4. みずうみの神社

 駐車場に車を止め、お父さんは急いで石段をのぼっていった。


 丘の上までのぼっていくと、鳥居が姿を現す。

 これがお母さんの実家、姫神ひめがみ神社だ。


 と、参道にメガネの女の人が立っていた。

 真っ白な和服に、水色の袴、草履をはいている。

 髪の毛は真っ黒で真っすぐ。後ろでひとつにくくっている。


「久しぶりですね、みちるさん」

 お父さんがあいさつをした。


「ごぶさたしています、義兄さん」


 この人は息長みちるさん。お母さんの妹だから、わたしとのどかのおばさんにあたる。

 前に会ったのは五年も前だけど、ふんいきが全然変わっていなかったからすぐに思い出せた。


 息長家は、代々この姫神神社の宮司をつとめている由緒ある家系らしい。

 そしてお父さんはそこに婿養子に入った。

 だから、お父さんも息長浩次こうじだし、わたしとのどかも名字は息長だ。


「しずかものどかも、大きくなったわね」


 そう言っておばさんはわたしとのどかの頭をなでた。


「そうかな」

 と、のどかがぼんやりこたえる。


「おばさんは変わらないね!」


 そう口にした瞬間、頭に電流が走った。


「ぎゃああああ!」


 おばさんの指がわたしの頭がい骨を握りつぶそうとしている。


「おせじじゃないよ! ほんとに変わってないって! 心の底からそう思ったのに!」


「おばさんじゃなくて、みちるさんでしょう」


 おば……みちるさんの笑顔が近づいてくる。目が笑っていない。


「みちるさん! みちるさん! 若くてキレイなお姉さん!」


 わたしがそう言うと、みちるさんはようやく手を放した。


「それでは社務所にどうぞ」


 そしてみちるさんは、何ごともなかったかのように歩き出した。


 お父さんの方を見る。


「さあ、行こうか」


 お父さんは、少しさみしげな笑顔を浮かべて、歩き出した。

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