第9話 南方都市国家メルセナリオ
目映い光が消えた後、拓真たちは『メルセナリオ』という都市の入り口に立っていた。次第に目が慣れてきた拓真と雪奈は初めて見るその光景に目を輝かせていた。
街全体は基本的にRPGのような石造りの建物が多く、それでいて拓真たちの世界の影響を受けている部分が細部に見られる。
大通りと思われる道の両サイドに均等に建てられた街灯、基本構造は石でできているが、灯りの部分は魔石がセットされており、電力やガスとは違った不思議な光を灯している。
「へぇ~~思ってたより遥かに近代的だな。俺はもっと暗い感じのを想像してた」
「やることがなくなった勇者様が、自身の世界の知識を用いてこの世界に発展をもたらせた結果ですね。ちなみに僕の養父であるアルフレッドもこの世界に大きく貢献したんですよ」
今すごく大きな情報を聞いた気がするな。ノアはアルフレッドの養子だったのか。ってことは俺も何か魔道具を貰えたりするんだろうか。楽しみだ。
ノアの案内でギルドに向かったあと冒険者登録をして、受付嬢の勧めで属性適性検査を受けた。
俺は基本4属性全て適性有りの反応がでた。
よっしゃ!ついに俺もチートゲットか!!!!
すると受付嬢が俺を叩き落とす発言を繰り出した。
「タクマさん、魔術師系のジョブだったら最高だったのですが……残念でしたね」
「え?俺の魔術師系じゃないの?印術師ですよ?」
「確かに名前上はそうなりますが、一応近接ジョブ扱いです。なので下級魔術までは4属性使えます。それ以上となると、魔術系でないと無理ですね」
ああ、つまりあれか……半端に小技ばかり増えたってわけか。
雪奈は派生属性である氷と基本属性である水だった。一応レアのようだ。
検査のあと、ギルド内にある魔石交換所で査定してもらうと、ブラッド種の魔石なので時間がかかるとのこと。俺達は査定が終わるまで椅子で待ってることにした。
「君達、今日登録した人?俺はゼト、同じく今日登録した冒険者なんだ。良かったら俺達とパーティ組まないか?俺以外にも宿屋で待機してる祈祷師のスズと炎魔術師のメイがいるんだ」
急に話し掛けてきた男は短髪にガッシリとした鎧を着込んでいた。見た感じ『騎士』なんだろう。
俺が思案してる間に雪奈が応対した。
「パーティ勧誘ですか?私は雪奈、こちらは……拓真といいます。少し相談してもよろしいですか?」
そう言って俺と雪奈は顔を寄せて相談した。
『パーティの話し、私は有りだと思うのですが』
『そうは言うが俺達なにもまだわからないぞ?明日ノアの家に行って色々聞いてからでも遅くはないだろう?』
『兄さん、相手は17歳ですよ?年下に助けた恩を使って頼るのはいい気分がしません』
『う~ん、そうか?まぁそういうなら仕方ないか』
「話しはつきました。お試しで構わないなら組ませてもらえませんか?」
「交渉成立!じゃあ、明日ここで待ち合わせな」
俺達は受付嬢からオススメの武器屋と宿屋を教えてもらい、最初に武器屋で武器と防具を買って次に『シルバーブレッド』という宿屋に向かった。
他の高級宿屋と違って勧められた宿屋は、ログハウス然とした木製の作りで1階が受け付け兼、酒場となっていた。
魔石を売った金額が1万Gで武器と防具を買って残りが1000G、一泊100Gなので10日泊まれる計算となる。
通常の宿屋は一泊500Gなので本当に助かった。
俺達は防具屋でサービスしてもらったインナーをトイレで着替えて、新調した武器を手に部屋に集まり、お互いのレベルアップ報告を行った。
園田 拓真 Level 5
ジョブ 印術師 印術をスロットに3つまでセットできる
スキル
付与印術 触れた物体に属性を付与する (毒・火・風New・土New)
補助印術 自身に
紐帯印術 ?
パッシブスキル 剣術 D 印術 B
園田 雪奈 Level 2
ジョブ 剣士
スキル
園田流一之型
園田流二之型 月 雪に繋がる二段目のスキル・満月を模した斬撃
パッシブスキル
剣術〈異〉B 刀装備時攻撃力up
「兄さんは付与が追加で2つ増えたんですね。私は、恐らくこれは連続スキルなのでしょう。2段目が手に入ったようです。こうなると次は『花』だと思います」
「俺の使用用途不明のスキルもあるしな。敵には効果無かったから味方に使う感じかもな」
「私に使ってみます?」
「え、いいのか?効果わからないぞ?」
「もしかすると兄さんの火力不足を補えるスキルかもですし……」
「じゃあ、やるか……」
何があるかわからないから俺は雪奈をベッドに寝かせた。
念のため何かが起きて、暴れだしてはいけないので覆い被さった。
雪奈の初心者用の胸当て、それですら押さえ付けられないほど主張をする胸が呼吸の度に上下する。
「じゃあ、いくよ?」
「はい、兄さん……」
意を決した雪奈がンッという声を漏らし、目を瞑る。
俺はスキルを使用した。
すると、俺の胸から透明に近い帯が伸びて雪奈の胸に溶けるように入っていった。1分ほど繋がっていた俺と雪奈の間にある帯はスッっと完全に透明になって見えなくなった。
”紐帯印術・青”
俺はステータスでスキルが変わったのを確認したが、特に身体的なにかが変わったようには感じなかった。
「雪奈、何か変わった?」
「いえ、特には……」
そのときドアがギィっという音をたてて開いた。
ノアが覗いていたのだ。ノアは唖然としていたが、音がでそうなほど真っ赤になったあと、ドアを乱暴に閉めて逃げていった。
「あいつ、何か用でもあったのか?」
「さあ?それよりも兄さん、そろそろ1階でご飯食べて寝ましょう?」
この宿屋はサービスが良く、夕食だけ無料なのだ。
その後、俺たちは部屋にある2つのベッドで別々に寝た。
ただ、気がかりなのが……いつも目が覚めると近くに雪奈が立って、こちらを見下ろしてることが少し疑問だ。
☆ ☆ ☆
時は遡り、拓真達が転移でメルセナリオに初めて入った時の事……。
拓真たちが門を通るとき、とある一人の門番が連絡用の魔道具で念話をしていた。
『ブルック様!今この街に上玉が入って行きました!行方不明だったノアと黒髪の男女のペアですが女の方はとんでもない上玉ですぜ。どうしますか?』
『おお~~そうか!そうか!前回のはガキができて壊れやがったからな。そろそろ新しい女が必要だったんだ。グフフフフフ……とりあえず一週間ひたすら尾行して情報を集めろ!今回はじっくり落としてやるぞ……』
『了解しました!ですが……領主様から釘を刺されたはずでは?』
『親父は俺に甘いから心配しなくても大丈夫大丈夫!お前には普通の門番より多く給料を支払ってるだろ?つべこべ言わずに俺の言う通りにしていればいいのだよ!』
『失礼しました!では指示の通りに致します』
……俺は一体何をやってるんだ……門番の職に就いたときはあんなに街の平和を守るんだって息巻いてたのに、気づいたら街を汚染している。あの女性には悪いが……俺にも妻子がいるんだ。恨むなら領主のバカ息子を恨むんだな。
都市にたどり着いた拓真たちは、魔物だけではなく人もまた驚異だということに気付くのはもう少し先の事であった……。
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