第8話 境界での激戦
洞窟を抜けるとそこに広がっている光景に驚いた。数キロ先のちょうど地図の境目。竜巻の壁が1列に地図の線をなぞるように並んでいる。
「アルさん、これはいったい?」
「あれは世界の果て、境界線と言われてる。一応あれから先に世界は続いているけど、あれ以降も色々突破が難しい問題があるんだよ。そして世界を囲うように災害が並んでいるんだ。さながら”神の箱庭”のようだね」
「じゃあつまりノアはこれを越えるのが夢ってわけか。まぁロマンだよな~」
「世界の境界はここが一番難易度が低いってのもあるんだよ。西方の境界は炎の壁だった気がする。北方はそもそも勇者が封印してるから立ち入れないし、東方は雷の壁だったね」
炎も雷も風に比べたら圧倒的に難易度が高いな。俺達が帰る方法の一つとして考えておこう。
探索を行ってる時、竜巻の方角からドォン!という音が聞こえた。
「今の音は……そうか!音のした方角にノア君がいるかもしれない!ノア君の武器の攻撃音によく似ている!」
音の方向に向かった俺達は赤くて巨大なオウルベアを発見した。
俺達の対面側にアルさんが言ってた小柄な赤毛の少年がいる。ちょうど俺達を挟んで向こう側にいる構図だ。
少年は棒状の杖をブラッドオウルベアに向けている。
「ノア君!助けに来たよ!すぐに終わらせるから待ってて!」
「アルさん!きちゃダメだ!これは罠です!」
ノアがそう言うと同時に右方向から黒い槍が飛んできた!
それをノアさんが剣で打ち払い、投げナイフを攻撃が飛んできた方向に投げた!するとシュボッという音と共に投げナイフが突如黒い炎となって消えた。
「味方かもしれないのにいきなり攻撃とは……怖いですねぇ~クククク」
現れたのは浅黒い肌の黒い翼が生えた男だった。
「……すまないが僕はあの魔族と戦わなくてはいけなくなった。厳しいとは思うが僕が来るまで耐えてくれ。すぐに終わらせて戻ってくるから……”イルミナス”!!」
アルさんは剣を水平に構えると、突如剣が光輝き始めた。そして敵にそのまま強力な刺突を繰り出した。
「ほぉ……さすがはメルセナリオのアルですねッ!相手にとって不足なし!”ブラッディ・ソード”!」
アルの攻撃を敵は闇の剣で受け止めたが、アルの強烈過ぎる攻撃に押し込まれながら森の奥深くに二人とも消えていった。
「グルルルルル……」
『ステータス』”ブラッドオウルベア・ランクC”
俺達は冒険者じゃないから現状ランクF以下ってとこだろう。頼みの綱はあのノアとかいう少年だ。アルは多少できるとか言ってたが……どうなんだろうか。
一方、ブラッドオウルベアの方は未だノアと対峙したまま動かない。
いつこの均衡が崩れるかわからない緊張感が走る。
「に、兄さん!私が前衛をします!あの子をお願いします!」
「わかった……無理はするなよ」
俺は身体強化を自身に施して刺激しないように回り込んだ。
雪奈が魔物の背後から抜刀の構えのまま徐々に間合いを詰めていく……。
だが、時間はそうそう待ってくれず……ブラッドオウルベアがノアに向けて大きな爪を振り下ろした!
「攻撃が単調ですよッ!”フラム”」
ノアはそのまま横っ飛びに避けた後、棒をブラッドオウルベアにぶち当てた!ドゴォンっという音と共に爆発が発生しブラッドオウルベアは体勢を崩した。
そうか、俺達が聞いた音はノアのあの武器の音か。見た感じだと、棒の先端を敵に叩きつけると先端が所有者を巻き込まないギリギリの小爆発を引き起こすってところか。
雪奈はその隙を見逃す訳もなく、すかさず攻撃を仕掛けた。
「はぁッ!”園田流剣術一之型・
辺りを小さな雪が舞い始め、敵の首を切断せんと氷を纏った白刃が迫る。しかしそれは魔物の振り払いにより弾かれて軌道を変えた……。
「そ、そんな……」
「雪奈!下がれ!」
いつも常勝の雪奈は基本的に不測の事態に弱い、俺は誰よりも速く踏み出し、雪奈に追撃をしようとする敵の爪を剣の腹で受け止めようと間に割って入った!
ガヒンッ!という音と共に俺は勢いよく近くの木に背中を打ち付けた!
一体何回目だよ!木に背中を打ち付けるの!次くらったらマジでヤバイかもしれない!
「ぐ……雪奈大丈夫か?」
「兄さん!兄さん!……」
雪奈が泣きながらを俺の方に駆けてくる。敵は当然その後ろを追いかけてくる……俺は補助印術・治癒をスロットにはめて次に毒もセット…そして指示を出す。
「ノア!フラムで足を狙え!」
「わ、わかりました!”フラム”!!」
ノアのフラムは敵の足を引っ掻ける要領で繰り出され、敵の足が爆発!敵は盛大に転倒した!
「雪奈!今だ!」
「……わかりました!”園田流剣術一之型・雪”!」
雪奈の放った白刃は見事に敵の右腕を切り裂いた。追撃で俺も敵の顔面を殴った。だが、敵もブラッド種だけあってすぐに体勢を整え始めた。
「助けに来てくれてありがとうございます!あなた方は?」
「アルさんの仲間だ。とりあえずアレをどうにかしないと息つくこともできない。ちなみにそのフラム何発当てた?」
「え?あなた達が来る前から計算すると10回以上は当ててます。だけど外皮が厚いのかふらつかせるだけで精一杯です」
なるほど、打撃や爆発に耐性があるのか。一応身体強化してる俺が殴ってもあまり効いてない感じだったしな。つまり
「とりあえず、出方をみるしかないな。俺か雪奈が狙われたらさっきの要領でフラムを使って横槍を入れてくれ、雪奈は隙が出来しだい斬り飛ばせ」
体勢を整えた敵は再び攻撃を開始した。次の標的は俺らしい、敵の攻撃が俺に迫る……俺はギリギリで避けつつ敵の足を殴りつけ、すぐに後退した。
「兄さん、なんで剣を使わないんですか!」
「俺の攻撃じゃどっちみちかすり傷しかつけられねえよ」
剣を使わない俺が不思議なんだろうな。だがそろそろ効いてくる頃合いだ。
「グルルルルルルル……!」
敵も気づいたようだな、俺からのプレゼントに……。
「兄さん!ブラッドオウルベアがふらつき始めました!」
次の突進が運命の分かれ道だな。俺は地面の石ころを拾って火を付与した。
……俺この世界きてから石ばっかり投げてるな。
「くらいやがれッ!」
敵に全力投擲された石は見事顔面に当たったが傷ひとつ付けられなかった。
だが、これで奴の怒りは俺から離れることはなくなった。
ズシンズシンと進んでくるが、先程とは違って速度があまりにも遅い、となると指示がなくとも二人は自然と動き出す。
”フラム”! ”園田流剣術一之型・雪”!
雪奈に斬られ、ノアに爆破され、魔物はそれでも立ち上がろうとする。
俺は身体強化を施した全力の飛び蹴りを放ち、魔物を境界の竜巻に押し込んだ。
ブラッドオウルベアは竜巻の中で肉を飛び散らせて絶命した……。
「おいおいおい!アレ!ただの竜巻じゃないのか?これなら炎の壁のがマシじゃないのか?」
雪奈が耳打ちしてきた。
『私、この先を突破したら帰れるんじゃないかって思ってました……ですが』
『ああ、これはヤバイ。ただの風で今まで誰も踏破できなかった理由がこれか』
「境界のことですか?これはただの風じゃないですよ~中には真空の刃が無数に飛び交ってます。それでもここが一番楽なのは一応過去にこの壁を越えた人がいるからです。封印が終わってやることがなくなった勇者様が風の大魔術で一時的に相殺しましたからね。まぁその先も毒沼やら障気やらで結局みんな諦めましたが……」
絶望的な話しに目眩を起こしながら下を見ると真っ赤な拳くらいの大きさの石が転がっていた。手に持ってみると恐ろしく軽く感じた。
2度目になる俺達の偽の境遇をノアに話したあと、この石について聞いてみた。……妹よ。ジト目で見てくれるな。
「なるほど、それでこの森に……両親のこと、お悔やみ申し上げます。それで石についてですが、これは『魔石』と言われています。討伐証明と戦利品として売買することを主として使われていますね。今回僕は助けていただいた身ですのでタクマさんたちが貰ってください」
おお~彼はなんていい子なんだ。隣でコンコン小突いてくる妹よりいい子かも……。
その後、俺達はノアの魔道具を使ってアルと連絡を取った。
アルの話しによると敵を途中で逃したため現在こちらに向かってるそうだ。
先に帰ってていいとのことなのでノアの魔道具で一足先にメルセナリオに移動することにした。
俺達にとって初めて人が大勢いる場所に行くことになる。南方都市国家メルセナリオ……期待に胸踊らせながら俺と雪奈は転移した。
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