幕間 記憶の欠片1

拓真は最近夢を見る。とても酷い夢だ。しかし起きるとほとんど忘れている……。

いつもいつも思い出さなくてはと思いながらもそれすら忘れる。


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 僕は渡辺わたなべ たけし、高校3年の中盤ごろにいきなり告白された。

 相手は学級委員の福留ふくとめ 真奈美まなみちゃん、ほとんど話した事はなかったけど、成績も容姿も底辺な僕はとても嬉しかった。

 きっとこれから一生独身だと覚悟してたが、僕はものすごく幸運らしい。この幸運を与えてくださった神様には感謝してもしきれないよ。


1日目

「真奈美ちゃん、一緒に帰ろう?」


「うん!いいよ!ちょっと用事があるから下駄箱の所で待っててね!」


 僕は真奈美ちゃんとこの日は一緒に下校した。祝初下校!


2日目

「真奈美ちゃん、一緒にお昼なんて……どうかな?」


「え、うん!いいよ!じゃあ少ししたら行くから先に屋上で待っててね!」


 僕は真奈美ちゃんとこの日は一緒に昼御飯を食べた!祝初ご飯!


3日目

「真奈美ちゃん、今日の放課後カラオケでも行かない?」


「う、うん。いいよ。じゃあ放課後ちょっと先生に頼まれごとされてるからそれが終わったら行くから待っててね」


 僕は真奈美ちゃんとこの日はカラオケで一緒に歌った! 祝初カラオケ!


4日目

「真奈美ちゃん、今日僕の家で遊ばない?」


「え、え~と、今日は家族で外食するから行けないの。ごめんね!」


 家族で外食か……いつか家族に紹介してもらえるかな。


5日目

 僕は放課後一緒に帰ろうかと思い、後ろから脅かそうとこっそり教室に近付くと、教室から真奈美ちゃんの声が聞こえてきた。


「1週間とかそろそろ無理なんだけど」


 お、真奈美ちゃんの声が聞こえた。真奈美ちゃんは声が綺麗だからよく聞こえる。


「もうちょい頑張ってよ!この間カラオケで負けたじゃん」


「でもぉ~罰ゲームとはいえ1週間あんなキモいのと付き合うのマジで辛いんだけど」


 えっ……聞き間違いだよね?


「いやだってさ、一緒に帰った時なんかずっとアニメの話ばかりするんだよ?耐えられないよ」


「うわマジでキモw」


 どうしてそんな事言うの?楽しそうに笑ってたのに……。


 僕は入り口の側で震えてそれを聞いていた。


「昼休みの時とか本当は彼氏と食べたかったのに、あんなのと向かい合って食べるとどんな料理も不味くなるね」


「あんた真面目そうで結構キツいこというねw イケメン先輩は剛と罰ゲームしてるの知ってるの?」


「うん、知ってる知ってる。最終日に振るとき、影で動画撮らせてって言ってたよ。真面目キャラは結構得するよ?あんたもやってみ?お蔭でイケメン彼氏に出逢えたし」


 間違いだよね?そんなはずないよね?えっ彼氏?なんで……。


「そういえば手を繋いだんだけど、家帰ったらすぐ40分くらいかけて洗ったよ。もう手が汗でベトベト!マジ最悪」


「あはは、まじ受けるw 」


 僕は目の前が真っ白になった。全てがどうでもよくなってきた。

 気付くと僕は帰り道を歩いていた。スマホには真奈美ちゃんから着信とメッセージが着てたので僕は返信した。


真奈美 : 剛君今日は一緒に帰らないの?


剛   : 真奈美ちゃんの手を汚したり、彼氏との昼食の時間奪ったりして今までゴメン


真奈美 : 聞いてたんだ。じゃあ今まで良い夢見れたでしょ?あ、それから明日から面白いこと起きるから楽しみにしてて、じゃあサヨウナラ


 メンバーがいません、という文字と共に僕の涙は決壊した。

 

 翌朝学校に来てみると僕の机の上に花瓶が置かれていた。それもきちんと花までついて。僕が座ろうとすると椅子を引かれて尻餅をついてしまった。周りのみんなはそんな僕を見てゲラゲラと笑っていた。

 僕は学校に居たくなくなって帰ろうとしたとき、下駄箱に入れた靴がズタズタに引き裂かれていた。上靴のまま無断で下校して部屋に閉じ籠った。

 

 告白の日から全て仕組まれていたとはいえ何故?という疑問が頭の中を埋め尽くした。

 6日よりも前は特にそんな兆候も無かったはず、何故か急に僕が選ばれてしまった理由がわからない。イジメって得てしてそんなものなのだろうか?


 夕方父さんが帰ってくるといきなり殴られた。


「お前無断で下校したんだってな?会社に連絡が来たぞ!お前をそんな奴に育てた覚えは無いんだがな!それに付き合ってる彼女がいるのに浮気してたって相手の親御さんから怒鳴られたぞ!お前が俺の子供だったせいで俺は惨めな思いをしたんだ!」


 僕はひたすら殴られた。バキバキと僕の世界がひび割れて歪な何かに変わっていく。


 やがてスッキリしたのか父さんは自室に帰っていった。時計を見ると21時、テーブルにご飯が作られていた。きっと母さんが作ってくれたのだろう。 

 しかし、作ってある焼き飯には皿がなかった。テーブルの上に直に焼き飯が置かれていたのだ。

 僕はテーブルの焼き飯を食べた後、家を出た。

 この世界は僕のいるべき世界じゃない。宛もなく歩いていると僕はあるものに気付いて立ち止まっていた。


コンビニの自動ドアが開いたままで、尚且つドアの向こうは真っ黒で先が見えない。


 きっとこの先が僕のなんだ!


 僕はこの日、世界から居なくなった。

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