第66話 未踏領域(北西方面推奨レベル?)

 現在、未踏領域とパルデンス地方のちょうど境目に立っている。パルデンス地方は災害壁が炎なため温暖な気候でゲームでよく見る平原フィールドが延々と続いてる感じだ。逆に南のメルセナリオ方面は災害壁が風なため天候の変化が激しい地方となっている。


 そして眼前には未踏領域への道があった。未踏なのに道があるのは数多くの冒険者が調査のために道を整備していたようで、その名残である。現在も月に1回程度の頻度で調査を行ってるようだが、非常に強力な魔物が闊歩するためマッピングもあまり進んでいないとか。


 道の両サイドには垂直に近い岩壁があり、一番上が見えないほどの高さがある。当然ながら看板があり”許可無く入る事を禁ずる”と記載されていた。


「じゃあ、行くぞ?」


 拓真のその言葉に全員が頷き、道を進んでいく。1時間ほど進んだところで羽ばたくような音が聞こえてきた。


「お兄ちゃん、上!」


 全員がティアが指差す方向へと視線を向けると、3体の悪魔のような風貌の翼の生えた魔物がこちらへ向かっていた。


「タクマ、あれは”ガーゴイル”だ!クソッ!こんなに早くAランクの魔物に出くわすなんてついてねえぜ!」


 オズマは大剣を大きく振ってガーゴイルの放った黒い何かを弾く。その正体は三ツ又の黒い槍だった。地面に落ちた黒い槍は溶けるように消えて霧散した。


「クッ!”炎弾(槍)”」


 拓真はロルフ直伝の魔功で丸い炎弾を槍のように尖らせて3発ほど撃つが、ガーゴイルは素手でその全てを叩き落とした。


「兄さん、次は私が!冬忍すいかずら!」


 雪奈の氷の刃がガーゴイルへと接近する。ガーゴイルはニヤリと笑って拓真の時のように素手で落とそうとする。


 ザシュウゥゥゥゥ!!


「グガァァァァァ!?」


 ガーゴイルは叩き落とすどころか、片腕を喪失してしまう。拓真は魔術師系のジョブではないため同じ魔術を使っても一段落ちてしまう。だが雪奈のスキルは近接系のジョブが放った本場のスキル、防げるはずがない。厄介だと感じたのか、スキル使用後の雪奈を狙って残りのガーゴイルが黒槍を投擲してくる。


「まずい!”魔道障壁”」


 ガンガンッ!


 今まで貫通したことのないルナの魔道障壁は平常運転で全弾防ぎきる。ガーゴイルは腕の落ちた仲間を見て笑っている。ガーゴイルは頭上の有利を捨てるつもりは無いようで、投擲のために新たな黒槍を魔力で生成していた。


「チッ、もうルナの残存魔力は半分以下だ。次で決めないと厳しいな」


「お兄ちゃん、私に任せて」


「え?」


 ティアが唐突に前に出て両腕をガーゴイルへと向けた。すると、ティアの正面に銀色の魔方陣が出現し、回転を始める。ガーゴイルはその隙を見逃すはずもなく、ティアの方へ投擲を開始した。


「ライラ!」


「はい!エーテルストライク!!」


 背中に翼を顕現させたライラは流星の如く飛翔し、黒槍を2本弾いてそのままの勢いでガーゴイルへ突進する。その間、拓真は弾き損ねた最後の1本をDeM IIデムツーで叩き落とす。


 ライラの槍がガーゴイルを貫こうとしたが、黒い壁のようなものに阻まれてしまった。どうやらガーゴイルは拓真たちを驚異と判断し、獲物から対等な敵へと格上げしたのだろう。黒い壁は、3体のガーゴイルが協力して生成したものだった。


 ライラの落下地点にオズマがすでに駆け出しており、ガーゴイルのターゲットが今度はオズマへと向けられていた。だが、それがガーゴイルの判断ミスだった。


 ティアの正面で展開されていた銀色の魔方陣がすでに臨界状態へ移行し、あとはそれを放つだけ、ガーゴイルはそれに気づかない。


「いきます!えーっと、”月下流麗・光条ムーンライト・グリューエン”?」


 新しい魔術は疑問系で放たれた。ティアの放った魔術は月明かりのように敵を照らし、ガーゴイルの影は反対方向へどんどん伸びていく。その名の通り、一条の光が天を貫き、雲は霧散し、太陽の光とは違うソレは圧倒的な力の奔流を見せつけたあと徐々に小さくなって消えた。


 光の粒子が舞い、ガーゴイルのいた場所には何もなく、魔石すら残らず消滅してしまったようだ。ティアは魔力を一気に消費したからか、雪奈に支えられてなんとか立っている。


「ティア、助かった。ありがとな!」


「え?お、お兄ちゃん……もう、ふぇ~」


 拓真が感謝を述べたあと、ティアの頭を撫でる。ティアは破顔してだらしない表情を浮かべ始めた。


「だけど、さっきのなんだ?新しいスキルなのか?」


「う、うん。黙っててごめんね……お兄ちゃんが月の石ムーンドロップを手にしてから魔力の回復が少し早くなって、それだけじゃなくていつもより早く走れるようになってたの」


「まさか!!」


 拓真はステータスを開いてみた。


園田 拓真 Level 62↑ ジョブ 印術師 印術スロット3


 スキル 

 付与印術 触れた物体に属性を付与する (毒・地・水・火・風・光・闇)

 補助印術 自身に補助バフ効果を付与する (身体強化・継続治癒)

 紐帯印術エンゲージライン 深紅↑

 パッシブスキル

 剣術 S

 魔力回復量・極大 New


 園田 雪奈 Level 75↑ ジョブ 剣士


 スキル 

 園田流抜刀術三連型 雪月花 初手の抜刀術から月を象った斬り上げ、そして花弁の連擊に繋げる連続攻撃

 忍冬すいかずら 氷の斬擊を飛ばす中距離攻撃

 縮地 特殊な歩法で短距離を一瞬で移動する技術


 パッシブスキル 

 剣術〈異〉S+++↑ 刀装備時攻撃力up

 被紐帯印術エンゲージライン 全能力up・大 存在探知


 ティア Level 60↑ ジョブ 月の神子→月光の神子


 スキル

 アイテムボックス 一定量のアイテムを保存できる。

 魔力探知(弱) 魔力の痕跡から思念を読み取る。索敵は不能


 月下流麗・神聖術 

・翠月刃 魔力でできた月属性の斬撃を飛ばす 

・月桂 対象の傷をゆっくりと治す月属性治癒術

・光条 極大の月明かりで敵を塵へと変える神聖術 New

 パッシブスキル

 剣術 A↑

 魔力回復量・微 New

 身体強化 New


 ステータスを確認した拓真は嬉しいやら悲しいやら、複雑な心境だった。何だかんだでティアはサポート役……だから拓真と同じく低燃費、低火力なジョブだと思っていた。その反面、雪奈に徐々に追い付き始めてることに拓真は嬉しさを感じていた。


 戦闘が終了したためルナが武装解除し、拓真の眺めているステータスを肩の上から見る。


「あ~、ティアちゃんは月の石ムーンドロップの影響で神化してるニャ」


「どういうことだよ?」


「読んで字の通り、神の子だから1人1人少しだけ神性を有してるニャ。それが100人分以上だから、それとリンクするということは神の領域に片足突っ込むことになるニャ」


「おい、それ大丈夫なのか?」


「人間の部分がある以上、完全に神化するのは不可能ニャ。安心していいニャ、むしろ対空攻撃手段ができて良かったニャ」


 岩壁に背を預けて座り込むティア、それを見た拓真は魔力消費量について不安を覚えた。一発撃ったらこれほど消耗する……あまり撃たせたくない魔術だな。


 その後、1時間ほど休憩したあと拓真たちは再び探索を始めるのだった。

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