第65話 旅立ちの日

 いよいよ旅立ちの日、俺と雪奈とティアはエードルンド邸の門に立っていた。


「さて、行くか」


「見送りは……ないんですね」


「ああ、それな。俺がやめてくれって言ったんだ」


「お兄ちゃん、照れ屋だからねぇ~」


「ちげえよ!柄じゃないだけだ」


 そんなこんなで3人で笑い合いながら門を出た。大通りを抜け、いよいよパルデンスを出ようかと言うとき、馴染みの二人が現れた。


「あら、偶然ですね!」「よぉ、こんなところで奇遇だな」


 片方は赤毛のサイドテールが印象的なスポーツ少女、片方は背中に大剣を携えた上半身裸のスキンヘッド。何故だろうか、ゲームにしろ、異世界にしろ、筋骨隆々なお方は結構な頻度でスキンヘッドが多い気がする。しかも鍛冶屋がその中で群を抜いてる気がする。


 脳内でそんなバカな事を考えていたが、赤毛のサイドテールはライラ、大剣はオズマだ。両方奇遇なんて言ってるけど行き先くらいは絶対知ってたと思う。


「んで、なんでここにいるんだよ。見送りはいいって言っただろ?」


「ふふん、どこかにヴァルキリーを必要としてる人いませんかね~と───」


「おい嬢ちゃん、それはあからさま過ぎるぜ」


「オズマさんこそ、何しに来たんですか?」


「俺は、ほら、ちょいと冒険者をやってみたくな───」


「やっぱり狙いは一緒じゃないですかぁ~」


 俺の問いを無視して二人で言い争っている。こと雪奈とティアに至っては屋台で串焼きを買い始めている。


「なぁ、ライラ……マルグレットさんキレるぞ?」


 もうすでに何がしたいのか判明してるだけに俺は直球で聞いて見た。ビクッと背筋を伸ばしたあと、ライラは何かを振り払うかのようにかぶりを振って決意の表情で言った。


「タクマ君、いや、タクマさん!リタは私の友人なんです。道を踏み外した友人がいたら、正しい道に導くのが友達ってもんです!」


 ぐいっと顔を近づけるライラに、俺は仰け反りつつも肩を掴んで諭すように言う。


「いいか?未踏領域は70から100近いレベルの魔物が闊歩してるんだ。下手すれば死ぬかもしれないんだぞ?それに、未踏領域じゃリタに会うことはまずない。マルグレットさんにもあんまり心配かけるなよ」


「それがですね。今朝、起きたら私の鞄にお金と食糧が詰め込まれてました。学園、今日は休みなのにですよ?行動を見越してお母さんが入れたとしか思えないんです」


 ライラが鞄を拓真の前で掲げるとヒラヒラと紙切れのようなものが落ちてきた。それを手に取り読んでみる。




 タクマ殿、今ごろそちらにライラが向かってる頃だろう。どうせ言っても聞かずに付いていくに決まってる。すまないが、うちの子を頼む!もちろん、用心棒としてオズマをおまけにつけるから許してくれ。 by マルグレット




「正直、ガチムチはいらないんだけどな……」


 手紙を覗き込んでいたオズマが肩をバンバンと叩いてくる。


「女ばっかのパーティじゃ辛いこともあるだろ?いいじゃねえか!知らん仲でもないし、俺、意地でもついていくからな?理由だってあるしな!」


「……理由?」


「ああ、あの映像に映ってメンバーの中に、でっけえブーメランのようなものを背負った奴がいただろ?あれは───俺の親父だ」


「そうか……だからあの時、あんな顔をしていたのか」


 まるで、死んだ恋人を見たかのようなオズマの顔。誰が見ても、何か理由があることくらいはわかる表情だった。


「死んだ……とは思ってなかったよ。死んでも死にそうにねえ男だからよ。傭兵の中の傭兵、テイマーとしてSランクの傭兵に上り詰めたあの男が西方災害調査隊に所属してたなんて、それすら初めて聞いた話しだ」


「止めたいのか?」


「いや? アイツと俺の間にそんな大層な理由はいらねえ。ただ、超えるべき壁ってだけだぜ!」


 そう語るオズマの表情は無理をしてるわけでもなく、ただ挑戦者としての闘志に燃える表情を浮かべていた。


 ライラも、オズマも、それぞれがそれぞれの理由をもっている。拒めるはずがなかった。マルグレットさんの話しによればすでに初戦は終了しており、結果は中央都市側の敗北に終わったそうだ。もちろん、小規模な戦闘ではあったが、絶対に負けないと思っていた中央都市はそれ以降、様子見に転じたようだ。


 そもそも西方の貴族の娘が中央都市側として戦争に参加するのは問題が発生してしまう。それに加え、マルグレットは見知らぬ誰かと共に戦わせるよりは、拓真につけた方がいいと、そう判断したようだ。


「わかったよ。ライラ、オズマ、これからよろしくな!」


「よろしくお願いします、タクマさん!」「おう!よろしくな!」


 戻ってきた雪奈とティアは少しだけ残念な顔をしていたが、事情を話すとすんなり受け入れてくれた。こうして拓真たちの新たなパーティが完成し、北西未踏領域への冒険が始まるのだった。

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