第4話 お説教!

 俺は今正座をさせられている。お説教の時間だ。

 何故かというと、独断で戦闘を行い、死にかけたからだ。

 ───多分、認めたくなかったんだと思う。自身の無力さを……。


「兄さん、どうして1人で戦ったんですか?私……兄さんが死ぬかもって恐かったんですよ!……ぐすん……」


 雪奈は悲痛な顔で俺に訴えかける。意地を張ってる場合じゃなかった。妹を泣かせる事こそやっちゃいけないことだった。

 俺は素直に謝る。


「雪奈に危険が及ぶかもって思ったんだ……悪かった」


「ああいうときは……私のところに突入して良いんですよ?き、気にしませんから!」


 つまるところ水浴び中でも緊急時は助けを求めに行った方がいいと雪奈は仰っている。「できるか!」っと先ほど失敗した俺が言えるわけもなく、認めたくはないが……承諾するしかないだろう。


「分かったよ」


 お互いに納得したところで、雪奈が近くの丸太に腰を掛けて手招きしてきた。


「兄さん、こっちに来てください」


 呼ばれたので正面に立つといきなり雪奈に抱きしめられた。俺は雪奈の胸の中で目を閉じ、頭を撫でられた。いきなりのことで少し驚いたが、精神的に少し弱っていた俺はこの温もりに安心感を感じて眠ってしまいそうになった。

 ただ怒るだけでなく、慰めてくれるこの心優しい女性が妹であることがとても惜しく感じる。


「兄さんが居なくなったら私はこの世界で独りぼっちになってしまいます。私を独りにしないで下さいよ?」


「ああ……悪かった。もう少しだけこのままでいいか?」


「えへへ、甘えん坊さんですね……どうぞ、もっと引っ付いてくださいな♪」


 それから5分ほどたった頃、抱擁に微睡みかけていると俺はあることに気がついた。


 ん?俺の顔に何か硬いものが当たってるぞ?……それが口にフィットするように収まったため、口をモゴモゴさせてどかそうとしてみた。


「ン……アッ!……アアン!」


 急に艶っぽい声が聞こえたので俺はすぐに退いた。

 雪奈は顔を赤く染めて俯いている。そこでようやくがなんだったのか理解した。


「に、兄さん……そう言うのは、妹にしていけませんよ?」


「わ、悪い!だけど何で着けてないんだよ!」


「さっきの魔物の声が聞こえたのですぐに着れるものだけ着て来たんです。じゃ、兄さん続き───もう良いんですか?」


 少しだけ照れながら雪奈が両手を広げた。


 の、のーぶら?……それにもういいのかって、それを知ってなお抱き着けるわけないだろ!


「い、いや……もういいよ。それより次は俺が体を洗う番だろ?行ってくるから、雪奈もきちんと服着ろよな」


「はい、いってらっしゃい」


 その後、気まずさを抱えつつも体を洗った後、俺達は再び洞窟に戻ってそれぞれ過ごしていた。雪奈は焚き火をしたいらしく、洞窟周辺で枯れ木を集めている。

 俺は特にすること無いし、外出は雪奈を困らせることになると思うのでステータスの確認でもしてみた。


園田 拓真 Level 2


ジョブ 印術師 印術をスロットに3つまでセットできる


スキル 

付与印術 触れた物体に属性を付与する (毒New・火)

補助印術 自身に補助バフ効果を付与する (身体強化・治癒)

紐帯印術エンゲージライン ?


パッシブスキル 剣術 D 印術 B


 おっ!レベルが上がってる!しかも新しいスキルも増えてる!


 試しに近くの枝を手に持って毒を付与してみた。少しずつ朽ち果ててボロボロに壊れてしまった。どうやら生物限定じゃないようだ。剣に毒を付与すると武器がすぐに壊れてしまいそうなので、やはり敵に触れて使うしかないかもしれない。

 そして未だ解明されていない未知のスキル紐帯印術エンゲージライン……敵に効果がなかったと言うことは恐らく自身へのバフか味方へのバフだろう。効果説明が記載されてない以上慎重に使う必要があるな。


 その後、拓真は夕食の時間まで毒について色々と試し、強度や効果範囲を徹底的に調べた。


  ☆      ☆      ☆


 その日の夕食、荷馬車から頂いたパンを食べたあと、焚き火にあたりながら今後の戦いかたについて改めて話し合った。


「では私と兄さんの考えを盛り込むと、私が最初に攻めます。そして兄さんが次に攻めます──といった具合に交互にスイッチしていきましょう!」


 雪奈、妥協案を考えてくれるなんて……良いお嫁さんになれそうだ。いっときやるつもりはないがな!


「兄さん?どうかしましたか?」


「俺の顔を立ててくれる妹の器量の良さにジーンときてたところだ」


「え!それほどでもないですよ~照れちゃいます……」


 たまに陰でニヤニヤしてたりと変なところはあるが、ホントに可愛い妹だよな~~


「そういえば、俺はレベルが1上がって毒を付与できるようになったけど、雪奈は何か増えた?」


「レベルが1上がりましたよ。それとほんの少しだけ身体能力も上がってる気がします」


園田 雪奈 Level 2


ジョブ 剣士   


スキル 

園田流一之型 せつ 氷雪属性の斬撃を高速で放つ抜刀術


パッシブスキル 

剣術〈異〉B 刀装備時攻撃力up



「新しいスキルが増えた兄さんが羨ましいです。私もスキル欲しいな~できれば抜刀系じゃなくて、剣から光が出るようなのが良かったです……」


 気にしないようにしてたけど、雪奈ってゲームの用語をよく知ってるよな?例えば──盗賊プレイとか。スキルは、まぁ予想はつくだろうけど……それにしても自然に使いこなしてるような気がするんだよな……。


 別に減るもんでもないし、と思った拓真は率直に聞いてみた。


「……そう言えばさあ、なんかスキルとか戦い方とかやけに詳しくない?」


「え、そうでしょうか?気のせいでは?」


 ん?今少し動揺しなかったか?


「スキルとかは言葉からなんとなく予想はつきそうだが、前衛とか中衛とか一般的教育過程で使うか?」


「あ、いや……え~っと、友達がゲームやっててそれで少しわかってました」


 を確認した俺は聞いてはいけない予感を感じつつも聞いてしまった。


「荷馬車から物資を調達するときって言ってたよな?自由度の高いオープンワールドで使うような単語だぞ?……まぁ気づいてるかわからないけど、雪奈が嘘つくとき『あ、いや』って言いながら髪を弄るだろ?そこから俺が予想するに……俺の部屋に入ったことあるだろ?」


 そう言うと、雪奈が髪を弄りかけハッと気づいて手を後ろで組みはじめた。

 雪奈は真面目で嘘が苦手だからな~それでいて今の仕草はちょっといじめたくなる。


「あぅ……そ、その……兄さんが夜勤でいないときに兄さんの部屋でゲームしたり、小説読んだりしてました。……ごめんなさぃ」


「別に悪くはないさ。ちなみに……ゲームと小説、アニメだけだよな?」


 はUSBメモリに保存して、パスも念入りにかけて巧妙に隠してるから恐らく見つけてないはず。帰ってきたときも特に違和感を感じなかったし……。


「本当に申し訳なくて言いにくいのですが……パスワードを『名字+1234』で統一するのはちょっとわかりやすいですよ?」


 な……んだ…と。男が守るべきあれがバレてることに……?


 俺はこの日、人生最大のクリティカルヒットをもらうのだった。

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