6. 明日からは

「さて。もう夜も遅いし、詳しい説明はまた明日ね。明日からは神社のお勤めに、修行に、お勉強よ。早く寝ましょう」


 みちるさんはそう言って、ぱんっと手を打った。


「あ、やっぱり今日ってお泊まりなんだ。着替えとかないんだけど」


「今日はがまんして。義兄さん、明日になったら二人の荷物を持ってきてもらえますか?」


「……うん」


 と、それまで黙っていたお父さんが、低く小さな声で返事をした。


「僕の車だと限界があるし、当面必要なものだけになっちゃうけど」


「ええ。少しずつでもお願いします」


「あの、僕たちいつまでここにいればいいの?」


 と、のどかが聞く。


「ずっとよ。二人とも、ここで暮らすの」


 みちるさんはあっさり答えた。


「え! それじゃ学校はどうするの!」


 思わず立ち上がりながら聞く。


「こっちに転校ね」


 みちるさんは平然とそう答えた。


「無理だよ! わたし、児童会の会長で、図書委員長で、美化と保健の副委員長で、風紀委員で学級委員で女子フットサル部の副部長なんだから! いっぱい仕事して、学校のみんなをハッピーにしないといけないの!」


「誰かが代わりにやるわよ」


 みちるさんは顔色ひとつ変えない。


「そんな、」


 わたしの言葉をさえぎるように、肩に手が置かれた。


 振り返ると、お父さんは悲しそうに笑っている。


 そうだ。お父さんならきっとわかってくれるはず。

 だって、わたしが児童会長に当選したっていったら『最後までがんばるんだよ』って応援してくれたんだから!


「しずか、ごめんよ」


 でも、お父さんはそう言ってわたしに謝った。


 ……そんな言葉は聞きたくなかった。


 わたしにだってわかる。これはお父さんが謝ることじゃないって。


 だからもう、これ以上は何も言えない。


「転校の手続きはしておくよ。しすか、のどか。二人とも四月からはこっちの小学校だ」


「お父さんはどうするの? 仕事があるよね」


 お父さんは、高校で歴史の先生をしている。


「僕は名古屋にそのままいるよ。だいじょうぶ。会いに来るから」


 そう言って、お父さんはさみしげに笑みを浮かべた。


「……神業は危険をともなうものよ」


 みちるさんが、ゆっくり、重々しく言う。


「人も自分も傷つけてしまうかもしれない。しずか、あんたは身をもって知ったでしょう。わけもわからないまま魂鎮めをしたら、今日のしずかみたいになる。いえ、もっとひどいことになることもある。力はコントロールできないといけない」


 みちるさんはわたしとのどかを交互に見た。


「しずか、のどか。これはとても大事な御役目なの。わかってほしい」


 そして、頭をさげた。


 お父さんがわたしのどのかの頭に手をおく。


「困ってる人を助けて、みんなをハッピーにする。きみたちにしかできないことだよ」


 みんなをハッピーに。


 そっか。たしかに、児童会長なら学校のみんなのためにいろいろできるけど、神仕えとして力をつけたらそれ以上のことができるかも?


「しずか、やるしかないんじゃない?」


 隣で座っているのどかが、いつもと変わらない口調で言ってきた。


 ……そうね。へこんでばかりいてもしかたない。


「こうなったらやってやるわ!」


 立ちあがり、天に向かってこぶしをつきあげる。


「待ってろ神気! 悪の手から世界をすくってみせる!」


「あんた、わたしの説明聞いてた?」


 みちるさんは、あきれ顔でそうぼやいた。

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