第29話 イタズラ?
拓真は奴隷商から奴隷のティアを購入し、お兄ちゃんという呼称に変えるように頼んだ。
「お兄ちゃん……ですか?」
「ああ、なんというか男の理想の呼び名のひとつなんだ。実際に妹がいる人でも妹萌えにハマる人が多いからな。あ、別に俺は今いる妹が理想じゃないというわけじゃないからな?」
「え、妹さんがいるんですか?」
「ああ、雪奈っていうんだが……訳あってちょっと別行動してる。まぁ、そんなことより考えてくれないか?俺は奴隷だからって強要はしたくない、ティアが嫌じゃなければそう呼んでほしい……」
「はい、構いませんよ。お兄ちゃん」
ズッキュン!!
拓真はその呼び名に悶絶しそうになりながら部屋の机に頭突きを始める。
「お兄ちゃん!?どうしましたか?」
「いや、すまない。なんというか爆発しそうになった」
そこで拓真はもう少しだけ調子に乗ってみた。
「できれば少しだけタメ口を混ぜてくれないか?」
「タメ口?」
そうか……言語が正しく変換されていてもこの世界にその概念があるとは限らない訳か。
「う~ん、そうだな。幼馴染みに会話する感じで、それでいて敬語はなくさずに……どうだ?」
「難しいですよ~~、でも頑張ってみます!!」
「そうかそうか!!少しずつでいいから慣れていけばいいさ」
拓真自身、『一体何に慣れろっていうんだ!』っと心で突っ込みつつも、少しだけ寂しさが紛れていくのを感じた。
────それから一週間。
「お兄ちゃん、難しい顔をしてどうしたんですか?」
「ん?ああ、ティアを買ったときに変な事を聞いたもんでな」
拓真は奴隷商からティアを購入した際、購入後一ヶ月で所有者が何者かに襲われるという話しを聞いていた。
ティアに話しても大丈夫か?もしかして、気にしてたりしないだろうか?
「私、それについては知ってるよ?」
「知ってたのか。いや、知ってないとおかしいかもな」
「でも、あれは怖い……お兄ちゃん、手放すなら今だよ……?」
正直、ティアを手放しても彼女は生きていけないだろう。
ここ一週間でわかったんだが、彼女を連れて買い物に行くと値段を吊り上げられたり、いきなり店を閉められたりと偶然で片付けるにはおかしい事例が起きていた。
完全中立のギルドでは仕事をもらえるだろうが、戦闘経験の乏しいティアでは満足にクエストをこなすことも難しいだろう。
拓真はティアを安心させるように頭に手を置いて言った。
「俺な。独りで寂しかったんだ。お前が居てくれて少しだけ救われたんだ、ならお前をこんな場所で離すわけないだろう?ティアを解放するときは、きちんとティアの居場所を作ってからだ」
「ありがとうございます……お兄ちゃん……」
ティアは泣きながら微笑む。本来なら顔を視線の高さまで下げるはずが、ティアは18歳、そして拓真より少し低いだけなのでそれは叶わなかった。
5分ほどしてティアが落ち着いたところで『なんだいこれはっ!』といういかにもオバサンの声が聞こえてきた。
「ティア、いくぞ」
「はいっ!」
辿り着くと、中年の女性が壁を睨みながら腕を組んでいた。
「どうかしたか?叫び声が聞こえたんだが……」
「え?……ああ、すまないねえ。ガキのいたずらに驚いちまっただけさ」
「お兄ちゃん、コレ……」
ティアが指差す方を見ると……民家の壁一面が氷で覆われていた。
もしかして……奴隷商の言ってた襲撃者か?奴隷商は『一ヶ月以内』と言ってたが、早すぎるだろッ!
拓真は今まで襲撃を見たことがあるであろうティアに意見を求めた。
「ティア、どう思う?」
「毎回見てるわけじゃないけど、襲撃の手口が違う。襲撃ってみんないうけど、あれは基本的に真正面からゆったりと襲ってくるよ……なのでコレは違う可能性があります。それに、敵意も感じません」
「敵意?」
「うん、私たちの一族は魔力から微量の思念を感じ取れるんです。ほんとに微量ですが、殺意等の強烈な思念であれば絶対に気づけます。そしてこの氷からは敵意を感じません。だから安心していいと思う……」
(これは敵意というより、むしろ……)
「ティアがそう言うならそうなんだろう。じゃ、大事は無かったみたいだから俺達は帰るよ」
結局イタズラということで決着し、拓真たちは宿に戻った。
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