第45話 とある『アイテムマスター』の生涯 欠片まとめ編2
原初の森、異世界人が転移時に最初に訪れる場所。そこに到着した時、1人の女が立っていた。
月の神子である。俺の時と同じ銀髪赤目の美少女だ。彼女を見ていると俺の妻、シャスティを思い出す。
「こんにちは。あなたは勇者……ではないですね」
前言撤回、シャスティはお転婆で気が強かったし、つり目気味だったからな。この神子は全てを包み込んで癒すような慈愛に満ちた雰囲気だ。
「ああ、俺は前勇者の──アルフレッドだ!!」
「私はフィリア、この度新しい勇者様が転移されるに至って、神託により神子の大役を拝命致しました。よろしくお願いいたします」
おいおい、俺の時はそんな台詞無かったぞ。……手抜いてやがったな!シャスティ!
待ってる間、神子の話しを色々聞いた。神子の一族は未踏領域と言う人間の探索が非常に困難な場所に住んでいるのだと言う。
この世界は普通に広いが、人が往来できる部分は東西南北と中央を起点に線で結んだいわゆる、ゲームの十字ボタンの部分のみだ。
そして時期が来たときに勇者の性格に合わせた神子が『原初の森』に転移されるらしい。
「なぁ、あんたら勇者の為だけに生きてて嫌になったりしないか?なんか自由がないような気がしてな……」
「実はそうでも無いんですよ?いつの時代の勇者かは分かりませんが、『救済報酬』に変な願い事をした方がいたんです。確か……『神子に拒否権を与えて欲しい』そんな願いをしたようです」
なるほど、神子の愛が偽りかもしれない。そう感じた勇者もいたわけだ。
そして雑談をしている内に近くの空間が揺らぎ始めたので俺とフィリアは身構えた。
現れたのは影の濃い青年だった。瞳が闇に染まって見えるが、表情は光明を見出だしたかのような顔だった。
だが俺が驚いたのは名前だった。「タケシ」……いや、まさかな。俺の知ってるタケシはまだ全然子供だ。俺は
ジョブは『聖剣士』強力な光属性スキルを有しており、『全スキルダメージ半減』と言う
なるほど、女神は約束は守ったと言うわけか……。
数ヶ月後……武具作成、狩場、人脈、これらを駆使して俺の時とは比べ物にならない速度でタケシはSランク冒険者に上り詰めた。
そして当初の予定通り連合を結成し、今度こそはと悪神に挑んだ。
封印の祠にて、再び俺は悪神モルドと邂逅を果たした。あの頃と変わらず人狼のような姿、そして翼を模した灰色のオーラ。
だが今回ばかりは違った。タケシを見て笑っている気がするのだ。奴が表情と呼べるものを表したのは今回が初めてだ。
「アルフレッドさん、僕はあれに勝てるのでしょうか?」
恐らく緊張しているのだろう……無理もない話しだ。俺も一度目は声が震えたものだ。
だが今回は万全を期して挑んでる。きっと勝てるだろう。
「お前のレベルと経験があれば勝てるさ」
そう言ってタケシの頭を撫でた時、頭の中にこの世界に来る直前の光景が浮かび上がり、確信した。何だかんだでやはり面影があるのだ。
ああ、やっぱりタケシは──『剛』なんだな。
だからと言って何を言うでもない。ただ、武器を構えてコレを倒すだけの事だ。
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封印が解けて戦闘は始まった。縮地クラスの速度でも『眼力の霊薬』を使用した俺には止まって見えるものだ。
的確に攻撃を当てて崩していく、足を払い、灰色のオーラによる攻撃を流し、そして斬りつける。
ま、すぐに回復されるんだがな。
フィリアも負けじと月光魔術で応戦してくれるからタンクたる俺は今回、鉄壁の妨害おじさんと化している。
そして時はきた。
後方でタケシは最高のスキルを放つ準備をしていた。俺からの200年越しのプレゼントだ。再会の記念に受け取りな。
「2人とも離れてください!『極光の剣』!!」
長大な光の剣が上段から振り下ろされる。愚かな悪神は灰色のオーラと自身の手でそれを受け止めようとした。5秒ほど拮抗しただろうか、オーラは弾け、膝は屈し、それでも奴は抵抗をしている。
だが唐突に奴は力を抜き、光の奔流に飲まれていった。
「やりました!アルフレッドさん!」
「あ、ああ」
最後に見せた奴の顔は『笑顔』だった。それに釈然としないながらも抱き合うフィリアとタケシと共に北の都市国家『クレプス』へと凱旋するのだった。
人、エルフ、ドワーフ、魔族、他にも様々な種族が入り乱れて戦勝会を行った。
封印の祠のある北の都市『クレプス』は紅葉の綺麗な大地だ。魔族の治める国、ほとんど紫色を想像していたが、中々良い景色じゃないか。
「明日には俺達は『ルクス』に帰る。何だかんだで長かったな」
クレプスの城からワインを片手に少し離れた位置にある『魔王城』を眺める。
創世当初、悪神モルドに支配されてた魔王が建設した城だ。今や観光スポットとなっている。
当の魔王はクレプスにて
魔族はモルドが生み出した種族、それ故にモルドが封印されるまで世界の敵だった。それが今では世界を守るために共に戦っている。
素晴らしい事だ。
『アルフレッド様!』
「うぉ!!な、なんだ?」
深夜、いきなり誰もいないところで声をかけられたら誰でも驚くだろう。そしてこんなことを今する存在は1人しかいなかった。
「女神か?」
『そうです。緊急性を有するため直接頭に念話をしています。落ち着いて聞いてください。魔王城にて障気が溢れ始めました!』
「どう言うことだ?」
『障気の蔓延する場所は私の千里眼が見えにくくなります。なので状況はわからないのですが、タケシ様から直前に念話が入りまして……』
「なんて?」
『ごめんなさい──だそうです』
「意味が分からない!そのタケシはどこにいるんだよ」
『この北の地域に存在が確認できません。数時間で他の地域に向かうのは無理でしょう』
「まさか、死んだのか?」
『死んでても場所はわかります。なのにこの世界にはいない……だとしたら、場所は──障気の中です』
なるほど、障気の中は千里眼のソナーが通用しない、いるとしたら先の言葉を鑑みてあの中なのだろう。なら、俺も助けに行くべきだ。
「俺もタケシに加勢する。ナビ頼む!」
『いえ、あなたには避難誘導をお願いしたいと思ってます』
何故だ?勇者と元勇者が手を組めば勝てない敵なんていないだろ!?ここから見える魔王城がすでに目視出来る程に灰色の障気に覆われている。時間が無い!
女神が少しの沈黙の後、語り始めた。
『私が
とても大切な質問なのだろう。だから焦らず真剣に考えて答える。
「俺なら、復活時に1秒でも力を使えるなら何かしらの準備をする……かな」
『そうです。私は異世界召喚も残り数回しか使えない程に衰退しました。今回か次回を狙って行動を起こすつもりだったのでしょう。恐らく、何百回と小さなチャンスで準備を積み重ねたのでしょう。それに……わからないんです』
「わからない?」
『何が原因でこうなっているのかわからないんです。悪神の反応も消滅しましたし……なので私も次に向けて準備をするつもりです』
「ならタケシの救助を──」
俺の言葉を遮るように女神が語気を強めて言った。
『タケシ様の力なら!……あの程度の障気、吹き飛ばせるはずです。それをせずに謝罪を述べると言うことは──』
「死んでいるかそれに近い状態、だから俺に避難誘導……か。それで、あんたは何をするつもりだ?」
女神が淡々と語り始めた。
作戦はこうだ。
・女神、全存在力を使用して北を封印
・次の管理者が来るまで400年、それまで最低限の管理をしながら封印を続ける
・新しい管理者の到着後に最後の力を使って異世界召喚
「つまり、あんたは消えるのか?」
『そうなりますね。神託も以降できなくなります。あと、次に召喚される方には申し訳ないですが、割りと強引に転移してもらうことになります』
「俺が守りたい世界はあんたも含めてなんだけどな」
『私、あなたの言葉に叱咤されました。だから、足掻いてみたいと思ったんです』
なら、俺も動かなくては。
「俺、もう行くよ……頑張れよ」
『では、後の事は頼みましたよ』
俺は避難誘導を開始した。全軍が北の領域から撤退し、やがて北は膜のような綺麗なオーラに包まれた。話し合いにより、女神が封印の要を4つ用意して各都市国家に守護を命じた。
何点か不可解な出来事もあった。フィリアの消息がわからないこと、そして魔王が一族ごと封印の内側に引きこもったこと、わからないことだらけだ。
その後、ドワーフとエルフは致命的なダメージを負っていた為、表舞台からゆっくりと姿を消し、今では世界の片隅で細々と生きてるようだ。
魔王が引きこもり、フィリアが消息不明になったことから歴史ではフィリアが魔族の裏切りを手助けした事になった。魔族が裏切った証拠も、フィリアが手助けした証拠も無いのにな。
悪神は子供達をしつける目的で『終末の獣』と呼ばれるようになり、歴史上ではそれが定着を始めた。
そろそろ400年過ぎようとした頃、俺は人類に絶望してしまった。倒すべき存在がいないと言う偽りの歴史により、人同士で争い始めたからだ。
貴族や軍トップもかつてのような高潔さを失い、それに失望した俺は隠居を始めた。もう俺には炎のような意思はない。
でも火種は残っている。火を継ぐ者が必要だ。だから俺はノアを養子にもらった。
かつてタケシにしたように技術を教え込み、親としての愛情も注いだ。
何の因果か、ノアのジョブは『探検家』、使用したアイテムの効果が倍になるらしい。少しだけ心に火が宿った。
各地のギルドマスターを鍛え、女神の遺した4つの封印に細工を施し、何も事情を知らないまま来るであろう勇者の為に『説明書』を作った。
「じいさん。俺、冒険者学校卒業まで待てないから来年こっそり原初の森に行きます」
「ん?そうか、じゃあコレを荷馬車に置いといてくれ」
「良いですけど、何故?」
「多分、黒髪の男が通ると思うからそれを渡してやれ」
「自分で渡さないんですか?一緒に来てくれたら世界の境界を見るのも楽なんですが」
「お前の夢は『境界越え』だったな。頑張れよ。俺はその頃行けないと思うからな」
そう、いくら神水でも限界が来ていた。自分の事だから明確にわかった。来年まで生きれないと。
それから数ヶ月後、ロッキングチェアに座りながら庭で読書をしていた。
少しずつ太陽の日差しが強く感じてきた。暖かく、包み込まれるような優しい日差しだ。
気付くと隣にシャスティと翼の生えた男が立っていた。少しだけ浮きながら手を差し伸べてきた。『もう、いいか』そう思って手を取り、アルフレッドは眩い光の中に消えていった。
『ところで、この男誰?』
『ええと、今彼!』
『嘘よ』
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