幕間 記憶の欠片2

 僕は渡辺わたなべ たけし、高校3年の中頃にいきなり始まった苛めや両親の虐待、それに耐えかねて家をでた。

 目の前で超常現象を引き起こしてる自動ドアに自棄の意味も込めて飛び込んだ。

 気が付くと一面真っ白な部屋にいて、美術館の絵のような金髪の綺麗な女性が目の前に立っていた。


「初めまして、タケシさん」


「え……は、初めまして、ここって何ですか?」


「ここは狭間の世界、信じられないかもしれませんがあなたの知ってる現象に言い直すと『異世界転移』です。しかしながらまだ途中の段階ではありますが……」


「あの異世界転移!?良かったぁ~死後の世界かと思っちゃいましたよ~」


「ふふ、あなたはまだ生きてますよ。では本題を、実はここにあなたがいる理由ですが、端的に申し上げますと……あなたが世界に耐えられなくなったからです」


「確かに、正直もうあの世界にはいたくありません。これが異世界転移ならどんな代償でも払います!元の世界に返さないで下さい!」


 僕は切実に願った。もう嫌だ。あそこに戻ったところで真奈美ちゃんや父さん達から酷い扱いを受けるだけ、もういっそここが死後の世界でもいいくらいだ。


「それほどまでに……世界との決別はとても大変なことですので、まずは私の『お願い』を聞いてからでも遅くはないでしょう?」


「あ、はい。少し興奮しちゃいました。続けて下さい」


「まず異世界であなたにしてほしいことは、『終末の獣』と呼ばれる悪神の封印もしくは討滅です。見事成し遂げた時、あなたに二つの報酬のうちどちらかを選んでもらいます。一つ、ある程度の因果を弄った上で現実世界に帰る。もう一つがそのまま異世界に残り余生を過ごす。このくらいしかできませんが、何か質問はありますか?」


「えーっとそれって、やっぱり途中で死んじゃう確率が高かったりするんですか?」


「場合によってはその可能性もあります。ですが異世界に行ってもらう前にあなたに女神の加護チートを授け、現地では『神子』と呼ばれる私の代行者をサポーターとしてつけるのでかなりの確率で達成できるかと……。200年毎にこちらの人間を異世界に転移していますが、今のところ100%で達成されています。どうかご検討を……」


「いえ、検討するまでもありません。さっきも言いましたが、僕は元の世界に微塵も未練はありません!ぜひこれからもよろしくお願いします!えーっと……」


「あ、そうでしたね。まだ名乗ってませんでした。私の名は『フォルトゥナ』と言います。よろしくお願いしますね」


 こうして僕は綺麗な女神様の加護を受けて異世界に転移した。


───────────────────────────────────


「……きて……きてください……起きてください!」


 ハッ!と目が覚めると銀髪で紅い瞳の少女が僕を見下ろしていた。


「あなたは……?」


「私は今回の勇者様をサポートする『フィリア』といいます。これからよろしくお願いします」


「僕は剛、こちらこそよろしくお願いします」


 とても綺麗だ。だけど……きっとこの子も嫌々ながら僕をサポートするのだろう……。


「起きたか?ふ~ん、今回の勇者はあまり強そうには見えないな」


 黒髪の壮年の男が僕を品定めし始めた。でも、この人は明らかに『日本人』のように見える。僕は本当に異世界に来たのか?また騙されたんじゃ?もう訳がわからない。


「もう、アルフレッドさん。そう言うこと言わないでください。まだレベルも上がってないので仕方ありませんよ……あっこちらは前回の勇者のアルフレッドさんです」


 前回の勇者?そう言えば女神様は何人も送ってきたって言ってたな。確かにこの人、オーラが違う。


「女神から聞いてるだろう?オレもお前と同じ『日本人』だ」


「あ、はい。聞いてます。他にも勇者はいるんですか?確か……200年毎にここに喚ばれるって……あ、もしかして僕騙されてます?200年も人が生きれるわけないじゃないですか」


「いや、生きれる。オレのジョブは『アイテムマスター』エキストラジョブの一つで、生産系スキルすべての再現とアイテムを使用したときの効果が10倍になる加護をもらっている。その中に霊薬作成のスキルがあるからそれで生き永らえている」


 加護チートとんでもない能力じゃないか。僕にもそれがあるのか?


「私のジョブは『神子』アイテムボックス能力と月魔法を少々使えます。タケシさん、ステータスと念じるとご自分の加護がわかりますよ」


 聖剣士、強力な光魔法と光属性の聖剣が使える。そして極めつけが『スキルダメージ半減』これは敵のスキル攻撃を全て半減させる強力なパッシブスキル……これなら女神様の言う通り達成できるかもしれない。

 僕はこの世界でやり直せることに歓喜した。前の世界はあまりにも残酷な世界だった。この世界はとても光に満ちている。


「さあ、タケシさん。私たちはこれから仲間です!世界を救いに行きましょう」


「おいおい、二人だけの世界作ってんじゃねえよ。元勇者としてお前をビシバシ指導するからな!覚悟しとけよ!」


 こうして3人でパーティを組み、世界救済の旅に向かったのであった……。



☆     ☆     ☆



「兄さん、おはようございます。ずいぶんうなされてましたが大丈夫ですか?」


「う~ん、特に酷い夢でもなかった気がするんだがな。もうわすれてしまったよ。それよりも雪奈は今日もゼト達と?」


「……はい。17時には戻りますので……」


「ああ、いってらっしゃい」


 俺は夢の事を忘れて今日も隠れて特訓を始める。今日からアルがいないからとりあえず原初の森でオウルベア相手に色々試す予定だ。


 待ってろよ。もうすぐ完成だ……。そしたらまた雪奈と……。

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