第5話 現状確認!

 性癖が暴かれてた事にショックを受けていると、雪奈がそっと近くに寄って来て手をギュゥと握った。


「兄さん……妹モノが少し多いようですが、兄さんならきっと素敵なが見つかりますよ」 


 そう言って励ましてくれた。グサッ!っと止めを刺されたかのように俺は倒れ伏した。


「雪奈は良いよな、雪奈は告白されて……」


 しまった……。俺は若干シスコンが入っている。だからこそ避けてきた話題だと言うのに。


「前にもいった通り、告白を断る事は確定してます。それに彼氏とかより兄さんの隣が落ち着くって気づきましたしね……」


「恋愛ってそんな割り切った感じで良いのか?それとも俺が幻想を抱きすぎてる?」


「いえ!兄さんは純粋なままで居てください!……その方が可愛いし……」


 最後の台詞は聞こえなかったが、果たして俺に彼女なんて出来るのだろうか。


 にしてもうちの妹は身内目線かも知れないが、性格もスタイルも高水準だ。なんの不満があったって言うんだ?


「その……俺に彼女が出来たら、どう思う?」


「──は?……コホン!まずは会わせてください、そして品定めします。ダメな方でしたら、社会的に抹殺します」


「冗談……だよな?」


「え?も、もちろん例えの話しですよ!あははは……」


「……はぁ。お前みたいな黒髪ロングでスタイル良い女いないかなぁ~」


 ハッ!何言ってんだ俺……あくまでもそんな女がいたらって話しなのに、妹相手に語ってしまった。雪奈は余程驚いたのか目を見開いて口に手を当てている。


「に、兄さん。あまり恥ずかしいこと言わないで下さい……どう反応したらいいか困ります」


「兄として!あくまでもそんな女がいたらって言うただの……そう!例え話しだ!」


 き、気まずい……。話題変えないと持たないぞ。


「そう言えば、告白を保留してるって言ってたがお盆前に会わなかったのか?」


「次の日から忙しくなったので返事が中々出来ませんでした……こんなことになるなら、きちんと断ってから帰省すべきでした」


「モテる女は良いよなぁ……もういっそ雪奈で良い気がしてきた」


「兄さん結構優しいですし、妹じゃなかったら好きになってたかも」


「ハハハハッ……言ってろ」


 こうして軽口を叩き合い、夕陽が空を染め始めた頃、俺のお腹がぐ~っと鳴り始めた。

 ご飯にしようと食べ物の入った袋を見た雪奈は、少し不安な顔で中身について話をした。


「兄さん、節約しても後数日分しかありませんよ?どうしましょう?」


「さっき倒した熊みたいなのって食べられないかな?雪奈のスキルで若干まだ凍ってるし。俺のスキルでしっかり火を通せば食べられる気がする」


「そうですね!そろそろお肉も食べたいです!」


「だ・け・ど、先に食べるのは俺だからな?」


「兄の特権ですか!?」


「違う違う、毒味だ。こんな未知の食べ物、安全を確認しないといけないだろう?」


 雪奈はむぅーっと膨れてるが、これだけは譲れない。大事な妹が毒で死んだらどうするんだ?俺には補助印術の治癒があるから耐えられると思うしな。


「釈然としませんが、わかりましたよ……」


「聞き分けてくれて、ありがとな。お前は俺にとって大切な妹だから守りたいって気持ち、わかってくれると嬉しい」


「えへへ……兄さんの気持ち、伝わってますよ。いつも気にかけてくれて、ありがとうございます!」


「それはそうと、その『説明書』にこの熊の名前とか載ってないか?」


 パラパラと本をめくっていた手が止まり、雪奈が答えた。


「えーっと……ありました!ステータスを敵に使うと名前がわかるそうですよ?」


 雪奈の言う通りに使ってみると、敵の名前は『オウルベア 』と言うらしい。

 ランクがあるらしいが、ギルドで聞かないとわからないそうだ。ステータスに表示されないとは不便だよな。

 ───まだまだ序盤だ。レベルが上がれば俺でも倒せるようになるさ!


 さて、名前がわかったところで食べられるかどうかわからないが、早速調理することにした。


「よし、じゃあ雪奈が細かく切り刻んで俺が一応ちょっと焼きすぎってレベルまで火を通す、これで良いか?」


「わかりました!ではいきますっ!」


 雪奈のスキルを改めて近くで見るととても美しい。抜刀の構えの段階で鞘から若干冷気が吹き出ており、そこから刃を流れるように抜くと辺りを一陣の冷気が包み込み、白い雪が降り始める。

 俺の役目は切り分けられた肉を剣で突き刺し、ひたすら火を付与し続けることだ。

 そして全ての肉が切り分けられ、予定通り俺が先に食べるべく肉の前に正面から向き合って鎮座した。雪奈が背後に回ってくる。


「兄さん、すぐに吐けるように後ろでスタンバイしておきますね!」


「ちょっと待った!なんか介錯されるようで落ち着かないんだが」


「兄さんが意地を通したんです。だったら私も紅葉もみじを久しぶりにさせてください」


「おいおい、叩く気満々じゃねえか!……意地でも喰ってやる!」


 試食してみた結果……お腹は壊さなかったものの味がほとんど無く、ゴムを食べてるような感じで何回も吐きそうになった。

 続けて雪奈も食べるが、同じくとても美味しそうに食べてるようには見えなかった。経済成長を遂げ、食に溢れた世界で生きてきた俺達にはこれを続けるのが困難に思えてならない。


「なぁ……その本に美味しい魔物とか紹介されてないのか?これが続くとさすがにメンタルに支障がでそうなんだが」


 雪奈も危機を感じているのだろう。血眼になってページを捲り、目当ての記述を探している。


「兄さん!ありました!えーっと、サバイバル術の欄に『ドゥードゥー』という小さな鳥型の魔物が絶品と記載されていますね」


「じゃあ明日はそいつを倒そう。それと、そろそろ森をでようと思うんだが……いいか?」


「私、ふっかふかのベッドで寝たいので賛成です!ドゥードゥー倒したらすぐに出ましょう!街に着けば冒険者にだってなれると思いますし!」


 そうだな……異世界と言えば冒険者だもんな。ただ心配事と言えば、雪奈はよく人を信じてしまう。さすがにもう子供じゃないから明らかに悪いやつは信じないが、善人のフリした悪人は果たしてそうだろうか……。


 実を言うと雪奈が県外で独り暮らしする少し前まであいつは詐欺メールにすら真面目に返信してた程なのだ。

 雪奈に相談されて発覚したのだが、あれが一通目でマジで助かった。こちらの情報を与える前に止めれたから良かったものの、かなり心配だ。


 俺はこの世界が善意で出来てることを願いつつ、明日に備えて休むのだった……。

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