第11話 修行

 あの後、宿に戻ると雪奈が泣きそうな顔をしていた。随分と気を使わせてしまったようだ。気にするなと雪奈の頭を撫でたあと、俺は決意する。


 俺は強くなって雪奈の隣に立つんだ……。そして一緒に帰る道を探す!


 アルは1週間で俺をCランク冒険者と戦える強さにしてくれるとのこと。

 そこから先は自身でスキルを昇華させないといけないらしい。

 今の雪奈とはかなり気まずい状況だが、日常会話くらいはしている。

 隠れての修行なので雪奈が帰ってくる17時までに毎日帰宅して、帰ってきた雪奈と夕食を食べている。



修行1日目


「僕が君に教えるのは知恵を振り絞ることで強くなれるスキルだ。この世界のスキルは女神の祝福の補助を受けて発動している。例えば、十字に斬るスキルがあったとして、それをスキルが無い人が再現すると補助が無いので本職の半分も性能が発揮しない。僕の見つけたスキルなら猿真似でも対抗できるようになる」


「攻撃スキル皆無の印術師で攻撃スキルを作り出すってことだな?」


「そう!人間は寿命が減るだろう?魂の気が徐々に減ってるからなんだ。それは体から滲み出て空気に溶ける。使いもせずただ溶けるだけなんて無駄じゃないか?そう思った僕は体から抜ける気だけを戦闘に用いる手段を習得した」


”闘気解放”


 これを習得するために瞑想を行い、アルが俺に闘気を送り続ける。

 以前、俺と雪奈が気絶しているときにヒールをしながら俺たちに闘気を送ってみたそうだ。結果、俺だけに浸透したので使える可能性があると判断したようだ。

 1時間ほど瞑想を行うと、段々使い方がわかってきた。最初は手を覆うようにしてみた。そしてアルが持ってきた木の棒を手刀のように払うとスパッと綺麗に斬れた。

 この日はここまでで終わった。


 雪奈と食事をし、話しを聞いてみると今日はレベル10まで上がったそうだ。クソッ!差がつき始めてる!……アルには焦るなって言われてたっけか?そうだよな。アルを信じて俺の物語を見せなくちゃな!


2日目


 今日は俺のスキルとの親和性を試してみた。

 手に闘気をまとってそのまま火を付与してみたら出来た!前は体には付与出来なかったので、闘気が物理判定を受けて付与できるようになったみたいだ。

 次に靴の裏に闘気を集中させて風を付与すると、ホバークラフトのように移動することができた。


 スキルとの応用、そして闘気の移動を高速で出来るように訓練したところで終了した。


 雪奈はレベルが12まで上がって、武器屋で和刀という刀を購入したようだ。確か、雪奈のパッシブスキルには刀を装備すると威力が上がるような表記があったな。


 寝る前に、訓練として手に闘気コーティングをして寝たはずなのだが……誰かが俺の手に触れた形跡がある。

 ……なんだ?


3日目


 今日は闘気の移動の練習と魔術の講習を受けた。


「いいかい?大昔は魔術を使うのに詠唱を行い、魔力をチャージして発動してたんだ。何度も使い込むことで、下級魔術程度なら詠唱破棄出来るようになるんだけど……平均1000回使わないといけない。そこで過去の異世界人は魔法陣を人体に登録することで、魔力のチャージだけで発動できるようになったんだ。兵士の育成にこれ程効率的なものはないからね。詠唱は時代と共に廃れていったよ。そこで君には魔法陣を登録せずに、詠唱破棄を習得してもらいたい」


「え?俺4属性あるぞ?4000回しないといけないのか?魔法陣登録した方が早くないか?」


「今どき詠唱なんて、初等部の最初の授業で1回使うだけだろうね。でも実はメリットがある。魔法陣にチャージするとき、魔法陣の色で使う属性がバレるんだ。だから君には対人戦も視野に入れて是非4000回頑張ってくれ!」



 結局、帰るのが21時過ぎてしまった。

 宿に戻ると雪奈が腕を組んで待っていた。


「兄さん!一体どこに行ってたんですか!!兄さんは情報収集に図書館に行くって言ったじゃないですか。なのにどこにもいないとはどういうことですか!」


「あ、悪い。今日はアルさんのところで情報集めてたんだ。あの人って一応ギルマスだろ?何かわからないかな~ってさ。でも雪奈今日普通にどこか行ってなかったか?」


「そうです!せっかくの休みなので兄さんにこの世界のクッキーをプレゼントするつもりで朝から並んで買ってきたんです!……もう、罰として私が食べさせてあげます」


「いいよ。もう大人何だから。さっさと寝ようぜ!」


「わかりました。今回は諦めます!明日の昼にでも食べてくださいね」


 ……ふぅ。冗談じゃないぞ。まぁいい。今日休みだったなら少しは縮まったはずだ。待ってろよ雪奈。


 まただ、闘気コーティングに触れている。雪奈かもしれないが、まさかな。きっと猫だろう。


4日目


「タクマ君ゴメン!今日の昼から出張なんだ。もうだいぶ出来上がってるから午前中で修行終わりってことで……」


「う~ん、そりゃ仕方ないけど。……じゃあ今日は何するんだ?」


「今日は最終試験としてCランク冒険者と戦ってもらう。じゃあモリスンよろしく頼むよ」


「アルさん、こんなFランク相手に戦わんといけないんですかい?印術師だろ?ムリムリ」


 俺は驚いた。何故かって?このモリスンなる男は俺の現実世界の上司にそっくりだからだ。スキンヘッドに細マッチョ、そして眼鏡……。


「おい!お前だよ。おまえ。ボサーっとすんな。昼までにお前が俺に有効打を与えたらお前の勝ちだ。構えろ!ほらいくぞ!」


 偽上司が訓練用の剣を手に突進してくる。

 俺は身体強化を施して迎え撃つ。


「オラッ!普通のやり方じゃ勝てねえぞっと!」


 受け止めた剣ごと吹き飛ばされる。俺は足に闘気を集中して激突を防いだ。

 そして俺は突進してくる偽上司に魔術を放った。


 ”下級魔術・炎弾”


 偽上司は軽々しく剣で叩き消してそのまま俺をまた吹き飛ばした。


「ハハハハ。おもしれえ!お前いいサンドバッグだな。アルさんサンキュウ!ストレス解消になるぜ!」


 俺は何度も何度もぶっ飛ばされる。遊ばれる。そして思い出す……。


『今日からよろしくお願いします!』

『おい、お前だよ!おまえ。新人だろ?勤務時間の2時間前に来て掃除と段取りするのが常識だろ?これだからゆとりは……』

 (払ってくれるんですか?サービス分払ってくれるんですか?)


 俺は同じことを繰り返す、”炎弾” ”水刃” ”炎弾” ”水刃”…………

 そして吹っ飛ばされる。


『お前仕事ができないのによく休憩できるよな?劣ってるんなら休憩時間に進めとけよ!これだからゆとりは……』

 (夏だぞ?水分補給も許さないのか?)


 もう何度繰り返しただろうか。”炎弾” ”水刃” ”炎弾” ”水刃”…………

 吹っ飛ばされる。そうだ。眼鏡を割ってやろう。あれがムカついてたんだ!


『おい!今日からこの仕事をやれ!なんだその目は?』

『この仕事は班長クラスの方がする仕事です。2年目の自分には荷が重すぎます』

『おいおいおいおい!お前今まで何を見てたんだ?いつも先輩のやり方を見て盗めっていってるだろう!ったく、これだからゆとりは……』

(安全第一じゃないのかよ!下手にさせて人が死んだらどうするんだよ!一度もやり方教えないで見てるだけで覚えれるならお前もいらねえよ!)


 そうだ。あの時に俺がいつも言いたかったことをこいつに言うチャンスじゃないか!


「お前やる気あるのか?さっきから同じ魔術の繰り返し、魔法陣なしの詠唱破棄は認めるが所詮は下級魔術だぞ?魔術覚えたての初等部じゃあねえんだからよ」


 ”炎弾” ”水刃” ”炎弾” ”水刃” ”炎弾” ”水刃”…………


「……ったく。これだから新人は『ゆとりは』」


 頭の中でプツンという音がした気がする。

 

 偽上司が上段からの大振りに変わった。

 ああ、言ってやる!言ってやるさ!


「こんな会社やめてやるッ!!!!!!」


”自作スキル・反撃剣リベンジソード


 偽上司の剣が俺の剣に触れる。ガンッ!次の瞬間、剣から爆風が指向性を持って偽上司を襲う!

 偽上司はそのまま壁に激突……だが無情にも偽上司はなんとか立ち上がった。


「そこまで!タクマ君の勝利ッ!」


「待ってくれ!まだ俺は立てる!実践じゃ一撃だけじゃ勝ちじゃない!」


「いや、モリスンの敗けだ。今の自分の状況をよく見たまえ」


 偽上司は剣を持ち上げたがその剣は途中で折れていた。


「え、そんな……」


「君は訓練用の鉄の剣を使っただろう?鉄は急激な温度の変化に弱い。普通にきちんと鍛えた剣ならあの程度の小細工は通用しないけど、その剣は新人鍛冶屋が作った剣だからね。残念だったね。あっ眼鏡、壊れてるよ」


 偽上司は不機嫌さを隠さず乱暴に眼鏡の残骸を拾って立ち去っていった。


「タクマ君、お疲れ様!今日はゆっくり休むといい。それと『カイシャ』ってなんだい?」


「いえ、気合いの言葉の1つと受け取ってもらえれば……今日はもう帰ります……」


 ……はぁ。疲れた。雪奈……俺、強くなったよ。


 拓真は満足感を胸に雪奈のいる宿に帰るのであった……。


反撃剣リベンジソード 

 剣に火と風を付与して闘気でコーティング、中で臨界まで付与され続けたエネルギーが敵の攻撃により、コーティングに穴ができてそこから攻撃された方向に爆発バックドラフトが発生する

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