第15話 次への旅路
side 雪奈
あの日以来、兄さんを見ると少し胸が切なくなる。今までの自分を思い出すと自信を持って言える。『行き過ぎた親愛』であると。
でも……あの日、助けに来てくれた兄さんの背中はとても大きくて、全てを任せてもいいと思えるような頼もしいものだった。それからというものの、親愛とは違った何かを感じるようになってしまいました。
そして私は薬を盛られたとはいえ、兄さんに……あ、あのような事をしてしまった……。思い出すだけでも顔から火が出そう……。
あれから中央都市ルクスを目指してひたすら平原を歩いているうちに、私の邪魔をする存在が現れました……。
いつものあれをしようと兄さんが寝た頃に近づくと、黒い猫がシャーッと威嚇してくるのです。
なんですか、この猫は邪魔をするんですか?
兄さんが確か『ルナ』って呼んでた気がします。普段兄さんが何をしてるか考えてルナを攻略する方法を思い付きました。
宿屋のマスターからもらった支援袋の中には、ビスケットが大量に入ってたので餌付けをしてみます。
『ルナちゃん……ビスケットあげるからちょっとどいてくれないかな?』
するとルナがビスケットに釣られて移動を始めたので、そのまま遠くに誘導して少し多目に近くに置きました。
フフフ……チョロいですね。アルとかいうギルマス並みにチョロいです。
兄さんの元にようやく辿り着きました。兄さんの顔を覗き込むと、あのときの光景が思い浮かびます。
ああ、なんだろう……顔が異常に火照って視界が正常でなくなる……。
なんとか動悸を抑えて兄さんのモロー反射を楽しみます。フフフ、久しぶりにこのキュッと握る感触が心に染み渡ります。
兄さんの顔……前よりもたくましく見えたので触れようと手を近づけると、バチッっと半透明な壁に弾かれました。
「キャッ!!」
「ニャーーーー!!」
”魔術障壁”
もう食べ終わったのですか!迂闊です。もっと多目に置くべきでした!この壁、正直物凄く厄介ですね。兄さんから話しには聞いてましたが、兄さんの意思で使えるのはもちろん、寝てる間もあの距離から展開できるとは……。
「……雪奈、何してるんだ。もう遅いから寝ろよ……zzz」
兄さんが眠たそうに私に言ったあと、再び眠りだした。
危うく兄さんにバレるところだった。もっとルナの好感度を上げたら楽になるかもしれませんね。
当面はビスケットによる物量作戦ですか……中央都市についたらこっそり大量に買い占めとかないといけません……はぁ……。
side 拓真
「せいやっ!」
「グギャアッ!」
最後のゴブリンを斬り伏せた。
オズマと別れて数日、中央都市を目指して国道をひたすら歩いていると、たまにゴブリンの集団に出くわすのでこうして討伐している。
それはいいのだが、雪奈がビスケットの管理をすると言い出したのが不思議でならない。
そんなに猫好きだったか?どちらかというと犬派だった気がするんだが。
「兄さん、こちらは倒しました。兄さんも終わったようですね。お疲れさまです。今日はここで夜営をしましょうか……それと汗をかいてるようなのでお体を拭きますね」
雪奈が濡れたタオルを持ってまずは俺の顔を拭こうとすると、バチッ!という音と共に弾かれた。
ん?雪奈が敵認定されてる?なぜだ?
「ルナ、雪奈は敵じゃないぞ?”魔術障壁”を無駄に展開したらいざというとき使えないだろ?安心しろ、雪奈が俺に何かするわけないじゃないか」
「ニャッ!」
ルナが納得してなさそうだが、なんとか承諾したようだ。……ヤレヤレ、これから長い旅になるんだ。仲良くして欲しいものだ。
「雪奈がルナに悪戯したとかじゃないだろう?」
「え?あははははは……そんなわけないじゃないですか」
宿屋のマスターからもらった豪華な簡易テントを設営していざ就寝というその時、雪奈が一緒に寝たいと言ってきた。
「さすがにちょっと恥ずかしいんだけど……」
「……はい。その……昼は暖かいですが、夜は寒いじゃないですか?ダメ……ですか?」
「……はぁ。わかった、こっちに来い」
雪奈が同じ布団に入ってきた。気まずい俺は雪奈と反対方向を向いて寝た。
ルナが視界に入ったがその行動に驚いた。地団駄を踏んでいたのだ……一応猫の外見をしただけの装備だからな。猫がしないような事もするのだろう。
やがて眠気がやってきて、意識が薄れる間際に雪奈の微笑む声が聞こえた気がした……。
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