第61話 掌握された"オルディニス"

 執事服を身に纏い、玉座らしき豪華な椅子に足を組んで座るリーダーの”ワン”という男。その背後には黒い軍服を着た9人の人間、さらにその背後には道を作るかのように”あの機体”が2列に並んでいた。


 声明はなおも続いている。


『東方都市国家オルディニスに与する周辺諸国の方々、御覧の通り我々はこの都市を占拠した。そこで君達に見て貰いたいものがある』


 そう言ってワンは部屋の端を指差す。映像は切り替わり、部屋の隅には黒髪の男が縄で縛られた状態で座っていた。服装から明らかに上位の人間であることがわかる。


『彼は勇者の末裔にして東方都市国家の領主ショウゴだ。しかも領主でありながらギルドのマスターも兼任する恐ろしき人物だ。いやはや、彼はとても強かった、少しばかりわたしの方が強かっただけの話しだったがね』


 この映像は東方の周辺諸国に向けた映像だが、恐らくは西以外の中央、南の主要都市でも公開されていることだろう。


『君たち小国は都市国家の庇護の元に成立している。諸君らは、今更中央都市国家に鞍替えもできないだろう?言いたいことは簡単だ。我らの傘下に入れ、そうすれば今まで通りの協力関係を約束しよう』


 ロルフも、マルグレットも非常に悔しそうに握り拳を作っている。それだけじゃない、ただの傭兵であるはずのオズマも映像を食い入るように見ている。


 各々映像に思うところがあるように思える。


『さて、おざなりになりましたな。今度は都民の皆様にお伝えしたいことがある。世界は、いや、歴史は嘘をついている。女神は勇者と協力し、裏切った魔族と神子もろとも北のクレプスを封印している。これが今の歴史だ……しかし、西の第3モノリスと東の第2モノリスを解析した結果、わかったことがある。北の封印はそう遠くないうちに───崩壊する』


 その言葉と同時に、至るところから声が聞こえ始める。都市全体がざわつき始めた。映像も急に消えた。恐らく、各都市の騎士団が装置を見つけ出して壊したのだろう。


 そして拓真の中に怒りの感情が沸々と沸き上がる。


「ワン!……お前は何がしたいんだ!世界を……さらに分離させようだなんてッ!」


「兄さん……こうなっては、もう」


「……お兄ちゃん」


 拓真はできうる限り目立たず、そして密かに世界を救って帰るつもりだった。そんな時に声をかけてきたロルフの存在は拓真にとっても最高の協力者となるはずだった。なのに、世界はこんなにも汚れ、そして思い通りにならない。非人道的な実験、貴族等の上位存在の腐敗、そして差別……拓真は挫けそうになったとき……不意に脳裏に走馬灯のようなものが流れた。


 宿のマスター達、武器屋の親父、ナーシャ、学園の講師と女生徒……そして俺の妹達。そう、だよな。このまま放置すれば間違いなくその人達に不幸が訪れる。こんな世界で良くしてくれた人のために戦う───。


 理由なんてそれだけで充分だ。



「そっか、ここで俺が取り乱したらワンの思う壺だな。ちょっとだけ、つまずいただけだ。元の世界でさえあんだけ理不尽なんだ。それを理由にしちゃいけない」


 拓真は改めて自身について見つめ直し、心配する妹達に言った。


「悪い、もう大丈夫だ。何にしても……やることはかわらない。正直言ってクズを助けるつもりは無い、俺が救いたいのはてのひらで救える程度だけだ。救った中の、ホンの片隅にそれらが混じってようが関係ないけどな」


 雪奈とティアは同調するかのように頷き合う。


 その後、マルグレットの声かけによって各自解散することになった。ロルフはギルドに戻り、押し寄せる都民の問い合わせに答えるために。ちなみに、ここの領主は成人してないらしく、現状の領主では力不足と判断したマルグレットは領主の館へと向かった。


 積もる話しは明日ということでその日はざわつく都市の声を感じながら拓真達はエードルンド邸で過ごすこととなった。

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