第25話 Dot vs Hot

 扉を開けると数人の騎士と雪奈がいた。雪奈と目があった。雪奈は目を逸らし、唇を噛み締めて俯いている。

 ルークとか言う奴が雪奈の隣にたっている。それだけで胸が張り裂けそうになった。


 なんでアイツと一緒にいる?そしてこの空気はなんだ?まるで戦いの前の空気じゃないか!


 ルークが一歩前に出て言う。


「君がタクマ殿で間違いないかな?」


「あんたは?」


「フォルトゥナ騎士団、副団長のルークだ。さて、本題から言うと……騎士団に投降してくれないか?無益な戦いは避けたい主義でね」


 手配書の紙は俺に似てなかったが、髪が黒であることは合っていた。そして雪奈が隣にいると言うことは確実に俺だと断定しているってことだ。


「断る。お前は都民が傷つけられ、自身の妹が毒牙に掛かろうとしてるときに助けないのか?」


「助ける。そして出頭する。そうすれば正当な罪科をもって裁かれるはずだ。君の罪は過去の事例から1ヶ月程度の投獄になる。たかが1ヶ月のために賞金首から逃げるのか?追手は時に命も奪う、投降した方がいいと思うが?」


 1ヶ月……つまり殺害に正当性があれば減刑されると言うわけか。


「少し宜しいでしょうか?黙って聞いてれば、あなたは何を言ってるんですか?誰も守ってないような形骸化した法をなぜさも正しく、大袈裟に言うのですか?あなたは世間でどう言われてるか知ってますか?」


 いきなりナーシャがキレてルークを圧倒し始めた。


「箱庭騎士だろ?知ってるよ。だからこそ世間を知りなさいと言う意味でトーマス司教から外での活動を許可されたんだ」


「恐らく司教は悪です。あなたに教えたかったのは悪と言う側面も世間にある……それを教えたかったんです」


 それを聞いた雪奈が会話に割って入ってきた。


「どう言うことですか!あなたのお義父様は平等を掲げる司教じゃないんですか?」


「違う!でたらめだ!義父さんはいつだって平等に行動してる!」


 徐々に最初の頃のような敬語はなくなり、素の側面が現れ始めた。

 動揺するルークを見て雪奈は気付いた……ルークが本当の意味で『箱庭騎士』であるのだと。


「セツナさん、あなたもしっかりなさい!考えればすぐにわかることでしょう?司教は確かに平等ですが、それは都民同士で問題が起きた時だけです!なぜ悪の度合いなんて曖昧な法があると思いますか?簡単です。冒険者であれば殺った殺られたは日常茶飯事だからです。いちいち騎士が動かなくていいように与えたポーズとしての法だからです!」


「そんな……私……。兄さんを……」


 雪奈はペタンと座り込んですすり泣き始めた。

 護衛の騎士はルークから目を背け、雪奈は座り込んだまま動かなくなり、自身を誰も擁護してくれないと悟ったルークは叫ぶ。


「義父さんは間違ってない!義父さんは正しい!」


 すでに論理は破綻し、狂乱を起こし始めている。戦闘の幕開けとなるのも時間の問題だ。

 ルークがフラフラと近付いてくる。


「ナーシャ、あんたは逃げてくれ。これは立派な反逆罪になる」


「いえ!絶対に離れません!試練クリアの恩義、ここで返させていただきます!」


 お転婆娘が、言い出したら聞かないってやつだろうな。


「ナーシャ、コイツのレベルどのくらいかわかるか?」


「50だと聞き及んでます。今更ですが勝てるんですか?多分タクマさんの攻撃は効かないと思いますよ?」


「いや、やってみたいことがあるんだ。俺を信じてみてくれ」


「わかりました。……御武運を!」


 さて、まだ距離があるな。───『ステータス』


園田 拓真 Level 25↑ ジョブ 印術師 印術スロット3


スキル 

付与印術 触れた物体に属性を付与する (毒・地・水・火・風・光・闇New)

補助印術 自身に補助バフ効果を付与する (身体強化・継続治癒)

紐帯印術エンゲージライン 黄

パッシブスキル

剣術 C 印術 A


 さて、まずは1合目から始めるとしよう。

 ルークと俺の長い戦いが始まった。


 ルークの剣技は速度とパワーを兼ね備えた凄まじいものだった。それに加えて、ルークの最強の強みは『自動回復』……恐らくダメージを与えられたとしてもすぐに回復されてしまうだろう。

 だが、俺は勝ち筋が見えているので防戦に徹する。


「うわあああああ」


 奴は狂乱を起こしているためか少し剣技が甘くなっている。持てる限りのスキルを駆使して妨害を徹底する。

 ルークが空振りをしたときは”スワンプカーニバル”で足を止め、”石壁”で囲み、突破されたら毒を付与した剣を叩き込む。

 当然ガキンッと言う音がしてダメージは通らないが……毒が通っている手応えがある。

 次に隙が出来たとき、新しい自作スキルを繰り出した。


”自作スキル・パラライズシフト”


 風と毒を混ぜた麻痺を付与する新スキルだ。ガキンッと言う音がするがこれも通った感触がする。僅かにルークの動きが鈍る。

 それでもルークの攻撃は熾烈を極め、俺自身も少しずつ傷を負う。

 最初のうちは10分に1回くらいの頻度で隙ができた。だが次第に5分に1回に変わっていく。


「……ハァハァ……次はこれだな」


”自作スキル・ブライトネス”


 剣に光と毒を混ぜた目眩を誘発するスキルを付与して叩き込む、またもガキンッと言う音がするがこれも通る。

 ルークの空振りが目立つようになってきた。そして次は───


”自作スキル・グラヴィトン”


 剣に闇と毒を混ぜて敵にかかる重力を増加させるスキルを叩き込み、成功する。


 ここまで来ると最早ルークは的だった。俺は各種Dot(継続ダメージ)を切らさないように付与し続けた。そしてルークは気絶してしまった。


「……ハァハァ……やっと、俺のDot(継続ダメージ)がお前のHot(継続回復)を……上回ったな……」


 ナーシャの方も戦いを終えてこちらに向かってきた。


「どういう手品を使ったか知りませんが、凄いです!60レベルでも勝つことは困難と言われてるのに……」


 そして項垂うなだれている雪奈に声をかけようとしたとき、炎の魔術が俺の前を通過した。炎が来た方を見て悟った。───無理だと


 時間をあまりにも掛けすぎたのだ。総勢100人程の増援がこちらに降伏勧告をする。雪奈は増援の騎士に肩を抱かれながら連れて行かれ、ナーシャも両手を上げて降伏していた。

 俺は念入りに拘束魔術を掛けられ……監獄に護送された。

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