第67話 迷い子
あれから2度撤退した……理由は食料だ。槍のような岩山が無数にあるこの地では植物らしいものも存在せず、僅かに草が端に生えてる程度だった。幸いにも怪我人は今のところ出ていない。
中等部でレベルが30だったライラも、45を超えたあたりから徐々にガーゴイルの黒い壁を突破できるようになった。ジョブ性能とは恐ろしいものだ。そして何より驚いたのは、オズマがレベル50を超えてることだった。
俺達と出会ったあの原初の森の時点では30くらいであり、失業してエードルンド邸で番犬をしていた時に、放蕩者たるあのワンから手解きを受ける過程で50になったらしい。知らなかったとはいえ、本人は悪の首領に鍛えられたことに対して割りとくるものがあるようだ。
そのワンだが、現在中央都市国家と小規模な軍事衝突を繰り広げている。それほどの数が多くない魔道兵器を無駄に損耗させるわけにもいかず、内政と量産へ力を注いでいる為、付き従う周辺の小国から軍を出してもらってなんとか凌いでるようだ。
一方、中央都市国家では暴動が頻発しているため、対オルディニス戦へ本腰を入れることができないでいた。ちなみに、拓真達が物資買い出しに立ち寄る街では、武器が大量に売れたりとパルデンス方面も軍備を整えているのがわかった。
本格的な軍事衝突は先の話しだが、ゆっくりしていられないのも事実だ。拓真達は逸る気持ちで再度未踏領域へ向かったのだった。
☆☆☆
現在、飽きるほど戦ったガーゴイルを雪奈がシメているところだ。
「兄さん!片付きました!」
「ああ、よくやったな。
「一閃で仕留められないのなら、囲んでしまえばいいって気づきましたし、慣れれば結構簡単ですね!」
雪奈はそう言って俺の手を取りパッと笑顔を向けてくる。うん、可愛い妹だ!
「雪奈お姉ちゃん、ズル過ぎる!私だって空の敵くらい撃ち落とせるもん!」
「じゃあティアちゃんは、左手をどうぞ!」
雪奈は大人だ。ティアと反目することもなく共生の道を提案する。だが勝手に両手を取られるといざというときに困るのだが……。
拓真が困っているとオズマが咳払いで空気を読めと合図してくる。ライラは岩壁にエーテルストライクをかまして洞窟を掘っている。これは簡易キャンプキットが役に立たなかったからだ。付属の魔物避けのお香が意味を成さないし、洞窟掘って入り口に”自作スキル・インビジブルシール”を貼り付けた方が見張りも必要ないからこの方法が採用された。
夜、俺は体に違和感を感じた。いつもより寝具が狭く感じてしかも暑苦しい。目を開き、体を動かして右で寝ている雪奈へ視線を向ける。俺の予想では雪奈が寝具に潜り込んでいると思ったからだ。
しかし、雪奈は普段通りの位置で寝ていた。じゃあ、と左で寝ているティアへ首を傾けるが、ティアも普段通りだった。
「……まさか、ライラか?」
「ユウシャ……チュッ……」
感触からして、その何かは俺の胸板へ唇のようなものを押し付けている。現実から目を背けることを止めて身体強化マシマシでその何かを一気に取り出した。
「お前……誰だ?」
見たまんまを告げよう。知らない女だ……幼さからして中等部3年のライラと同じくらいの年齢、胸部だけならライラよりも上だ。そして何より特徴的だったのが尖った耳とサラサラな金髪だ。
これは、そう───エルフだ。
「今は深夜だ……考えるのは後にしよう」
まだ眠ってるようなのでライラの寝袋に近づき、起きないように自作スキル・ヒーリングリリィで快眠状態にして寝袋に突っ込んだ。
「同い年くらいだろうからこの方がいいだろ。……さて、寝るか」
問題を次の日にあと回しにして、そのまま拓真は眠ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。