第4話 ……So White as Snow……

防波堤に座り込む男が一人。

 空に向かって何かをブツブツ呟いている。


 照りつける日差しは強く、コンクリートの地面は陽炎のように風景を歪ませる。


 蜃気楼のような街並みを手で遮るように見る男。


 蝉の声が遠く…近く…で鳴り響く。


「焼きつくしてしまえ……俺も…この街も…世界を…」


 男は呟くと、手の甲に白い粉をサラサラと散らし、勢いよく鼻から吸い込む。

 大きく深呼吸して息を止める、そしてゼハァーと息を吐き出す。

 数回、繰り返すと男の目には……。


 蜃気楼の街に白い雪が降る。

 空には真っ赤な太陽が輝く。

 青空からハラハラと雪が降る。


 白い雪は、みるみると男の周りに降り積もる。

 見渡す限りの白い雪景色。

 男は歩き出す。


 時々後ろを振り返ると、足跡が残されている。

「あぁ俺は歩いている……どこから……どこへ……」

 目の前は何も無い。

 でも歩く。

 白い世界に孤独ひとり


 蝉の声が鳴りやまない。

 雪景色に響く蝉の声。

「あぁ……振り絞れよ…最後の言葉を俺に聴かせておくれ、今なら聴けるから」


 白い世界を振り返ると、足跡が消えていく。

 降り積もる雪に男の足跡は上書きされるように…最初から無かったかのように。

「違う!俺は歩いてきたんだ!消さないでくれよ…俺の足跡…を……俺の全てを否定しないでくれよ」


 真夏の防波堤をフラフラと歩く男がひとり。


 何かを探すように、地面にうずくまったり、立ち上がり手を前に差し伸べたり。


「この雪の下にはちゃんとあるはずなんだ…俺の足跡が…」


 防波堤の先端で、男が天を仰ぐ。


 真夏の空から雪が降る。

 世界を、街を、男を、すべて白く塗り替えていく……初めから何も無かったように。


 ドプンッ…………。

 海に落ちた男は思う。

 太陽が歪んで遠のく。

 白い世界のさらに底へ…落とされた……。


 海の中でも白い雪コカインが降る。

 男の周りに白い雪が積もる。


 そっと目を閉じた…………。

 白い世界の底は見えたかい?


 逃げても…逃げても…そこは白い世界。

 何もかもを白く、何も無かったように白く染める世界。

 白の下には何が埋まっている?

 何も無いよ……。

 ソコには何も無い、個々ココにも何も無い。

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