第40話 いけども…いけども

 愛しい人は風俗嬢。

 恋人にはなれない。


 初めて逢った日…冬の夜、ホテルを出た彼女、送迎車が迎えに来ていなかった。

「乗って待ってる?」

 嬉しそうにうなずいて、僕の車の助手席に乗った。


 人妻との不倫をやめて…独りになった頃だった。

 迎えはなかなか来ないまま、しばらくホテルの前で車を停めたまま彼女と話していた。


 今から思えば…

 あのとき…声を掛けなければよかった。

 なぜ、僕は彼女に声をかけたのだろう?


 あの夜…声を掛けなければ…

 あれから何年過ぎた?


 彼女は今も風俗嬢のまま。

 僕は…何者にもなれないまま…


 その関係は何も変わらない。

 金で彼女を買う。


 風俗嬢として好きなわけじゃない。

 ただ彼女が愛おしいだけ…

 だから余計に惨めになる。

 風俗嬢としてしか逢えない今が…その気持ちと現実の差が自分で埋めきれない。


 逢えば苦しい…そんな気持ちを消せないなら…


 人は気持ちを持ったまま死ねるのだろうか?

 棄てれば死ねるのか…


 全てを忘れられるなら、僕は死に触れたい。

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