第44話 とある『アイテムマスター』の生涯 欠片まとめ編1
俺は
中学から大学まで計5回も寝取られた名前通りの男だ。すでに女性不信の極致に至った男でもある。
まぁ、そんな事はどうでも良い。慣れたからな……。普通に喋れるくらいには回復したし。
そして現在、仕事終わりに2軒のお宅に向かっているところだ。
俺が関わった事件の関係者の様子を確認するためだが、正直ただの偽善だ。自己満足だ。それはわかっているがどうにも気にしてしまうのだ。
1軒目に到着した。表札を確認、『渡辺家』よし!間違いない。
ピンポーン
出てきたのは優しそうな壮年の女性だった。
「あら、いらっしゃい。剛の様子を見に来たのね?剛!寝島さんがいらっしゃったわよ!」
トテトテと連れられてきたのは渡辺 剛──旧姓・坂上 剛 君だ。彼の両親は強盗に襲われて他界している。そしてこの家に引き取られたのだ。
頭を撫でると母の足に抱き付くように逃げてしまった。
もう、懐いているみたいだな……安心した。
「では私はこれで帰ります。坊主、良い子にするんだぞ?」
「僕、良い子にしてるもん!」
少しだけ負けん気の強い子のようだ。
次に向かったのは園田夫妻のところだ。こちらの家は夫妻揃って万引きをしていて、それを偶然目撃した俺が現行犯逮捕したと言う訳だ。
会社にバレて職を失ったが、俺が先日知り合いを紹介して現在は定職に就いてるはずだ。
ピンポーン
出てこない。
ピンポーン
ガチャ──出てきたのは小さな男の子と女の子だった。
「やぁ君達、お父さんとお母さんはいないのかな?」
「……」
反応が薄い。確か、男の子が拓真で女の子が雪奈だった気がする。二人とも明らかに痩せている……首元を確認するが虐待の痕跡はなかった。
「君達、きちんとご飯を食べないとダメだぞ?」
俺の問に兄の方が答えた。
「父さんと母さんが勉強しなさいって……全問正解するまでご飯はないって」
唖然とした。
事実そうだったのだろう。逮捕前に見た彼らは今よりも生気に満ち、動き回り、誰が見てもワンパクな兄妹だった。
何がこの一家を変えたのか?それは俺が逮捕したからだ。他の人間は『自業自得』だと言うだろう。俺が逮捕しなくてもいずれ捕まっていたと思うが、この子達には罪はないのだ。
俺が紹介した職は安月給だ。2人を養うのは厳しいとは思う。だがそれに加えて一度逮捕された現実がストレスとなりハンデとなり、この家庭は荒んでいったのだ。
俺は近くのコンビニに彼らの食事を買いに行くことにした。この行為に意味はない。この子達の腹が一瞬だけ満たされるだけだ。引き取ろうにも経済面、法的制約により困難だった。児童相談所に通報しても中々動こうとしない。
自身の偽善が自身を傷付ける……併せるように学生時代のNTRを思い出し、今更ながらにこの世に絶望した。
──と、その時。
コンビニ周辺のあらゆる物体が静止していることに気が付いた。
開いたドアの間は虚空に満ち、それでいてどこか救いを差し伸べるような空気を感じた。
虚ろな目をした俺はゆっくりとした足取りでその中に入って行った。
☆☆☆
そこは白い空間だった。ぼけーっとしてると綺麗な金髪美女が現れた。
「私は女神フォルトゥナ、実は───」
要約すると200年周期で悪神が封印から復活するから復活直後の弱ってる所を再封印してくれと、そう言う話だった。
自身の努力がそのまま救済に繋がるのなら俺は何だって良かった。この
女神の空間を出ると、
「出待ち?」
「あたいは月の神子、シャスティよ。よろしくね!」
銀髪赤目の綺麗な女性だった。最初の言葉は無視されたが、嬉しかった。
「俺は──」
この時、学生時代を思い出して俺は過去を払拭するべく名前を変えた。
「俺の名は──アルフレッドだ!!」
こうして俺達は旅に出た。最初は戸惑った。職業が『アイテムマスター』、アイテムを作ったり使ったりするときの効果が10倍になるジョブに就いたからだ。
剣を振っても当たらない、当たってもダメージが入らない。だから工夫した。
メガポーション級のポーションを作って売りまくり、資金を増やして身体能力が上がる武具を自作して一気に攻略を始めた。
自作すれば全てが10倍……最初こそキツかったが後半は楽勝だった。
仲間が増え、冒険者として名を馳せ、そしていよいよ北の大地にある封印の祠にたどり着いた。
ここで戦うことができるのは1パーティだけ。復活した悪神は周囲を汚染する灰色の障気を放つからだ。保護されるのは勇者属性が付与されているパーティのみ、他の協力者は前線から少しだけ後ろに待機して汚染されたブラッド種を狩る役目だ。
そして奴は現れた。巨大なモンスターかと想像していたが、人狼のような見た目をしており、体毛に見えるそれは灰色の障気が固形化したものだった。
大きさはオーガより2回り大きい、そして灰色のオーラを翼のように展開している。
そして戦闘は始まった。
色々な攻撃を試す内に『光属性が僅かに効果がある』ことを突き止めた。
封印じゃなくて倒せるのでは?
そう思ったが、最早限界だった。増え続けるブラッド種にレイドはボロボロ、俺のパーティも先の見えない戦いに押され始めた。
『──女神、すまん。倒せない、封印術式頼む』
欲張れば身を滅ぼす、冒険者として培った経験から俺は封印と言う決断をした。
かくして悪神モルドは封印され、仲間達はそれぞれの日常に帰っていった。
女神が現れた。
「残念でしたね」
「ああ、光属性が弱点だった」
「そうですか、では次の勇者には私から──」
「待てよ。あんたは一体何回これを繰り返した?創世の頃から繰り返してるんだよな?あんた、少し他力本願過ぎるぞ?封印にリソース割いてるから厳しいのはわかる。だがもっとやりようはあっただろ?」
女神は黙って聞いている。俺の言葉が届いてると良いが……。
「次の救世の旅には俺も同行する。できるのなら、光属性を使える勇者を喚んでくれ」
こうして、俺は次の勇者召喚まで生き残るべく神水を開発し、寿命を延ばしつつ備えることにした。
その間シャスティと結婚し、子供を授かり、俺は人生を謳歌していた。
もちろん対策として行動もしていた。レイドパーティでは限界くるのが早いので、次の戦いでは国と国を結集させた連合軍で立ち向かう……そのために各国での発言力も高めていった。
そして200年、家族は他界し、今原初の森で次の勇者を待っている。
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