやられちまったニャ……オズマも脳内保存してないで帰るニャ!」


「してねえよ! そりゃあ羨ましいし、アレの潰れ具合とか柔らかそうだし……」


 その後、強面執事が咳払いをするまで拓真達は見つめ合っていた……。

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