19. みずうみ
「景色すごいね。ほら、向こう岸の山まで見える」
「左が
本当は掃除をしないといけないんだけど、ついつい琵琶湖を眺めてしまう。
昔、滋賀県は
みちるさんが教えてくれた。淡海町のあたりでは、琵琶湖のことをただ単にみずうみと呼んだり、うみと呼んだりするって。
「ねえ、あれが沖島だっけ?」
向かって右手に、ひょうたん島みたいな形をした島が見えている。
「うん。日本でここだけの、人が住んでるみずうみの島だね」
「たしか昔行ったことあったよね」
お母さんが、まだ生きているころに。
「行ったね。島の神社にお参りした記憶があるよ」
わたしものどかも、決して言わない。
でも、思ってることは同じだ。
「……」
口を閉じると、かすかに波の音が聞こえてくる。
乱れないリズム。
しずかな音楽。
このみずうみ。
ここでお母さんはかえらぬ人となった。
このうみのどこかに、今もお母さんはいる。
そんな気がしている。
今朝の魂鎮めが終わった後、みちるさんは言っていた。
『わたしたち
そのご
うみの平穏、航海の無事、そして
『息長の一族はその力を借りてるの。うみをしずかにする力、魂鎮めの力ね。親戚に
神さまの力。それを借りる神仕えの力。神業にはいろいろある、ということだ。
「ねえ、のどか」
「うん?」
それは、言わなくていいことだとわかっている。
言われたのどかが困ることもわかっているし、どう答えるかもわかっている。
目を合わせなくてもわかる。
でも。それでも。
それでも言ってしまう。
「よみがえりの神業なんかも、あったりするのかな」
みずうみからの風がのどかの髪を揺らす。
「……あったとしても、僕らには関係ないよ」
しかし、その横顔はわずかたりとも表情を浮かべない。
わたしにもわかっている。
「自分にできることをすればいい、だもんね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます