探索者2

 デリメイについてから三日が経った。

 初日からお世話になっている宿の食堂で、朝食を頂く。

 今日はこれからギルドに向かい、何も無ければ依頼を遂行するために私たちが見つけたダンジョンへと向かう予定だ。

 久しぶりのダンジョン探索になる。


「みんな体調管理は大丈夫かな」

「おう」「ああ」「ええ」


 三者三様の返事だが、問題はなさそうだ。


「では準備が整い次第、ギルドに向かおう」


 食事を終え、一時部屋へと戻って装備を着込む。

 魔物素材の革鎧を着込み、腰に片手剣を佩く。

 私たちのパーティーは全員が革装備だ。

 ラモは近接格闘、ズズイは槍、ムイは魔法を使うので、動きやすさを重視している。

 金属製の鎧は大人数で探索を行う者や元兵士なんかが使っているが、いざという時の機動力に欠けるのであまり探索者には好まれない。

 かといって全く使わないということもない。

 ダンジョンに現れる敵によっては、私も金属鎧を装備することもある。

 今回は出来たばかりのダンジョンのようなので、革で大丈夫だろう。


 宿で頼んでおいた昼食用の弁当を受け取り、ギルドへと向かう。

 宿屋と同じ商業地域にあるので、さほど時間をかけずに到着した。

 外観を見ての感想は小さい、だ。

 ギルドの紋章が彫られた両開きの扉を開けて入ると、正面に受付カウンターが二席並び、二十代前半くらいの年齢の女性、ナーサが頬杖をついて一人座っていた。

 拠点だったカンテイルでは十席あったのを考えると、やはり規模の小ささが際立つ。

 その奥には事務机が置かれ、五十代男性のギルドマスターであるロドンが書類作業をしていた。

 受付嬢とはこの二日間の間に何度か話し、のんびりした女性、ギルドマスターとはダンジョンの発見報告の時に挨拶をしており、腰の低いおじさんといった印象だ。

 ナーサが私たちの顔を確認し、ロドンさんに呼び掛ける。


「ロドンさーん、スイセイさん達がいらっしゃいましたよぉ」

「では中に入ってもらってください」

「はーい。みなさん、おはようございまーす。中にどうぞー」

「おはようございます。では失礼しますね。ラモは一緒に、ズズイとムイは待っていてくれ」


 応接間のソファは二人掛けのものが向い合せに置かれているだけなので、ラモだけを連れていく。

 残った二人には入口横にあるテーブルで待っていてもらうのだが、少しの時間ではあるが親密になってくれることに期待したい。

 受付横から中に入ると、ロドンさんに仕切り板で区切られた応接間へと促される。


「どうぞおかけください」

「失礼します」

「まずは改めてお礼を。ダンジョンの発見と報告、実に助かりました」

「いえいえ、探索者として当然のことですから」

「それを当然だと思わない輩がいるのは皆さんならご存知でしょう」


 困った顔を浮かべるロドンに、苦笑で返す。


「世の中なんでも独り占めにしようと考える輩はいるものです。最悪の事態が起こる前に報告を頂けて、さらには調査と調整の依頼まで頼まれてくれた。皆さんには感謝しかございません」

「ご期待に応えられるよう鋭意努力致します」

「よろしくお願いします。この数日の間にナーサかセリエと話を詰めていたかと思いますが、もう準備はお済ですかな」

「ええ、すぐにでも出られますよ」

「迅速な対応に重ねてお礼を。本来ならばもっと余裕を持ってもいい依頼なのですが、何分領主様が急かされましてな」

「目先の金に目が眩んでんな、その領主様」

「ラモ、余計な火種になりそうなことは言わないように」

「へいへい」

「失礼致しました」

「構いませんよ。ラモ殿のおっしゃる通りですし、今現在ここには私と受付嬢のナーサしかおりませんから問題ありません。ではお仕事の話に戻しましょうか。ダンジョンまでの足はこちらで馬車と御者を用意いたしました。駐車場でラインとタッセ、カラナという三名が待機しておりますので、お声掛けください。こちらが証書になります」

「頂戴します」


 テーブルに置かれた証書を検め、受け取る。


「馬車には回復薬や解毒薬、携帯食を少ないながらも積んでありますのでご自由にお使いください。もちろん使用後に金銭の請求などしませんのでご安心を」

「よろしいのですか?こちらでも用意はしていますが」

「領主様のわがままに付き合うんですから、こちらの要望も聞いて頂かないと。渋られましたが、融通してもらいました」


 ロドンが満足げな笑顔を浮かべてウインクした。

 こんな探索者の為に動いてくれるギルドマスターがいるなら、ダンジョン都市として街が発展してからも良い環境を作っていってくれるだろう。

 今はまだ私たちのパーティーが満足できる依頼が来ないだろうから定住はできないが、いずれは良い拠点候補地になるのではないだろうか。


「ではありがたく。それではそろそろ出発しようと思います」

「そうですか。ご武運をお祈りしております」


 握手を交わし、応接間を出る。

 暇だったのか掲示板を見ていたムイと、椅子に座ってちらちらとムイを見ていたズズイと合流。

 僅かながら期待した二人の距離の進展は無かったようだ。


 駐車場までの道程で、支援物資があることと依頼内容に変更がないことを伝えながら歩く。

 入口に立つ衛兵に証書を見せ、中に入ろうとしたところでズズイが「ファストに挨拶してきたい」と言ってきた。

 ファストというのは私たちの馬車馬で、この北門駐車場の厩舎に預けてある。

 旅の中で御者役をしてくれていたズズイとしては、数日会わなくなるので様子を見ておきたいのだろう。

 衛兵にもう一枚証書を見せる。

 こちらは預かり証で、馬の様子を見たいと伝えて許可をもらった。


「行ってくる」


 一人厩舎に向かうズズイと別れ、私たちは目的の馬車を探す。

 何台か出発の準備をしている中にあって、三人で待機しているものに当たりをつけて話しかけた。


「探索者ギルドに雇われた方たちですか?」

「そういうあんたはスイセイさんかな。俺がラインで、そっちの剣を持ってるのがタッセさんで、槍を持ってるのがカラナさんだ。証書を貰えるかい」


 日に焼けて人好きのする笑顔の青年がライン。

 革鎧を着て同業に見える二人の青年がタッセとカラナのようだ。

 証書を渡し、自己紹介をする。

 ラインはデリメイを中心とした馬車便の御者で、タッセとカラナは思った通り探索者だった。

 彼らは一緒に潜るわけではなく、私たちが潜っている間に馬車とラインを護衛するために雇われたそうだ。


「四人ってことだったけど、一人見当たらないな。どうしたんだい」

「私たちの持ち馬がいまして、様子を見に行っているんですよ」

「そっかそっか、じゃあもうちょい待機だな」

「はい。その間に積み荷の確認をさせてもらいますね」


 荷台に乗り込み、積荷の中身を確認していく。

 低級回復薬が八本、低級解毒薬十本、携帯食量四日分、肉と野菜が一食分。

 これが私たちの分だろう。

 他にラインたちの分の物資が入った木箱が二つ。

 共用の水瓶が二つ。

 寝袋が二つとテントが二基。

 ざっと見た限り、これで全部か。

 肉と野菜は夕食用に用意してくれたのだろう。


 確認をし終わったあたりでズズイが合流し、出発の準備は整った。


「ラインさん、準備完了です」

「おうよ。じゃあ行くぜ、出発だ」


 馬車に揺られ、私たちはダンジョンへと向けて街を出た。

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