第20話 蒼い河
いつからだろう…僕は淀んだ河に渡された木の橋を歩いて渡っている。
手すりなんかない狭い橋が、どこから続いているのか解らない。
そもそも、どうしてこんなところを歩いているのか解らない。
辺りは靄がかかり、視界が悪い。
蒼く澱んだ河、流れているのか…あるいは沼のように溜まっているのか…。
空は、朝でもなく…昼でもなく…夕暮れには思えず、夜ではない。
太陽は無く、月も星も無い。
トボトボと後ろを振り返ることなく歩き続けると、枯れた木が立つ小さな島が見えてきた。
木の周りには黒い草が生い茂り、あまり足を踏み入れたくはないような気持ちになる。
不思議と引き返そうとは思わず、ただトボトボと小さな島に繋がる狭い橋を歩く。
島の手前まで来ると、橋は朽ちており2mほど河を飛び越えねば島には渡れそうもない。
(飛び越えられるかな…)
そんなことを考えながら空を見上げる。
空は相変わらず河より薄い蒼色。
空の端が、めくれるように剥がれていく…。
少しずつ…少しずつ…。
めくれた向こうに、白い壁紙が見える…あれは僕の部屋…。
……………………
(僕は、夢を見ているんだ…)
河を渡る夢…。
(目覚めたくない…目を閉じなくては…アッチは嫌だ…ココでいい…ずっとココでいい…)
空が少しずつ狭くなってくる…僕は目覚めようとしている…。
現実に戻さないで…夢のままでいい…ココでいいから…僕を現実に戻さないでくれ…。
小さな島の向こうに、橋がある。
僕が歩いてきた橋より古そうな橋…。
アッチに行きたいんだ…僕は島に飛び乗ろうと橋を蹴る…。
…………………
目が覚める…夢を視たんだ…夢の中で夢を視て…目覚めを拒む夢。
不思議な感覚だった…。
気持ち悪い…頭が重く…身体が起こせない…。
右目で夢を視て…左目で天井を見ている…それが同時に観えている。
そんな夢だった…。
その日は会社を休んだ。
その夜…僕は思ったんだ。
あれは『三途の川』だったのではないかと…。
河の両端も行く先も視えない。
引き留める人も…招く人もいない。
僕が歩いてきた道…歩く道…後ろを振り返らなかった。
だから誰も呼びとめない。
朽ちた橋の先に誰もいない…。
あれは僕の人生そのものだと…。
渡り損ねたのか…僕は今、現実にいる。
暗い今が目の前を覆う現実にいる。
あのまま渡れば…あるいは…。
今が夢で…向こうが現実だとしたら…。
「幸せかい」
鏡の前で呟いてみる。
死人のように光の無い目をした男が僕を見ている…。
(お前は…誰?)
後ろの正面は…きっとボク…。
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