幕間 記憶の欠片4

 ティアは寝てる拓真の横顔を見て少しだけ悲しくなった。苦しそうに顔を歪めて寝ている拓真に一体何をしてあげられるかわからないからだ。

 言葉では救われていると言ってはいるが、こうまで辛そうになる拓真を見ると自分が重荷になってるのではないかと心配になる。


「お兄ちゃん……あなたの悪夢を終わらせてあげたいよ。でも、私じゃダメなのかな?」


 ティアは拓真の前髪を撫でながら一人、悪夢にうなされている彼を見守るのであった。


  ☆      ☆      ☆


 僕、フィリア、アルフレッドのパーティは勇者パーティとして各地で激戦を繰り広げ、世界に名を轟かせた。

 そして剛は5大領土の長と再封印会議のために中央都市国家ルクスの王城に招かれ、その中の一室で休憩していた。


「フィリア……今どうしてるかな……」


 剛は再封印の旅でフィリアに惹かれていた。元の世界から引きずってたトラウマは解消に向かいつつあり、そして告白しようと考えていた。


コンコン


 ドアをノックする音が聞こえた剛は『どうぞ』と来客を招き入れる。


「やあ、君が今回の勇者である……」


「剛です」


「そうそう、タケシ君だったね。私は北方都市国家領主の側近、サテュロスと言う者だ。会談前に君に挨拶でもしておこうと思って来たんだ」


「サテュロスさん、わざわざありがとうございます。今回の会談、上手く行くといいですね!」


 北方都市国家は魔族領域、だが代表の側近ともあれば無礼を働くわけにはいかないので丁寧に応対した。


 魔族……小説とかでは敵としてよく登場するけど、この世界の魔族の人は世界に受け入れられてる。僕だけが偏見の目で見てどうする!

 それに、僕はそう言うのが嫌でここに来たんじゃないか!


「私も……頑張るよ。じゃあ、またね」


 サテュロスがドアを開けるとフィリアがいたが、彼女を一瞥したあと会釈を交わして出ていった。


「タケシさん、お邪魔でしたか?」


「いや、ちょうど話が終わったところだよ。それよりも庭園でも見に行かないか?王城の庭園は滅多にお目にかかれないそうだから今のうちに見ておこうよ!」


「ええ、緊張してて息抜きがしたい気分でしたので丁度いいですわ」


 剛とフィリアは庭園の白い椅子に隣り合って座り、月を眺めて談笑していた。


「……フィリア」


「……はい」


 剛が真剣な顔でフィリアの名前を呼ぶと真剣さを察したのか、フィリアも佇まいを直して向き合った。


「僕は元の世界で手酷い裏切りにあって人生に絶望してたんだ。裏切りはあまりにも唐突で、耐えられなくて、こっちの世界に来た。この世界でもいろんな困難に立ち向かって何度も挫けそうになった。そんな中で君には随分と助けられたんだ……」


「存じてます。ですが私はそこまで戦闘に貢献できたわけじゃありませんよ?」


「僕は強さで人を好きになったりしないよ。僕は君の優しさに救われて好きになったんだ。悪神を倒したら……この世界で僕と結婚してくれないかな?」


 フィリアは目を潤ませて胸の前で手を組んでいる。


「私で……いいのですか?」


「君だからだよ。君は僕の手を汚いって言わなかったじゃないか。まぁ……指を舐めたのは驚いたけど」


 フィリアもそのときの事を思い出してプッと吹き出して笑った。


「フフ……そんなこともありましたね。……私もあなたのことを愛してます。貧困に苦しむ村にクエストの報酬をまるごと渡したりする人なんていません。あなたは人一倍誰かの苦しみに心痛めて手を差しのべる本当の勇者です。……そんな心優しき殿方の妻になれて私は幸せです……」


 剛とフィリアは月の見える庭園で口づけを交わした。


「じゃあフィリア、コレ受け取って」


 剛はオリハルコンで作られた赤い指輪をフィリアに渡した。


「これは?」


「え?君にもわからないことがあるんだね。ここルクスで流行ってる求婚の儀式だそうだよ。オリハルコンを火山にたった一人で取りに行って、それを教会で清めて加工して渡すらしいよ?……じゃあ、左手を出して」


「……はい」


 剛の指輪をフィリアの指に入れると、フィリアはそれを嬉しそうに眺めて微笑んだ。


「ありがとう、旦那様」


「……フィリア」


 月下の庭園で二人は永遠の愛を誓った。



  ☆      ☆     ☆



「お兄ちゃん!!!!」


 拓真は大きな声に驚いて目が覚めた。


「あれ……フィリア?」


「何言ってるんですか?フィリアは私の祖先の名前です!私、そんなにお婆ちゃんじゃありません!」


「あれ?俺なんでフィリアって?」


「知りませんよ……とにかく今日はギルドでクエストを受ける予定でしたよね?早く起きて支度してくださいね」


 少しむくれたティアはそのまま宿の1階に降りていった。


 こっちに来てから夢見が悪いな……。内容もすぐ忘れるし。さて、ティアが席を取ってくれてるから急がないとな!


 こうして拓真は今日も夢を忘れていく……。

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