豚と読む物語

飛騨牛・牛・牛太郎

第1話 モルグ街の殺人

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 豚小屋の一角に設けられた休憩所

 そこに一匹だけ繋がれた豚と椅子に座る養豚業の男(俺)

 そして豚がしゃべりだす。

「モルグ街の殺人ってさ、ミステリというよりヒーロー物じゃないかと思うんだよ」


俺「モルグ街の殺人ね、個人的には盗まれた手紙の方が好きだなぁって思うけど」


豚「確かにミステリとしての完成度はモルグ街の殺人より盗まれた手紙だよ。でもモルグ街の殺人はそういう謎解き的な面白さじゃない別物じゃないか」


俺「というと」


豚「近代って舞台があって、そこに探偵って近代都市に求められる英雄が現れる。近代の英雄物語じゃないかなって思うんだ」



俺「英雄物語、うーん仮面ライダーみたいなスーパーヒーローって感じ?」


豚「仮面ライダーってのがわからねぇ」


俺「そっか、じゃぁ、まぁアレだ、ドラゴン退治をするヒーローみたいなものだ、ってことか?」


豚「そうそう」


俺「へぇ、まぁ、ご一説聞こうか」


豚「まず舞台は近代のフランス、話の中心はそこで起きた惨劇な訳だ。それを伝えるのは新聞、いろいろな国の人間が「あれは〇〇人の声だ」と言いたてる、警察は捜査をするが犯人が見つからない。そこに現れる変な世捨て人とその相棒。そしてふたを開けてみると」


俺「まて、ネタバレはいいのか?」


豚「いいだろう?百年も前の話だし、みんなさんざんネタにしている。でまぁ犯人はボルネオのしょうじょうだった」


俺「しょうじょう?オラウータンだろ?」

携帯で検索して画像を見せる


豚「俺が読んだのは猩々って書いてあったぞ」


俺「青空文庫じゃないか。あれは訳が古いんだよ」


豚「でもあんま金を使うと怒るだろ?あそこは無料で読めるから」


俺「そういう気配りができるから出荷してないんだ。忘れるな」


豚「話を戻すけど、この話はミステリと考えると正直微妙だと思うんだよ。お約束なんかなにも守ってない」


俺「いや、まぁ確かにそうなんだが、そのミステリのお約束はこの物語の後にできたものだからな。守ってないからって責められることはないよ。なにもない所からこの現代に通じるミステリを作った、ってのがすごいんだと思うけどね」


豚「そこだよ。この物語がなぜ現代に通じるか、ってそれはこの物語が近代都市に求められる英雄を描いたからじゃないかって思うんだ」


豚「まずこの話、田舎だと成立しないだろ?隣近所はみんな友達で顔なじみ、って世界じゃなくて街角にはよくわからない外国人がたくさんいるからこそ成り立つんだ。新聞では惨殺事件が報じられ警察は働くができたばかりで完璧じゃない」


俺「もっと後でも、切り裂きジャックとかあるからなぁ。ホームズの作者は冤罪を暴いたんだっけ」


豚「そうそう、モルグ街の殺人でも無罪の人間を捕まえる。冤罪だ。一方でこれは科学が発達して魔法だの勇者だの怪物と言ったものが否定された後の時代でもある。法と司法と科学があって、それに基づいて犯罪を捜査する時代なんだ。そういう時代に求められる「英雄」は剣と魔法を駆使して夢物語のドラゴンを倒すんじゃなくて、ほかにはない知識と推論を持って真実を暴いて、司法ですらできない正義を果たす人だったんじゃないか。って思うんだ。それにピッタリあったのがデュパンってキャラクターじゃないか、って思うんだよ」


俺「確かに、そういう見方もあるなんだろうけど、作者のポーはそこまで考えて書いてたんだろうか?」


豚「全部僕の考えだから多分書いてないとと思うよ。でも現代まで続くミステリの源流を作ったすごい作品なのはみんな否定してない大傑作だと思う。あのオラウータン落ちでネタにされるけど」


俺「あれはまぁな。でも、そう考えてみると、ボルネオからのオラウータンってネタを出して、そのオラウータンを読者みんなが分かってくれる時代になったから生まれた犯人なのかもなぁ。あのオラウータンも」


そう言って時計を見る男。


俺「あ、時間だ。餌やるから」


豚「ぶひぃぃぃぃぃぃぃ」


その一声で整列する豚たち。


「いやぁ、お前がいると助かるよ。ほんと」

「えへへへ。そうでしょだんな。なんで出荷だけはやめてくだせぇ」

「どうしようかなぁ。あんま長く飼っていても餌代がかかるだけだし」


続くかは知らない

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