第10話 憧れた世界
深海魚は自分の姿を知らない…。
己の奇異な身体を…醜悪な己を知らない…。
幸せだと思う。
羨ましいと思う。
僕は…太陽を求めた愚かな深海魚なのだろう。
暗闇で、誰にも知られず蠢いていればいいものを…。
僕は、醜い身体を不器用に動かして陽の下へ…。
己の醜悪を初めて知る…。
視えぬ目に触れたのは、美しい女性だった。
最初は憧れだった…。
僕は、暖かい手に、もう一度触れたくて…醜いヒレをバタつかせる。
己の滑稽な姿に微笑んだ女性。
僕は、勘違いした…微笑みを好意と感じた。
もっと…もっと…僕は、己の身が乾くのも忘れ女性の前で無様にもがく。
腐臭漂う、己の身から遠のく彼女を追い求め僕はヒレを動かし惨めに這いまわる。
「笑って…僕に微笑んで…ほらっ…滑稽でしょ…笑って…触れて…」
砂浜に打ち上げられた深海魚…。
惨めな姿は好奇に晒され腐るだけ…。
身体中から涙を流し…ただ、ただ腐るだけ。
陽の光は、白い身体を焼いていく…知らずにいれば幸せだったかい?
闇に蠢く醜悪なるモノ
陽の光に魅せられて
焼かれ…ただれて…腐るだけ
その目に姿は映らない
ただ、眩しさを感じるだけ…眩しさに魅せられただけ
美しさを知るには…己の醜さを学べ。
憧れだけで触れてはならない世界がある。
知らずにすめば…痛まないのに。
誰にも悼まれず…腐るだけ…腐るだけ…。
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