第82話 ウェット・プレイス 覚悟

 情報収集の結果、東のオルディニスに与してない小国がいくつか見つかった。その中で北東の未踏領域に近い小国をピックアップして並べた。


「西方の時みたく、数回のトライは覚悟した方がいいな」


 俺の確認に対し、酒場に集まったメンバーは一様に頷く。


「あの~、タクマさん」


「ライラ、どうした?」


「北西の未踏領域はデーモンやベヒーモスと言った悪魔系の魔物がメインで棲息してました。図書館やギルドで集めた情報によれば、北東にはリザードマンや飛竜がメインだと聞きました。タクマさん以外のメンバーは武装を一新した方が良いのでは?」


 俺以外は市販の武器であり、それら通常ランクの武器では、刃が通らないのではないか? そう懸念を呈していた。


「よし、じゃあ明日みんなであの武器屋に行こうぜ」


「兄さん、もしかしてあの方ですか?」


「ああ、オズマと気が合うかもな」


「ふふ、確かに……」


「なんだよ、気が合うって!!」


 俺と雪奈は面識がある。南のメルセナリオで武器屋をしていたハワードの弟が、ここで同じく武器屋を営んでいる。


 機械剣製作の立役者であり、筋肉ハゲという点においてはオズマと共通するものがある。


 さて、明日が楽しみだ。


 一同は各々の部屋へと戻り、それぞれ武器に関して注文を考える時間にした。


 俺は自室でマルグレットさんと魔道具で通信を試みる。まるでテレワークみたいだな。


 ザ、ザーーーー


「ああ、タクマ殿、そろそろだとは思っていたよ」


 執務室にいるマルグレットさんと映像付き通信をすることができた。


「手紙、もう着いた?」


「早速読んだよ。グレシャム家についてだが、君は私の養子となり、その君がアナスタシア嬢と仮婚約を結ぶ……これでどうだろうか?」


「俺が養子?」


「東方問題を解決し、中央に対してさぁ俺が勇者だ! そう言って通ると思っているのか?」


「功績で恩を売る形では承認されないってこと?」


「ああ、実力と功績、そして運を以て勇者は承認される。仮にワンを討つことができても、君には運が足りてないのだ」


 待てよ……運が悪いだけで勇者になれないってことなのか? いっちゃ悪いが運の悪さだけなら剛やアルフレッドだって俺に負けてないだろ!


「その顔は運勢の事だと思ってるな? 違う違う、運命のことだよ。勇者は本来女神の託宣によって原初の森に現れる。だが君が現れた時、女神はすでに託宣を告げる力すらなかった……だから世界には勇者は来てないことになっている。黒い髪と神子なんて、集めようと思えばできんこともないからな」


「つまり、運に取って変わることのできる権力でそこを補うと?」


「ご明察! 今の私はルギスの反乱によって西方随一の権力者になった。故に私の養子となればその身元は保証されたようなものだ」


「じゃあ、何故ナーシャと仮婚約を?」


「女避けの意味もあるが……中央でもパイプがある、そう思わせるのがメインだな」


「だが……俺は──」


 気持ちを伝えた。雪奈とティアを両腕に持つ俺はこれ以上は無理だと、そして元の世界に帰ったら2人に色んな可能性があることを示そうと思っている。


 特に雪奈に関しては結婚もできないし、生涯独身という道を歩むことになる。異世界という危機的状況の中、種の保存目的で一緒になるべきではない、冷静になる時間も必要だ。


 これらを伝えた時、マルグレットさんは険しい表情を浮かべて言った。


「君は──逃げてるだけだな」


「なっ! 俺は2人の人生に責任を持てない、だからせめて──」


「選ばせて、何かあれば君が選んだことだろ? そう言うつもりなのか?」


「……そんなつもりじゃ」


「セツナ殿に、そしてティア殿に意見は聞いたのか? 君が思っていることをきちんと話し合ったのか? 逃げるためだけに、責任という言葉を使ってはいけないよ?」


 マルグレットさんは俺が逃げてることを言い当てた。雪奈がかつて俺にしたことを今度は俺が雪奈達にしている、そう言っていた。


「君は世界を越えて強者と戦った……それ程の体験に比べたら、元の世界の法律なんてちっぽけなものだろう?」


「…………。」


「君が帰るからライラとの縁談は諦めている。アナスタシア嬢にもきちんと伝えてから理解を得なさい──そしてセツナ殿とティア殿、2人と向き合いなさい。これが人生の大先輩としてキミに言える助言だ」


 マルグレットさんの言葉が染み入る。いつになるかわからない"帰還"を逃げ道にして、彼女達の優しさに甘えてたのかもしれない。


「マルグレットさん、俺……覚悟決まったよ」


「そうか、それは何よりだ。ちなみに、私のことは母と思ってくれていいよ」


「いや、いきなりそれはちょっと難しい」


「ふふ……いつか言わせてみせるよ。あ、そういえばライラの調子はどうかな?」


 家出同然で俺達についてきたライラの事をマルグレットさんは心配している。


「レベルは60は超えたよ。病気もしてないし、多分そこらの冒険者よりかは断然強いと思う」


「君のおかげでライラも成長できた──タクマ殿……ありがとう」


 その後、ライラのことを色々報告した。俺はマルグレットさんからライラにあることを言付かった。


 "中等部3年をもう一度"


 つまりは留年ということになる。しかも、帰ってきたとき、ライラに消えない傷がある度にオズマは減給されるのだという。


 まぁ、俺は俺でこれから雪奈達と話し合うから明日告げるとしよう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る