第62話 これからのこと
次の日の昼にマルグレット達が帰ってきた。どうやら押し寄せてくる民衆を上手く凌げたようだ。あの時、世界の改竄された真実が本格的に公表されていたらこの程度ではすまなかったはずだ。故にあの段階で映像が途切れたのは不幸中の幸いと言える。
しかしあれをきっかけに、世界に対して疑惑を抱く人間も少なからずいることだろう。特に、現体制に違和感を抱く人間は確実にテロリスト側についてしまう。周辺の小国と現体制の反発派を一気に取り込む手腕、ワンという初老の執事は手強い敵になりそうだ。
21時頃、ロルフも含めて遅めの夕食を取る。その時に各自あの日に起きた事を報告した。
まず、マルグレットが首謀者について語った。
「ワンという男だが、この屋敷で働いてる時は”セバスチアン”と名乗っていて職務に熱意のある人間だったよ。彼はシングルファザーであり、そして努力家でもあった」
そこでロルフが口を挟む。
「まぁ、マルグレットは気性が荒いからの……やつしか耐えられはずじゃ。一体何人の男を執事候補として紹介したことか……」
「ロルフ、お前のギルドへの融資について見直す必要がありそうだな」
「冗談じゃ、すまんかった。……コホン、話しを戻そう。昨日の映像に映っていた人間には全員、共通点がある」
「共通点?俺には黒い軍服以外わからんが?」
「異世界人のお主にはわからないじゃろうが、やつらは”元西方災害壁調査隊”のメンバーじゃ……ワンとリタ以外は、な」
「以外?」
ロルフはテーブルに2枚の地図を並べ始めた。
「全員の関係から察するに、ワンとリタはこの”旧オルビス村”出身のはずじゃ。その上で動機は恐らく……怨恨じゃ」
怨恨、つまりは恨みということか。
「恨みについてはこれから説明する。まず、こちらの現在の地図を見てくれ」
拓真達はロルフがスッと差し出した地図を見る。前にパーティから追放されたときに図書館に寄っていたが、その時に見た内容と同じだな。
「次にこちらの地図を見て欲しい。こちらは400年前の地図じゃ」
拓真達は交互に見比べる。すると、何かに気づいたのか、ティアが挙手して西の部分を指差した。
「ここ!無くなってる!?」
「当たりじゃ。本当は400年も前の地図を出さなくても、奴等が消えた年のものを出せばいいんじゃがな。これが一番わかりやすいと思ったんじゃ」
「兄さん、これが事実なら……私達の想像よりも根が深い可能性が……」
「ああ、これが事実ならさすがに同情したくなるな」
現在の地図にはオルビスがなく、400年前の地図にはオルビスが存在している。奴等が
「他にこの地図を見て何も思わんか?この地図はな……同じ縮尺なんじゃよ」
その言葉に雪奈がいち早く何かに気づく。
「ちょ、ちょっと待ってください!それって───」
「そうじゃ、世界は───縮んでおるんじゃ」
その言葉に拓真達は驚愕する。仮に、北の問題が解決したとしても……世界縮小現象が止まらない限り、救ったことにはならない。なんでこんな末期な状態で俺達を喚んだんだ!
荒れる拓真を見て、ロルフはやるせない表情で語る。
「本来なら物凄くゆっくり縮まるはずが、あのときは違った。一夜にして村全土を飲み込む悲劇が起きたんじゃ。調査隊の中に中央出身の下級貴族がおっての、その夜の調査はそやつが担当しておった。一番早く気づいておきながらやつは寝てる人間を起こさず逃げた……結界、生き残ったのはリタと、その貴族だけ。さすがにその貴族は処刑され、リタは親戚に預けられたそうじゃ」
「だが、調査隊の残り9人とリタの親、ワンだけは何故か生きていた……と?」
ロルフは頷き、そしてテーブルで手を組んで神妙な面持ちで言った。
「リタの姉は優秀な結界師じゃった。恐らく、調査隊と父親を結界で守りながら世界の外側へ放り出されたんじゃろう。そこでなにかしらの力を得て、独力で帰還、そして中央へ復讐を決意したんじゃろうて」
ロルフの予想に過ぎない、けれどそうとしか考えられなかった。
「……ルナ、世界縮小を止める方法はないのか?」
拓真の声と共に黒いロングコートが武装解除され、猫となってテーブルの上に現れた。
「タクマ、それぞれの問題は繋がってるニャ。世界縮小については黙っていて悪かったニャ、だけどそれは北の問題が解決すれば同時に解決するニャ」
「どういうことだよ?」
「世界が縮んでるのは、フォルトゥナが北の封印を長く維持するためにリソースを節約しているからニャ。それだけじゃないニャ、何年前かわからニャいが……フォルトゥナは世界からステータスの中の、ある一部分も概念から消し去ったニャ。それはSTRや攻撃力と言った目に見える数字、そして徐々に削除していって最後に削除したのは敵へのアナライズ機能ニャ。これにより、かなりの時間維持できてるニャ」
「そういうことか……レベル差がありすぎているのに俺がなんとか辛勝まで持っていけてるのは、数字が表示されなくなったんじゃなくて、概念を消し去ったことで下克上しやすくしたってことか!」
「年々召喚する勇者の質も落ちてしまってるニャ。ただの他力本願女神じゃ無いニャ」
異世界の住民であるロルフ達は、話しの意味がわかっていない。当然と言えば当然か、ロルフ達はせいぜいが80年程度しか生きていない。400年前まで”封印の間”だけ封印してれば良かったが、悪神討伐後の戦勝パーティに突如発生した障気大量発生事件……それ以降、女神は北の領域全土を封印している。
それが俺たちの知ってる歴史ではあるが、アルフレッドの夢の通りなら彼女は自身の存在力すらかけている。それだけの覚悟を責めるわけにもいかないだろう。俺達は今を生きるこの世界の住民として、限られた時間で解決しなくてはならないんだ。
「ロルフ、ギルドの封印点検ではどのくらい持つと試算されている?」
「10年じゃ」
「ルナ、お前の見解は?」
「あのワンという男、モノリスに平然と手を加えてるニャ。モノリスの魔力減少具合からして……もって2年ニャ」
「……」
「タクマ、お主らに強要することはできん。これからのこと、じっくり考えて答えを出すんじゃ……その結果、退廃的な答えを出そうともワシらは責めんよ」
ロルフが言わんとしてることはわかる。聞かなかったことにして残りの時間を精一杯生きる、多分そういうことなんだろう。だけど俺は決めたんだ……俺に良くしてくれた人の為に戦うって。
「俺さ、予定通り北西の未踏領域に行く。こんなご時世だし、立場もあるだろうからアンタらは来れないんだろ?」
ロルフとマルグレットはスマン、と頭を下げる。ロルフはギルドマスターとして、マルグレットは領主の関白としての責務がある。社会人として働いていたからこそ、ここで駄々をこねても意味がないってわかるんだ。
「タクマ殿は中央都市国家に助力するって思ってたんだが?」
「北西のエルフと和解したあと、北東のドワーフと和解してオルディニスの背後に回る、そしてワンを討ち取る。難しいかもしれないけど、これで行こうと思う」
「タクマ、わかってるのか?それは───」
「俺が舞台に上がるってことだろ?わかってるよ、もう密かに救うなんて無理だろうからな」
「……スマン」
パーティとして参加できないことへの悔しさからか、その表情は苦悶に満ちている。その後、細かい情報交換を終え、拓真達は自室へと戻る。
出発は2日後……拓真、ティア、雪奈は北西未踏領域への遠征へ向けて準備をするのであった。
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