幕間 記憶の欠片3

 雪奈がキスをしていると思った拓真は、雪奈が戻る前にベッドに籠って寝たフリをした。

 雪奈が部屋に入ってきて拓真が毛布を被ってるのを見て近づいてくる。


「兄さん?寝たんですか?」


 雪奈が寝てるか確かめに覗き込んでくる。


「……はぁ。寝たフリですね?兄さんが寝てるか寝てないか、なんて極めた私には簡単にわかります……。じゃあ、私はそろそろ寝ますからね」


 そういって魔道具式のランタンの灯りを雪奈が消す。部屋に静寂がやってくる。

 モヤモヤが晴れない拓真はこのまま眠れないのでは?と思っていたが、ゴブリンキング戦の疲れなのか、ゆっくりと意識が落ちていった。


 そして、あの 夢がまた始まる……。


      ☆      ☆      ☆     ☆


 僕は剛、元の世界を見限ってこちらの世界に移住した異世界人。一応、勇者としてレベルを上げながら各地を回っている。

 聖剣士が僕のジョブだ。強力な光魔法と光属性の聖剣を魔力で生成することができる……はっきりいってかなりのチートだ。そのおかげで実力はすでにSランク冒険者の域に達した。

 そして今日は日課のダンジョン攻略を終えて、設営したキャンプで休憩をしている。


「タケシさん?どうかしましたか?」


 話しかけている銀髪で紅い瞳の美少女、フィリアだ。


「いや、僕は今とても充実してるなって思ってさ」


「フフ、そうですか?私も充実していますよ?」


「おうおう、熱いねえ~俺ほどキャラの濃い男を忘れるなんて……なんちゃらは盲目っていうもんな」


 この人はアルフレッド、アイテムマスターといって一見役に立ちそうにないジョブだが、かなりのチートだ。まず、寿命を限りなく延ばせる、攻撃系アイテムの威力が10倍、生産系スキルをほぼ再現できる……今の僕では絶対に勝てない、なにせ彼は200年前の『元勇者』だからだ。

 じゃあ、彼が倒せばいいかと思ったりもしたが、一度終末の獣を封印すると、彼曰く『勇者属性』が剥奪されるらしい。

 アルフレッドの話によると、それがないと封印も討滅も叶わないようだ。

 ちなみに彼は日本人で、元の世界での名前にコンプレックスがあるからこちらでは”アルフレッド”で通してるようだ。


「おい坊主、今レベルどのくらいだ?」


「今は97ですね。それがどうかしましたか?」


「終末の獣は120あれば封印できる。だが、今回は討滅したほうがいいだろうな。レベル140になったら俺達の手で……完全に倒すぞ」


 倒すという発言にフィリアが驚き、そして言った。


「私はてっきり封印するものとばかり……無理して討滅するより、封印にして次に託した方が安全では?」


「今回オレが寿命延ばしてまで出張ってきてるのには理由があるんだ。そろそろ……女神がヤバイかもしれん。教会の神託の回数も200年前から年6回だったのが今じゃ年3回だ。まぁ偶然かもしれないがな……でもここいらで勇者召喚の風習は終わらせるべきだとオレは思う」


 確かに、それが事実だとしたらいずれ女神が封印を保てなくなる。

 フィリアがアルフレッドに疑問を投げ掛ける。


「どうしてアルフレッドさんは前回封印したんですか?討滅じゃなくて……」


「ああ、やつはとんでもなく強いが頑張れば弱らせるくらいはできる。でもやつには最後の攻撃が効かなかったんだ。属性をいろいろ試したが……結局女神が再封印の準備が完了したと報告が入ってやむ無く封印で手を打ったんだ。……だけどな?あのとき試してない属性がひとつだけあったんだ。それが『光属性』だ。オレのパーティにはそれが使えるやつがいなかったが今回はお前さんがいる……確証はないがもうこれしか手段がないからな。頼んだぞ坊主」


「うう~~責任重大だ……緊張しますよ……」


 フィリアが優しく包み込むように僕の手を握って言った。


「大丈夫ですよ。あなたならきっとできます。根拠がなくてすみません、だけど私とアルフレッドさんも協力しますし、このパーティならいけますよ!」


「あ、ありがとう。その……僕の手汚いから触らない方が……」


「どうしてですか?特に汚れてませんよ?」


「いや……前に……その、真奈美って女の子にそう言われたんだ……」


 未だにあの頃に囚われている……フィリアはそうじゃないって思いたいけど、あの時あの教室で聞いた台詞に今も僕は囚われている……。


「むう~わかりました!じゃあこうです!」


 そう言ってフィリアは僕の指をパクっと咥えて舐めた。


「ほら!全然変な味もしないです!」


「フィリア!?…………君って少し変だね。でも、ありがとう。おかげで心が軽くなったよ」


「フフ……そうですか?あなたには今みたいな笑顔でいて欲しいです。それだけで私は嬉しいです」


 えっ……僕は今笑顔なのか……。


 元の世界で久しく笑ってなかった僕は彼女のおかげで心の底から笑うことができた。そして僕ははっきりとこの時、自覚した。


『僕は彼女が好きだ』っと……。

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