第30話 さ迷う者

 西方都市国家パルデンスに向かうには1つ問題があった。それはティアの戦闘経験の無さだ。ティアはレベル20ではあるものの、今まで一度として戦ったことがないらしい。

 ティアの戦闘経験を補うためにここ数日はハイデの街で簡単な討伐クエストを受けていた。


「お兄ちゃん、私を買ったとき戦闘に参加しなくていいと言った」


 ティアがゴブリンの攻撃を避ける。


「確かに!……だけどな。まさかパルデンスまでの道のりが推奨レベル30とか思わないだろ?」


 俺が斬りつけ様に”光毒・ブライトネス”を付与する。ゴブリンの視力が低下する。


「だ~け~~ど~……ゴブリンって気持ち悪いじゃないですか!明らかに私だけ狙ってくるし……」


 そりゃあ───女だからな


「お兄ちゃんだって私よりレベルがちょっとだけ高いだけじゃないですか~」


 視力が低下し、ティアを見失ったゴブリンは石につまずいて転んだ。


「俺はティアとは違う。攻撃が通らなくても、各種毒を与え続ければいずれ敵が倒れるからな」


 ザシュウウウウウ!


 ティアがむくれながらも最後のゴブリンを斬り倒す。なんだかんだ言いながら喋りながら戦闘できるくらいには強くなってきている。ティアが討伐証明の魔石を死体から取り出して持ってきた。


「はい、これでいいんですよね?」


「わかってるとは思うが、今のお前はレベル23だ。それでも経験が足りてないんだ。レベルに対して技量が伴ってない状態と言っていい。せめて25まではパルデンスには向かわないからな?」


「はいは~い。わかってま~す。それにしても、お兄ちゃんって印術師というよりは『毒魔道師』って感じですよね」


 実際はそんなジョブは無い。雪奈と組んでた時は戦闘時間が短くて毒なんて使ってられなかったからな。ルークとの戦いはある意味では、俺の新たな才能を開花させるに至ったわけだ。


 ────じゃあ、ステータスを確認する時間だ。



園田 拓真 Level 27↑ ジョブ 印術師 印術スロット3


スキル 

付与印術 触れた物体に属性を付与する (毒・地・水・火・風・光・闇)

補助印術 自身に補助バフ効果を付与する (身体強化・継続治癒)

紐帯印術エンゲージライン 黄

パッシブスキル

剣術 B↑ 印術 S↑


ティア Level 23 ジョブ 月の神子


スキル

アイテムボックス 一定量のアイテムを保存できる。

魔力探知(弱) 魔力の痕跡から思念を読み取る。索敵は不能

月光魔術 翠月刃 魔力でできた月属性の斬撃を飛ばす

パッシブスキル

剣術 C


 月の神子、勇者を代々補佐する神の因子を宿した一族。生まれたときからレベル20で銀髪で紅い瞳が特徴的だそうだ。ティアは蒼い瞳だが恐らく突然変異じゃないかと本人は言っている。


 スキルを見る限り、勇者の補佐をするだけあってアイテムボックスはかなり助かるスキルだ。ゴブリンを大量に殺しても普通はバッグに入る分しか魔石を持ち帰れない。全部換金しようものなら何度も往復しないといけなくなる。大量の魔石を持ち帰れるため俺達の収入は劇的に向上し、装備や準備も万全の状態で挑む事ができるようになった。


 生活水準も向上し、買った当初は少しだけあばら骨が浮かんでいたが今ではたまに理性を失いそうになる程に肉付きが良くなっている。

 こんなに良いことばかりなのに1つだけ懸念がある。


 ───それはそろそろ購入後一ヶ月だということだ


「お兄ちゃん!あいつらが……来た!」


 ここは隠れることのできない見渡しのいい平原。ちょうど俺が望んでいた場所にゴブリン討伐の依頼があって幸いだ。ティアは『不幸の月』と言われ、どの街でも忌み嫌われていた。今日はそのジンクスを俺とティアが打ち破る!


「あいつらで間違いないな?」


「うん!でも……怖いです……」


 ティアが怯えている。当然だろう……自分を引き取る人間がいつも一ヶ月で襲われてたんだからな。たまたま強い奴隷商に今まで引き取られてたから助かってたが───今回も助かるに決まってるだろ!


「安心しろ。お前は不幸なんかじゃねえ。むしろ最高に幸運だ!俺に買われたんだからな!」


 そう言って頭をワシワシと撫でると驚いた顔で見上げてきた。


「信じていいんですか?」


「俺を信じるのは当然として、もう一人信じないといけないだろ?」


「もう一人?」


 当たり前だ。そいつを信じられなきゃこの先救われない。


「ああ、そいつはな───ティア自信だ」


「俺も無力感を感じてた時があった。だけど俺に目をつけて道を示した人がいるんだ。俺はそいつを信じて自分を信じた。お前も俺を信じてティアを信じろ!」


 ティアは俺が差し伸べた手を握って立ち上がる。


「私、お兄ちゃんを信じます!!!」


 そうだ、さあいくぞ!


 ☆      ☆     ☆


 対峙する敵が見えてくる。それは人間のような形をしているが灰色のオーラのようなものを纏っていた。肌は茶色、翼のようなものが生えているが朽ち果てている。いや、全体的に朽ち果てているといった方が正しい。


 進行速度はゆったりとしている。


 俺とティアは身構える……敵も朽ちた目でこちらを見た。次の瞬間、敵が高速で跳躍してきた。元の世界での知識だが、ああいう手合いは人間に効く毒は効果がないだろう。まず身体強化を施し”反撃剣リベンジソード”の構えを取る。


 ガキンッ! ドゴオォォォン!!


 敵の剣が俺の剣に触れた瞬間、剣が爆発する。敵に向かってバックドラフトが発生した。……ちっ。多少ダメージはあるようだが、立ち上がり剣を構えてくる。そして再度敵が攻撃してきた。


 カンッカンッカンッ!


 反撃剣リベンジソードが大振りにしか対応できないのを見破られたらしい、隙の無い素早い剣撃に切り替えてきた。体が朽ちているためスピードは大したことはない。しかし、パワーはジャブのような斬撃でも俺にとっては重いものとなった。


 段々俺の防御も崩れていく、そして敵が俺の剣を弾こうとしてきた。俺の剣は短くなった機械剣の残骸にナーシャの指輪で魔力大剣として形成していた。

 わざと魔力を解いて空振りにさせ、すぐに形成。すかさず胴を斬りつけた。


 ザシュウウウウウ!


 クソッ!これでもまだ立つか。敵との剣舞が再開された。知能があるのだろう。剣弾きもしなくなった。恐らく俺の体力切れを狙ってきている。先程斬りつけたときに”闇毒・グラヴィトン”で敵の重力を割り増ししてるはずなんだが、ものともしない動きで斬りつけてくる。


 ティアから意識が完全に外れてることを確認した俺は”下級魔術・石壁”を作ったあと距離を取った。当然ながら敵は一振りで破壊してくる。

 

「今だ!ティア!」


”翠月刃”


月光魔術による月属性の斬撃が飛んでくる。


「お前は反応が全てオートなんだよ!!」


 ティアの魔術を打ち払おうとする敵を石壁で次々と囲んでいく、普通なら上に逃げるべきだが自動的な反射をする敵は石壁を壊してしまう。

 いくら早く剣を振ろうが一回振れば隙ができる。


 ───ザンッ!


 ティアの放った翠月刃が敵の首を落として戦いは俺達の勝利で終わった。今回の勝因は、俺が差し込み攻撃を知っていたためだ。ゲームでは『差し込みヒール』といってHPが減る瞬間に合わせて詠唱を完了させるプレイヤー技術の一種だ。

 事前にタイミングを教えておいて剣を振りきった瞬間に当たるように仕掛けた。タイミングは最初の石壁だった。


 最初の石壁でティアには魔方陣に魔力をチャージさせ、『今だ』の合図で発射する───これにより俺とティアは完全勝利したのだった。


「お兄ちゃん!!!」


 ティアが飛び付いてきた。小さな子供だとここで抱き合いながら回転するんだが、身長が俺とあまり変わらないため押し倒される。

 あふん!と俺は不甲斐ない声を出してしまった。体の前面がむにゅうっとした感触に包まれたからだ。


「おい、ちょっと──」


「なに変な声だしてんの?でも嬉しいから許します!」


 嬉しそうに頬擦りしてくるティア、俺はそれを咎めるような不粋な真似はせずにその頭を撫でて勝利の余韻を味わうのだった。

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