25. 嵐の前の
「しずかちゃん、のどかくん」
と、帰りぎわにおばさんがわたしたちを呼んだ。
「またニオと仲よくしてね。この子ときどき頭がおかしいけど、大目に見てあげて」
「お母さん!?」
ニオが叫ぶ。
「はい。ニオがときどき頭おかしいのは知ってますけど、そんなところも大好きです!」
「しーちゃん!?」
ニオが涙目になる。
「ニオはいいお友だちを持って幸せね」
おばさんに頭をなでられたニオは、納得いかないという表情で「うーん?」とうなった。
「じゃあ、おじゃましました」
と店のドアを開けると、猛烈な風が吹きこんできた。
いつの間にか外が暗くなっている。
見上げると、空は黒くて厚い雲におおわれている。
何だろう。何となく嫌な予感がする。
「思ったよりひどくなりそう。二人とも気をつけてね」
「はい。ごちそうさまでした」
と、おばさんにおじぎをして店を出る。
ニオは「そこまで見送るよ」とわたしたちと一緒に駐車場に出た。
「何か台風の前みたいね」
「漁師さんの言ってたとおりだね」
不安そうに空を見上げるニオ。
と、いきなり突風が吹いた。
「きゃっ」
駐車場の樹が大きくゆれて、折れた枝がとぶ。
「危ない!」
のどかがニオを引っぱる。
折れた枝は、ちょうどニオが立っていたところをとんでいった。
「だいじょうぶ!?」
あわてて駆けよる。
枝はかなり大きく、一メートル近くはあった。
もし今、あれが当たっていたら……。
ニオは目を見開き、くちびるをふるわせている。
もしかして、さっき言ってた不運ってこういうことなの?
「ニオ、恥ずかしいからさ」
のどかの服を握りしめていたニオが、はっと飛びのいた。
「ごごごごごめんね! そうだよねわたしのようなわき役が抱きつくとか身のほどを死ねっていうかもう二度と腹を切れって感じだよね!?」
「のんちゃんはやめてほしいな」
「そっち!?」
「のんちゃんって呼び方、女の子みたいだから」
「へえ。のどかもそういうの気にするんだ」
「もう六年生になるしね」
ニオはわたしたちの会話をよそに、一人でぶつぶつとつぶやいている。
「……どう呼んだらいいのかな。のんさん、のどくん、どかちゃん、のどっち、どかのん、のどかさま……」
そしてとうとう手を合わせてのどかを拝み始めた。
ニオはすごいな。
頭の中で何が起きているのか、わたしにはさっぱりわからないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます