ダンジョン調査一日目
昼に馬車を路肩に止めて昼食をとったくらいで、問題無く夕方近くには目的地へと着いた。
馬車を降り、凝った体をほぐしながら仲間とこの後の事を話し合う。
「時間的に中途半端になってしまったけど、この後どうしようか」
「夕食分の食糧も貰っているのだし、潜るなら軽くでいいんじゃない」
「だな。せっかく飯があるのに腐らせるのは勿体ねえ」
「一層だけ潜る」
「一層だけか。このまま休むというのは無しでいいんだね」
「ああ、いいぜ」
「明日から本格的に潜るにしても、ある程度傾向を掴んでおきたいわ」
「異議なし」
全員の意志を確認し、夕飯時は過ぎてしまうだろうがこのまま潜ることとなった。
そのことを伝えるために、馬車の荷台から荷物を降ろしているタッセへと話しかける。
「タッセさん。私たちは一層だけ潜って来ます。その間ここの守りをお願いします」
「了解しました。俺よりも上級の人たちに言うのもなんだが、気を付けて」
「ありがとうございます」
装備の確認を済ませ、私たちはダンジョンの前に立ち、中を覗き込む。
見つけた時と同様、中は真っ暗だった。
「ムイ、明かりを」
「我らに導きの光を。光球」
ムイが詠唱すると空中に魔法陣が浮かび、周囲を照らす光の球が現れる。
これで真っ暗なダンジョンの中でも、わざわざ松明やランタンを持たずに移動ができる。
先頭をズズイに任せ、ラモ、私、ムイの順にダンジョンへと踏み込む。
「暗い。洞窟そのまま。出来立て」
「赤ん坊だな」
「そうね、出てくるのもそれくらい可愛いものだといいけど」
「一層だけの確認だ。気軽にいこう」
感想を述べつつ、坂を下っていく。
しばらくして最初の部屋に辿りついた。
光球が照らす室内は通ってきた道と同様、洞窟の様相。
「
「先に進もう」
何も無いことを確認し、奥へと続く通路を進むと分かれ道に出た。
「左に行く」
行く方をズズイに任せ、後に続くと次の部屋に出た。
正面奥に宝箱が一つあり、他には何も無いように見える。
「危機察知」
ズズイの発した言葉を受け、通路で後ろに注意を払う。
彼は『危機察知』というスキルを持っていて、罠が仕掛けられている気配を感じ取れるのだが、今それが働いたようだ。
スキルや魔法はダンジョンで手に入る。
それは戦闘を経験して培うものではなく、稀に宝箱から出る
私たちのパーティーは長年組んでいることもあって、スキルか魔法を全員が習得している。
いや全員が習得したからこそ、長年死なずに組んでいられるのかもしれない。
ズズイが部屋の中を念入りに観察し、武器にしている短槍に背中に担いでいた棒を組み合わせて長槍へと変えた。
それの石突で地面を叩いていくと、宝箱の少し手前でボロボロと地面が崩れた。
バックステップで地面から離れるズズイを見ると共に、私たちも息を止めて顔を背ける。
これは落とし穴の中に毒や酸性の液体だったり、毒ガスが仕掛けられていることを警戒しての反射行動だ。
「毒なし」
二重罠がないとの報告を受け、部屋へと視線を戻す。
残すは宝箱の確認だ。
往々にして罠が仕掛けられている宝箱の開閉も、ズズイに任せている。
槍で蓋を持ち上げ開くが、今回は罠は仕掛けられていなかったようだ。
中身を確認し、ズズイが私たちの元へと戻ってくる。
「薬草三」
差し出された手には、薬草が三株。
受け取り、背嚢に収める。
ズズイが槍の長さを戻すのを待ってから、来た道を戻り直進したところで大芋虫のいる部屋に入った。
「芋虫ね」
「無視して進もう」
私達もそうなのだが、大芋虫は移動速度の遅さや魔石の小ささから、ダンジョンで無視されることが多い魔物だ。
敢えて倒すとしたら、休憩の為に場所を確保したい時か、特別な依頼を受けた時、あとは少しでも金が欲しい時くらいになる。
というわけで天井にいるものに気を付けながら、無視して奥へと進む。
次の部屋では四体の大バッタに遭遇した。
飛び跳ね、体当たりしてきたものをズズイが槍で薙ぎ払い、ラモが前に出て襲い来るバッタの横っ面を順次殴り飛ばす。
彼の打撃だけで死んでいるものがほとんどだが、稀に微かながら生き残ったものがいる場合があるので一応警戒はしておく。
問題なく全てを倒し、魔石を回収して次へ。
バッタも芋虫と変わらない大きさの魔石を落とすのだが、倒したのだから拾っておく。
次に出遭った今度の相手は大ダンゴムシ。
一斉に丸まり、互いに弾き合うことで部屋の中を縦横無尽に転げまわる。
「彼の者に守りの加護を『守護』」
ムイがラモに防御力が高くなる支援魔法をかけ、元々『堅固』というスキルを持つラモの防御力がさらに高まる。
あとは単純ながら、彼にしかできない作業が始まる。
突進してきたダンゴムシを受け止め、回転が止まったものを私達に放り投げる。
それを私とズズイが柔らかい腹側から切りつけて倒すというものだ。
ここも難なく突破し、次へ。
今度は芋虫、バッタ、ダンゴムシが二体づついる部屋。
その構成を見て、思わず笑みがこぼれる。
私たちが部屋に入ると、ダンゴムシが転がって芋虫を轢き殺し、バッタが跳ぶのにも邪魔になっていた。
しかも二匹しかいないものだから、多数でぶつかり合って軌道が読みづらかった先ほどに比べて動きが読み易い。
ラモがダンゴムシの一匹を捕まえてバッタに投擲して一匹排除。
私は残りのバッタに近寄り、太い足を切断し機動力を削いでからとどめを刺す。
ズズイはラモが再度捕まえたダンゴムシの排除に協力して、数分後には掃討し終わった。
「ありがちな失敗部屋だったな」
「こんな構成で魔物を配置しているってことは、出来たばかりというのは確実だね」
「でも明日来たら変わってるでしょうね。そこがダンジョンの厄介なところよね」
「問題ない」
「そうだな。出てくるのが弱いんだから関係ねえ」
「頼もしい限りだけど、油断してやられないでよ」
「そんな
頼もしい仲間たちとそんな会話をしながら次の部屋に向かうと、また同じ構成の魔物がいる部屋だった。
これには苦笑するしかない。
楽々倒すと、次の通路は下へと続く下り坂になっていた。
「一層はこれで終わりみたいだね」
「そうね。戻りましょ」
「おう。腹も減ったしな」
目的だった一層の探索を終え、難なく来た道を戻りダンジョンから抜け出した。
外はもう日が沈んでいて暗くなっていたが、馬車を置いた辺りだけが明るい。
明かりの方へと向かうと、タッセとラインが焚火を囲んで座っていた。
「おかえりなさい。中はどうでした」
「一層は七部屋あって魔物も弱い虫系ばかりでしたね」
「なるほど。それなら自分たちでも潜れるレベルなのかな」
「まだ出来たばかりのダンジョンのようですから、準備を怠らなければ大丈夫だと思いますよ」
「じゃあダンジョンが解放されるまでにカラナと準備しないとですね。えーっと、今日はもう休みますよね。待ってる間にスイセイさん達の分のテントも張っておいたので、どうぞ休んでください」
「ありがとうございます。夕食を頂いたら休ませて頂きますね」
「はい。見張りもカラナと俺がしっかりやりますので、任せてください」
なんとも頼もしいものだと感心しながら、種火を分けてもらって料理用に火を熾す。
鍋に水を入れて火にかけ、肉と野菜を適当に切っていれる。
パンを火の近くに置いて温めながら、鍋をかき混ぜ、調味料を目分量で入れ、煮立つのを待つ。
なんとも簡単な料理だが、美味しければ問題ないのだ。
私が調理をしている最中他のパーティーメンバーが何をしていたかといえば、ムイは私の手伝いを。ラモは筋トレ。ズズイは目を閉じ静かに座って待っていた。
夕食と片づけを済ませると、テントへと向かった。
ムイという女性がいるが、全員が一緒のテントで休む。
若干距離を置くぐらいはするが、危険がないわけではない場所で単独行動をさせるわけにはいかない。
まあ長年同じパーティーなので、今更な話である。
こうしてダンジョン調査依頼の一日目は過ぎていった。
異端のダンジョンと正統ダンジョン 足袋旅 @nisannko
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