第46話 夢から醒めて

 朝か……何やら壮大な夢を見ていた気がする。夢の中で1人の男がやるせない想いを抱き、数百年に渡って戦い続けていた。知っている名前もあれば聞いたことない名前もあった。


「その夢は本当にあった出来事ニャ」


 どうやらまだ夢を見ているらしい。俺の毛布の上にルナがいるのだが、喋っているように見えるのだ。


「これも現実ニャ!」


 どうやら現実らしい、頬を撫でるヒンヤリとした冷たい空気が現実であることを教えてくれている。


「お前、喋れたのか?」


「そんなわけないニャ。今朝喋れるようになったニャ!」


「そんな無駄機能があった何てな……。で、食べ物の催促にでも来たのか?」


「ふむ、あくまで猫扱いするつもりニャ?」


「猫だろ?」


「中身は新しい女神ニャ!」


 何だ?俺はまだ夢でも見てるのか?この猫、言うに事欠いて、『女神』とか抜かしやがった。……ん?そう言えば、夢の中で次の管理者が来るのが400年後と言ってたな、つまり今の時代だが……まさかな。


「夢でそろそろ管理者が来ると言ってた気がするニャ?」


「ああ、そうだな。で、仮にお前が女神だとして俺の生体魔道具ルナを乗っ取ったお前は敵だと思うが?」


 俺はベッドの横に置いてた壊れた剣を手に取った。すると、自称女神は前足を顔の前でブンブン振り始めた。


「やめるニャ!そんなことすればルナも死ぬニャ!」


「……はぁ。わかった、今日が最後の出勤だからあまり面倒事を持ち込まないでくれ」


 寝起きの怠さもだいぶ良くなってきたのでそろそろ本題に入るべきだと思い、取り敢えず信じることにした。


「お前が女神だとして、俺はお前に頼みたいことがある。チート、渡してくれないか?俺の代だけやけにハードモードな気がするんだ」


「もう定着してるから無理ニャ」


「だろうな。じゃあ質問なんだが、今の女神はどうなってるんだ?俺がこちらに来たとき全く挨拶された気配が無い」


「夢見たニャ?あれの通りニャ。悲しい事だけど、フォルトゥナはもうすぐ消滅するニャ。あ、ちなみに今のルナには何の権能も無いから期待しないでニャ」


「どうせまだフォルトゥナがいるから、とかそんな感じだろ?使えないな」


「タクマは辛辣ニャ~~」


「寝起きで機嫌が悪いんだ、要求はなんだよ」


 俺はルナの首根っこを掴んでどかし、支給された職員の服を着る。


「あ、女神っぽいこと少しはできるニャ。範囲は狭いけど、千里眼で隣の部屋を見るニャ。え~っと、隣の部屋でセツナが『兄さんが猫と喋ってる~♡』って悶えてるニャ。ちなみに、ティアも何故か同じ部屋にいてセツナを見て引いてるニャ」


「クールな妹キャラの雪奈がそんなことするわけないだろ?」


「……この男、鈍感ニャ」


「何か言ったか?」


「何も?そんなことより、いい加減本題に入るニャ。まずはタクマの強化ニャ、これは君に頑張ってもらうとして……そう言えば、そろそろ北の調査をすると言ってたニャ?」


「お前、頑張ってもどうにもならない事だってあるんだぞ?簡単には言いやがって……」


 魔功、そして闘気を獲得したは良いものの、魔功で俺のオリジナルのスキル開発まで後一歩まで来ている。まぁ、その一歩が難題なんだがな。


「北に調査に行ったときに──魔族と和解してほしいニャ」


「魔族は敵だぞ?向こうだって現に襲ってきてるんだ。絶対無理だ」


「それはタクマが一側面しか知らないからだニャ。それから北東の未踏領域にドワーフ、北西の未踏領域にエルフが隠れ住んでるからそちらとも和解してほしいニャ。全種族一丸になって管理者交代まで時間を稼いでほしいニャ!」


「おい、魔族はわかるが何で他の2種族と『和解』なんだよ!喧嘩でもしてるのか?夢通りなら喧嘩とかしてなかっただろ?」


「う~ん、よく考えるニャ。人間は戦後歴史改竄し、戦争で疲弊したエルフやドワーフの支援もせずに今も同族同士で争っている……それで良い印象なんてないニャ」


「頭が痛い……取り敢えず、どこから手をつければ良いんだ?」


「どちらかと言うと、人間側ニャ。あの訓練相手のリタと言う娘、陰謀の空気が漂ってるから気を付けるニャ!」


 最初は少し内向的な娘と思ったが、気を付けるに越したことはない……か?


「さて、セツナがそろそろ来るから退散するニャ」


「お前いつも餌もらってるだろ?何で逃げるんだ?」


 俺の問いにルナは体を震わせながら答える。


「あのビスケットには睡眠薬が混ぜられてるニャ。きっと遠くまで餌で誘導するのが時間の無駄だと判断した結果だと思うのニャ」


 そこまで言うとルナは急いで窓から出ていった。きっとライラかティア辺りから餌をもらうのだろう。にしても、『黒猫』『ルナ』『喋る』これだけ揃えば月にお仕置きされてもおかしくないな。


 ガチャン


 雪奈がノックもせずにドアを開けてきた。


「兄さん、今日は早いんですね!おはようございます!あら?……ルナがいないようですが?」


「ああ、その件なんだがな──」


 俺は今朝起きたことを逐一説明した。


「そうですか……問題が山積みですね。あ、今日は最終日なので私もご一緒させてください!」


「ああ、いいぞ。準備があるから先に食堂に行っててくれ」


 雪奈が出ていった後、鏡の前で身だしなみを整え、頬を叩いて気合いを入れる。今日はロルフの手伝い最終日、雪奈とティアの体験入学の最終日でもある。さあて、できれば今日中にオリジナルスキルを完成させるぞ!


 こうして拓真はエードルンド魔道女学院に向かうのだった。

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