第26話 プリズンライフ

 あれから10日間の間、牢の中にいる。俺の相部屋の男は盗みを働いてここに入れられてるらしい。

 なぜ知ってるかと言うと、看守はお喋りだし、相方は何故か情報通だし、ある意味全く希望がない訳じゃないのだ。


 そして俺の扱いだが、審問無しで『死刑』だそうだ。まぁ異例の出来事と賑わせてるが、俺からしたら法のトップが腐ってるって言うのはテンプレートだと思っている。

 得た情報によると、ブルックは生前に司教トーマスから小遣い稼ぎとして例の遊びを提案されたそうだ。

 罠に嵌めた女の関係者を偽の罪で反逆者に仕立て上げ、それを奴隷としてトーマスが買い取り、ダンジョンで調教後、世界に高値で売り捌いていたらしい。


 そしてルークに関しては、あまりにも純朴なルークに悪の側面を見せて、それを正義として傀儡にしたかったようだ。

 ちなみに現在のルークだが、見つけた女を部屋に連れ込んで甲斐甲斐しく世話をしてるらしい。恐らく雪奈のことだろう。

 まぁ、あいつらは新しいカップルだろうから別に問題無いけどな。少し心痛いけど、前ほどじゃない。

 ただの兄より愛した男を取ったのだろう。いや、これむしろ普通のことじゃね?俺が女でも兄か恋人か、だったら恋人選んでるな。うん、正しい!


「よお、アンちゃん。貴族殺しの大罪人、今日も百面相してんな~」


「うるせえよ。黄昏てんだよ、ほっとけ!」


「アンちゃんこのままでいいのか?殺されるぞ?」


「とはいっても、何も手がないじゃねえか。何かあるのか?」


 そう、コイツがこう言うときは大抵何かあるのだ。


「実はな。2日後にここに松明用の油が運び込まれるんだ。それにあんたが火をつければなんてことはない、楽勝だろう?」


「2ヶ所問題がある。1つ目、火を着けたとしてこの牢を出られなければ自殺になる。2つ目、俺は無関係の殺しはしたくない、火災で巻き込まれる兵士や囚人がいるだろう?」


 正直、雪奈は幸せになってるだろうし、俺がこのまま消えれば安泰だろうって思い始めてる。


「大罪人がとんだ偽善者だな?1つ目の懸念だが、アンちゃんは印術師だろ?みんなアンちゃんを『弱い』って甘く見てる。護衛の大勢いる貴族の屋敷から逃げてきたんだろ?それほどの実力があるならやれるはずだ」


「じゃあ聞くだけ聞いてやる」


「よしきた!じゃあ次は2つ目、当日はパレードで兵士の数もほとんど少ない。囚人もリスク管理で俺たち以外東方側に送られる予定だ。どうだ?これならできるだろ?」


 ダメだ。一歩足りない。修正を加えないとダメだろうな。


「わかった。だが、残った数人の騎士も殺さない方向でいくぞ」


「それは構わないが……代案あるのか?」


「99%はお前の案でいく、だけどこの牢の突破は俺のやり方でいく」


 盗賊の相棒は怪訝な顔を浮かべながらなんとか承諾した。


  ☆      ☆      ☆


当日


 パレードの音が外から聞こえる程に街は賑わっていた。相棒に聞いた話によると悪神封印から400年の記念パレードだそうだ。


「でアンちゃんはこの手錠と鉄格子、どうやって壊すんだ?」


「簡単だ、見てろ」


 俺は手錠に毒を付与した。10分ほどでガシャンという音がして朽ち果てた。


「アンちゃんすげえな!これ魔術阻害処理を施してる特別製だぜ?なのに魔術で壊すなんてよ」


「誰の目にも止まらない弱ジョブだからな。みんな知らないんだろう?印術師の付与はスキルなんだよ」


 そして俺は鉄格子も壊して、詰所にいた看守の騎士を2名背後から無力化した。相棒の案内で松明用の油が保管されてるところにたどり着いた。


「アンちゃん、武器はいいのか?さっき来るときにあっただろ?」


「バキバキに壊されてたからな。支剣の長剣だけ貰ってきた。防具はそろそろ戻ってくるはずだから問題ない」


 そう言った直後に窓からニャ~という鳴き声と共にルナが入ってきた。実は護送されるときにナーシャについていくように指示していたのだ。

 ナーシャは御咎め無しで無事試練のクリアを報告できたようなので、ルナを預かってもらっていた。

 ルナを装備すると相棒が感嘆の声を上げた。


「ほえええ。初めてみる装備だな。見たことない」


「とある人から依頼を達成する上で必要経費としてもらったものだ。それよりも始めるぞ」


 騎士を安全なところに運び、松明用の油に火をつけて監獄から脱出した。逃走用の経路は事前に相棒から教えられてたので敵に会うこともなく逃げることができた。


「さて、ここまでくれば安心だな」


「安心だが……結局またお尋ね者か……」


「大丈夫だ。偽装死体を配置してたからな。やつらは死んだと思うだろうよ」


「お前も抜け目ないな。じゃ、これで相棒関係も終わりだな。やることあるから俺は行くよ、じゃあな」


 偽装死体か……雪奈は悲しむだろうか。まぁ俺を忘れるには時間がかかるだろうが、側にはルークがいる。あいつだって今回俺が正当に裁かれなかったことで目も覚めただろう。きっとなんとかなるさ。



 次に行く前に最後にナーシャに会って街を出るか。


 なるべく目につかないように屋根の上をピョンピョンと渡っていく。元々借りてた宿屋に着いた頃、雪奈を見かけてしまった。

 一緒にいるルークの胸に顔を埋めている。熱いね、白昼堂々と……異世界に来て環境が変わったからちょっと依存が増しただけ。これが本来の関係さ。


 俺はそのまま通りすぎてナーシャの家の屋根に乗って天窓から中を確認した。ナーシャはベッドの上で寝ているようだ。

 天窓の鍵を毒で最小限に破壊して中に入った。


「ご令嬢のナーシャさんが寝てます……可愛いですね~では枕を抜いたら起きるでしょうか~」


 雪奈とルークの逢瀬を見て変なテンションの俺は、某テレビ番組の真似をしながら悪戯をする。

 頭から枕を抜くが起きない……。

 試しに布団を少しめくってみると、そこにはパジャマを押し上げ、適度に主張するものがあった。


 胸元にかかっているプラチナブロンドの髪をそっと払った。

 ん?上下する間隔が早い?……しまった!

 両腕で頭を抱き締められてロックされた。


「タクマさん……生きてたんですね。2時間前に監獄の松明用の油から火が出て全焼したって報告があって……生きててくれてよかった……」


「悪い、心配かけたな。一応、死体がでてくると思うが、偽装死体だから……幽霊でもないからな?」


 ナーシャは涙目を拭ってお互い笑いあった。

 お互いの今までを話し合い、落ち着いた頃にナーシャが聞いてきた。


「それでこれからどうするんですか?なんなら私の家で匿っても……」


「いや、俺は西方都市国家で調べたい事があるんだ。ありがたいけど行くよ」


「そうですか……あっ!そうだ!ではこれをお持ちください」


 そう言うとナーシャが指輪を渡してきた。


「え?いや、ちょっと俺にはまだそういう覚悟は……」


 指輪……まだそんな仲じゃ……。


「どうしました?これは我が家に伝わる武器の1つです。タクマさんの機械剣……見た限り色々外されてただの小さな長剣になってるじゃないですか。この指輪に魔力を通すと、持ってる武器を覆うように魔力が包んで一回り大きな武器になるんです。残念ながら私の魔力はそこまで多くないです。使い道に困ってたのでタクマさんに差し上げます」


 確かに、印術師が使う魔力は極小で下手すると一生使える自信があるくらいだ。闘気獲得で付与の概念が広がっても、出力だけは変わらなかったからな。ありがたい……。


「また、この街に来てくださいね!」


「また天窓からくるよ」


「……もう!」


 俺は中央都市国家ルクスから離れたところから感慨に耽る。


 雪奈……帰る方法見つけたらもう一度戻ってくるからな。その時は辛いだろうが帰るか残るか選んでくれ……じゃあな!


 こうして拓真は西方都市国家に旅だった。

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