第7話 咲かない華 戒

夜道を独りで歩く。

アテなどない、目的もない、散歩ですらない。

フラフラとスタスタと、ただ歩く。


ココに居たくない…そう思うと自然と足が前へ進む。

ココって何処?

1秒前に居たはずの場所。


僕の居場所が解らない。


家でも…会社でも…立ち寄っただけの本屋ですら、自分が居てもいい場所じゃない気がする。


『何処にだったら居ていいの?』


そんな想いに心が…身体が反応する。

発作の様に、歩き出す……で、今、僕の前には海が在る。


黒い海。


海の絵を描けと言われたら、皆は青い絵の具を真っ先に取る。

僕はきっと黒い絵の具を取るんじゃないかと思う。


砂浜に腰を下ろすと、止めたはずのタバコを吸いたくなる。

部屋には未練がましく、ZIPPOがいくつも転がっている。


『ココも僕の居場所じゃない』


公園の前を歩いていく。

コンクリートの下から、草が飛び出している。

コンクリートの割れた隙間から太陽を覗き見るような草。

そこらの花より背が高く、太陽へ近づこうと伸びている。


踏みつけようと、足を上げると、草は割れた隙間から生えたんじゃない。

コンクリートを割って伸びてきたのだと̪知る。


分厚いコンクリートの下で?

違うな…草の上に人間がコンクリートを敷いたんだ。


この草は、横に伸びることを考えずに、ただただ真っ直ぐに上に伸びたんだ。

強い意志を感じた。

僕には出来るだろうか?


足掻く姿を視られたくない。

悟った顔で諦める。

僕はそんな人間だ。


雨がシトシト降る夜に僕の頬を濡らすのは雨じゃない。


物言わぬ、名も無い草…花が咲くのかすら解らない草。

草と呼ぶには大きく、木というには小さい。


ぼんやり月が照らす名もなき草にすら僕は…。


今だけは…隣で同じ月を眺めよう。

すぐに立ち去るから。

ココは僕の居ていい場所じゃない。


でも…今は…。

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