5. 神仕え

 参道の奥には、立派な神社がたっていた。

 反った大きな屋根の下から、前向きに小さな屋根が張りだしていて、その下には木戸とお賽銭箱が置いてある。


 懐かしいな。相変わらず立派できれい。

 何だか少し嬉しくなる。わたし、この神社の子なんだから。


 と、みちるさんは途中で参道から外れ、右手にある社務所に向かっていった。

 社務所には、参道に向かって窓口がつくられている。

 今は夜だから閉まっているけれど、昼間にはそこでおみくじやお守りを売っている。


 みちるさんは、窓口のわきにある引き戸を開けて中に入り、草履を脱いだ。


「上がってください」


 みちるさんは社務所の一室にわたしたちを連れていった。


 畳に置かれていた座布団に座る。

 正座は苦手だけど、神社の畳に座っていると、やっぱりピッとしていなくちゃいけない気持ちになる。


「しずか。何があったか詳しく聞かせてくれるかしら」


 と、みちるさんがさっそく質問をしてきたので、わたしは、学校で起きたことをもう一度説明した。

 突然つむじ風が起きたこと、ひもが浮いていたこと、ひものむすび目を解いたらつむじ風が止まったこと。


「……なるほどね」


 わたしが話し終えると、みちるさんはスッと目をそらした。


「みちるさん。これはやっぱり、そうなのかな」

 お父さんが緊張した声できいた。


「ええ。間違いありません」


 うなずいたみちるさんは、一度深呼吸をしてから、わたしを正面から見た。


「しずか。あなたが見たのは神気かむきよ」


「神気? 何それ?」


「神気というのはね、神世かむよに満ちた霊気みたいなものよ。神世というのは、神さまの世界のこと。わたしたちが今いるこの人の世界が現世うつしよね。神気は、神世から現世に流れこんできているわ。神気は魂にまとわりつき、その魂を奮いたたせ、荒ぶらせる。魂というのは人や動物だけじゃなく、大気や水、岩なんかにもあって、」


「ちょ、ちょっと待って!」

 そんな一度に言われてもついていけないって。


「えっと、神気っていうのは不思議ですごいエネルギーってことでオーケー?」


「ええ。言いかたは、ちょっとあれだけど」


「さっき校庭で起きたつむじ風は、神気のせい?」


「そうよ。大気にも魂がある。しずか、ひもを見たんでしょう?」


「うん。見た」


「神気は濃度が高くなると、ひもの形をとるの。そして魂にむすびつく。すると、現世では本来ありえないようなことがおこる。その一例が、しずかが魂鎮たましずめしたそのつむじ風ね」


「魂鎮め?」


「わたしたち息長の一族があつかう神業みわざよ。神気が多すぎて荒ぶった魂、すなわち荒御魂あらみたまを鎮め、しずかな和御魂にぎみたまとすること、それがわたしたち息長の御役目みやくめ。わたしたちは神通力じんつうりきという力を持って生まれてくる。神に通じることで、神さまから力を借りるの。そうして起こす奇跡を神業というわ」


「魔法? 超能力?」


 みちるさんが苦笑いを浮かべる。


「まあ、だいたいあってるわ。呼びかたはともかく、理解はそれでいい」


「でも、何でわたしがそんな力を?」


 勇者の子孫だからとか?


「神さまの直接の子孫だからよ」


「マジですか」


 みちるさんの答えは予想をこえてきた。


「人はみな神の子孫よ。その中でも、特に直接の子孫とされているのがわたしたち神仕かむつかえ。息長の一族は、この神社でおまつりしている姫神さまの子孫にあたる。神仕えは、神さまの直接の子孫であり、神さまにお仕えし、神通力を持ち、神業をもちいる御役目を持つわ」


「一族の全員が神通力を持ってるの?」と、のどかが手を挙げて質問した。


「ええ。力の強い弱いはいろいろだけどね。のどかもそのうち目覚めるわ」


 みちるさんは、のどかに向かってうなずいた。

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