第36話 堪えるから

 独りじゃない。

 僕の隣には猫しかいない。

 人は誰もいない。

 だから独りじゃない。

 僕は1人だ。


 涙が出る。

 それを堪えるのはなぜ?

 子供の頃から、僕は絶えてきた、涙は溢れ零れる、それを否定するように…

 何を拒んだのだろう?

 泣けばいいのに。


 今も堪える。

 ツラくないフリをする。

 1人なのに…


 僕は独りじゃない…1人なだけ…。

 泣いてもいいよ。

 でも泣かない。


 涙が零れても、僕は泣いてなんかいない。


 僕は感情を否定する。

 それが自分を否定することだとしても…

 僕は僕を認めない。

 それが死を受け入れることだとしても…


 僕は、いつでも嘘を吐く…自分に嘘を吐く。

 僕は…自分を信じられない。

 そう、僕の中には真実は無い、でも嘘も無い…

 空っぽな自分から涙なんか出るはずない。


 だから、僕は泣いてなんかいない。

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