第10話 初パーティと疎外

 翌朝、お試しでパーティ組むためにギルドに向かっていると、ノアとばったり会ってしまった。


「よぉ。昨日は何か用事でもあったんじゃないのか?」


「昨日はすみませんでした!助けていただいたお礼をきちんとしたいと思って伺ったのですが、お二人がその様な関係だと思わず……ですので今回はお二人にピッタリのアイテムを持ってきました!」


「その様な関係?ピッタリ?ノア君、一体なんの事でしょうか?」


 そう言ってノアは雪奈と内緒話を始めた。


『セツナさんにはこれを差し上げます。マルーラって薬です。悪神との戦いで多くの貴族が亡くなりました。高貴な血の婚姻相手が次第に見つからなくなりました。いよいよ相手が見つからない貴族の最後の手段として用いられる薬です。産まれてくる子供の遺伝子に傷がつかない作用があります。頑張って下さいね!』

『え、ちょ……意味がわからないのですが……』


 ノアは何かを強引に雪奈に渡したあと今度は俺に向き直った。


「アルさんから本を受け取りました。本当にありがとうございます!タクマさんには投げナイフとそれをセットするベルトをプレゼントします」


「おお~ありがとな!これで石投げ師から卒業できるよ」


 俺達は時間近くまで談笑したあと、ノアと別れてギルドに向かった。



    ☆    ☆    ☆



 約束の時間になったので、ギルド1階の広場でゼトのパーティと合流を果たした。


「では改めて紹介するよ。こっちの猫っぽい服のがスズで祈祷師だ」


「は、初めまして!祈祷師のスズです!ヒーラーを担当します。よろしくです」


「こっちの赤いローブが炎術師のメイだ」


「は~い。自分、炎術師のメイです。アタッカーで行くのでよろしく~」


「俺は拓真、印術師だ。多分サポーターでいくことになる」


「私は雪奈です。近接アタッカーだと思います」


「そして俺がゼトだ。タンク担当で騎士だ。一応君達二人はお試しだけどこれからよろしく!」


 こうして俺達はパーティを組んで、まずは小手調べに都市周辺の廃墟に巣食うゴブリン討伐クエストに向かった。


 最初は雪奈もブラッドオウルベアの時のようにオロオロしていたものの、1時間ほど戦った辺りから迷いのない綺麗な戦闘を繰り広げている。

 ゼトが敵を引き付け、炎術師のメイは魔法陣に魔力をチャージし、祈祷師のスズは比較的発動の早い支援攻撃魔術で牽制、雪奈は廃墟の障害物を利用して敵の背後から斬りつけすぐに脱出を繰り返す、増援をチャージの終わったメイが大火力で一掃、俺は……討伐証明となる魔石を拾うだけ。

 そう思っていたがチャンスがやってきた。前衛がうち漏らしたゴブリンがスズに向かっているのだ。

 俺は身体強化を施し、間に割って入った。ゴブリンの棍棒を剣で受け流し、胴体を火を付与した剣で斬る。


 ん?心なしかほんのチョッピリ威力が高い気がする。


 そして俺は油断した。棍棒を持ったゴブリンが魔術で火を放ってきたのだ。現実世界の知識では、魔法を使うゴブリンは大体ローブなり杖なりを装備しているものだと思い込んでいたのだ。その結果直撃し、ドゴォン!という大きな音をあげながら吹っ飛んだ。


「……ッ痛!」


「兄さん!」


 悲壮な顔で雪奈がこちらに駆けてくる。それをゼトが制止する。


「セツナちゃん持ち場を離れてはいけない!スズ!すぐにタクマを引っ張って後退、メイ!チャージの途中でいいから棍棒持ちを迎撃。俺達は今のまま前線を維持する!」


 前線を維持しきったゼトの頑張りで、パーティが崩壊することなく無事に帰還することができた。

 ゼトは『気にするな。誰でも最初は油断する』と言ってくれた。だが、雪奈はあれからずっと俯いたままだ。

 ギルドでクエスト報告を行い、魔石を換金してその日は解散することになった。

 宿に戻るとどこから入り込んだのか、黒い猫がベッドの上でずっとこちらを見ていた。そして夜になり、部屋で黒猫と戯れていると雨が降りだした。


「こっちの世界も雨の色は同じなんだな……。なぁ黒猫、俺今日失敗しちゃったんだよ。戦いってさ、思ってるよりハイテンポなんだよな。ゲームみたいにターン制じゃないんだ。わかってはいたけど、きっとどっかでゲーム感覚だったんだよな……」


 猫相手に独り言を言ってると、どこかに出掛けてた雪奈が帰ってきた。


「兄さんこの猫は?」


「俺が夕方帰ったときには入り込んでたんだ。ついでだから適当に遊んでる。それよりもこんな時間までどこに行ってたんだ?」


 魔石仕掛けの時計を見ると21時を過ぎていた。


「ゼトさんのところに相談に行ってました。その件で兄さんにお話があります」


 雪奈が真剣な佇まいで正面に立ったので俺も黙って聞くことにする。


「兄さんにはパーティを外れてもらいたいと思っています。理由は薄々わかってるかと思いますが……」


「……ゼトは納得したのか?たった1回のミスで外すのはあんまりじゃないか?」


「ミスは誰でもあります。持ち場を離れかけた私のあの時の行動も、パーティを危険に晒すミスです。それとは別の理由です。兄さんはこの世界に来てから何度も前線に立ってそして何度も危ない橋を渡っています。きっとこれからも兄さんならそうするでしょう。ですがここは異世界です!そしてこれから先の戦闘はもっと激化していきます。……兄さん、私兄さんが死ぬのは嫌です!……お願いします。……うぅ……わかってください……グスン……」


 雪奈が泣きながら懇願している。こうなると兄である俺は承諾せざる得ない。


 雨が降ってるからか、ベッドと地面と空気が冷たく感じる。


「俺、元の世界でお前を守ってるつもりだった。だけど結局この世界でも元の世界でも俺は無能な存在で、たった1つの役割ロールすら満足にこなせない。まぁ、元の世界でもきっと俺は絵が描けなくなって似たような末路を辿ったんだと思うよ。雪奈……俺の役割ロールは終わったんだな……」


 俺はそう言い残して部屋を出た。


「兄さん?……兄さん待って!……」


 俺は身体強化を施して一気になりふり構わず走り抜けた。


 あれからどれくらいたっただろうか……冷たい雨が降る中、宛もなく歩き続けている。

 気がついたら都市の外に出てしまったようだ。ゴブリンが1体襲ってくる。

 八つ当たりの意味も込めて斬りかかった。


 お前のせいで!お前がッ!


 避けられ、避けられる。何度も何度も攻撃しても避けられる。

 いくら身体能力で勝っていても、相手はこの世界を生き抜いている猛者。それに比べて俺はつい最近刃物を持ったド素人……生粋の戦闘ジョブでない限り敗北は当然の結果だ。そして……。


 バコッ!という音と共に殴られ、倒れ付した。

 ああ、ここで死ぬのか。俺は諦めたがとどめがなかなか来ない。


「タクマ君、こんなところで寝てたら危ないよ?」


 見上げると、アルが立っていた。首があり得ない方向に曲がったゴブリンを片手で持ちながら……。

 きっと誰かに聞いてもらいたかったのだろう。アルについて行き、ギルドマスターの執務室で今日あったことを説明した。


「ねえ、タクマ君。僕に夢を見せてくれないか?」


「夢?何の?」


「アルフレッドが遺した本のなかに『ライトノベル』って言うのがあったんだ。異世界の本をこちらの言葉に翻訳したやつなんだけどね。その本を僕は小さい頃から何度も読んでてね。本の主人公が最初は最弱だったけど、努力と知恵を振り絞って最強になる物語なんだ」


「つまり俺にどうしろと?」


「今のままでは勇者のような女神の加護チートがない限り、絶対に強くなれない。だから僕は君にオリジナルのスキルを教えてあげる。そして君は僕に……『最弱が最強に至る物語』を最前列で見せて欲しい。簡単だろ?」


 俺はこの時、最強への一歩を踏み出すことになる……。

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