第13話 救出戦!
side 雪奈
雪奈は暗い部屋のベッドの上で目が覚めた。
……ここは。そうだ。領主の息子に連れていかれて飲み物を飲んだところまでは記憶がある。
雪奈は自身の着衣を確認し、何かされた形跡がないか調べて安堵した。
今のところ何もされてないですね……。でも体が少し痺れてて少し火照ってる……。多分あの飲み物に何か盛られたのか。……はぁ。兄さんをパーティから追い出した罰なのかな。兄さん今頃何してるんだろう……。
雪奈が思案に耽っていると部屋のドアが開き、3人の男達が入ってきた。
2人は恐らく護衛なのだろう。だがもう1人には見覚えがある。ブルックだ。
「おやおや、起きましたか。大丈夫ですよ。寝てる間に何かしても面白くありませんからね。それにワタクシ自身、これでもきちんと仕事がありますので。グフフフフ」
下卑た笑いをする男が後ろの護衛から酒を受け取って飲みながら近づいてくる。体が痺れて動きにくい雪奈は上体を起こしてなんとか距離を取ろうとする。
「あなたは下衆です。こんなことしなければ女性に触れないなんて。男は顔じゃないって言うけれど、あなたに至っては両方最悪です!」
「そう言っていられるのも今のうちですよ。もう気づいているでしょうが、あなたに盛った薬は行動を鈍くするだけの効果じゃありません。特製の媚薬効果もありますので……1時間後にはワタクシに自分から望むようになります……グフフフフ……」
雪奈は確かに体の奥底に燻っている感覚を感じてはいたが、まだ余裕をもって制御できるレベルであった。ただ、それは今後においてはそうであるとはいい難い……。
男が徐々に近づいてくる……。そして雪奈の服のボタンを外し始めた。
兄さん……ごめんなさい!
雪奈はこれから行われる最悪の事態にギュッと目を瞑って堪えた。そのとき、いきなり窓が割れ、服を脱がそうとしてた感触が急に弱まった。
……えっ!兄さん……?
☆ ☆ ☆
side 拓真
俺は夜空を滑空する。それができるのはアベンジャーキャットである『ルナ』をグライダー形態で装備しているからだ。ただ、これはあくまで『滑空』できるだけなので上方向には上昇できない欠点がある。
目的の窓が見えた……俺は剣を前に構えてその窓に突っ込んだ!
パリンッ!という音と共に、勢いのまま雪奈のブラウスに手をかけてる男の腕を斬り飛ばした。鮮血が俺に降りかかる。この世界で初めて人を攻撃した瞬間である。
隣で雪奈が驚いた顔で口をパクパクさせながらこちらを見ている。
「……兄さん?どうして?……ゥゥ……グスン……」
俺は泣き出した雪奈の頭を撫でて、来る途中に買ってきた外套をそっと羽織らせた。
「月並みな台詞だが、もう大丈夫だ。あとは任せろ」
呻きながらドアの方に後退するブルックに向き直る。ブルックを2人の護衛が守ろうと前に出てくる。
「ワタクシの腕がああああああああああ!貴様ッ!何者だ!」
「俺が何者かなんてわかることだろう?復讐者だ。お前が今まで犯してきた全ての被害者から託された『ざまぁ』を成す存在だ!」
俺は
「これでお前は腕を戻せなくなったな?ククク……おっとすまない、この笑いかたはまるで俺の方が悪人だな」
「こ、こんなことしてただで済むと思うなよ!貴様の妹を都市の真ん中で犯してやる!そのまま貧民街に放り込んで慰みものにしてやるッ!グフフフフ、貴様の絶望に染まった顔が楽しみだ」
「それは残念だな。お前はそれを見ることは永遠にできない。なぜならここで確実に俺が殺すからなッ!」
「ヒイッ!……お前たち!コイツを捕らえろ!捕らえることができたらボーナスをやる!」
それを聞いた傭兵は口角を上げて無言で斬りつけてきた。
”自作スキル・空破”
俺はそのまま横にズレるように避けて、闘気を
次に2人目の傭兵が斧を振り下ろしてきたので一歩後ろにズレて避け、土属性を纏った拳を顔面に叩き込んだ。
実を言うと現在のレベルは12で、基本属性は付与できるようになった。戦術の幅も大きく広がったのだ。ただ、スキルの領域に達していない闘気を用いた攻撃には名前を付けないことにした。……単なる俺のこだわりだが。
「誰かッ!ワタクシを助けろッ!」
ブルックが館内に通じるであろう電話のような魔道具でどこかに念話していた。
「あまり時間はかけられないな……安心しろ。1階のお前の傭兵が辿り着くと同時に終わらせてやるから」
俺はまず、ブルックがやめろと手をかざしてる最後の腕を斬り飛ばした。次にうつ伏せになりながら足だけで逃げようとしたので両足を斬り飛ばした。
直接手で触れて毒を付与して持ち上げる。そしてドアを閉め、ドアに寄り掛からせて耳元で囁く。
「お前はこれから自分の雇った傭兵に殺されるんだ。それもお前がさきほど呼んだ傭兵に……な」
閉めたドアの上の方に細工をする。駆け付けた傭兵が無理矢理ドアを開けると、上に設置した俺特製の土でできた丸い玉が落下するように。
”自作スキル・手榴弾”
ここに来る前にそこら辺にある土に、土属性を付与して形状変化を加えて真円の玉にしたのだ。その中に火と風を臨界状態で付与して闘気でコーティング。
つまり
「ブルックさん。俺、冒険者なりたてでさ。自分の剣で直接殺すのに慣れてないんだ。じゃあな!」
雪奈をお姫様抱っこで持ち上げて窓から飛び降りる。同時にグライダー形態に変えてなるべく遠くに着地した。
やっぱり2人じゃ遠くに滑空できないな。
”自作スキル・ホバークラフト”
両足の靴裏に風を付与して高速で移動する。20秒ほどたっただろうか。背後からドゴォンッという爆発音が聞こえ、やつが逝ったことを確認した。
その後、俺たちは当初の予定通り『支援物資』を受け取るために原初の森に到着し、因縁の洞窟に舞い戻った。
雪奈は熱に浮かされてるような表情を浮かべて惚けている。そう言えば、遅効性の媚薬を使ってるとマスターが言ってたな。
俺はマスターの言葉を思いだし、洞窟にの中を調べると……端の方に袋が置いてあった。
この中に雪奈の状態を直す薬もあるはずだ……ん?手紙?
マスターからの手紙が添えられていた。
”タクマ君、ひとまず脱出おめでとう。そして本当にすまない。これからのことだが、中央都市を経由して西方都市にいくといい。あそこは魔術しか興味のない連中がほとんどだ。そのせいか賞金首狙いの冒険者もゼロではないがほとんどいない。あと、知ってるかもしれないが冒険者ギルドは戦闘禁止だ。例外はあるが、いかなる理由があっても……だ。緊急時にはそれも考慮するといい。最後にこれ以上の支援ができないこと、本当にすまなかった。君達の旅に救世神フォルトゥナの祝福があらんことを祈っている。 マスターより”
俺が手紙を読んでいると、雪奈がそっと抱き締めてきた。だが、いつもとちょっと様子が違い、ねっとりとした絡み付くような感じだ。
「にいさぁん……かわいい……ん~」
雪奈がペロリと首筋を舐めて徐々にキスをしながら顔に近づいてくる。
ヤバイッ!童貞の俺には刺激が強すぎる!
俺の唇に触れる寸前になんとか理性を総動員し、雪奈の顔にデコピンで小型”空破”を放ち意識を奪った。
「ふぅ~危なかった~」
「何が危なかったって?まだ全然危ないぜ?坊主」
声に振り返ると、身の丈ほどの大剣を背負った男が洞窟入り口から殺気を放っていた……。
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