黒き少女のダンジョン2

 ダンジョンの管理部屋に座り込み、操作盤を見つめ続けて早数日。

 ようやく待ち望んだ時が訪れた。

 操作盤に表示していた入口の映像に、人の姿が映っている。

 数は四人。

 光る玉を宙に浮かべ、入口から中の様子を窺っている。


 さあ早く中に入って、魔物に殺されるか罠にかかって死んでくれ。


 四人が死にゆく姿を想像するだけで胸が高鳴る。

 だが彼らはなかなか奥に進まない。

 それどころか入口から遠のき、操作盤の映す範囲から消えてしまった。


「なんで入ってこないのよ」


 期待し、待たされた末のことに怒りが込み上げる。


「焦る必要はありません」


 腰に提げた袋からコアの声がする。

 いつも手に持っているのも邪魔なので、入れ物を用意したのだ。

 声が籠って聞こえるでもないし、手も空くので良い判断だと自負している。


「焦ってないわよ。ただ早く人間が死ぬところが見たかったの」

「そうですか。ダンジョンがあれば人間は入って来ます。人間とはそういうものですから次を待ちましょう」

「あっそ。はいはい待ちますよ。待てばいいんでしょ」


 操作盤に近づけていた顔を離し、操作して造り上げたダンジョンの地図を表示する。

 改めて造り上げたダンジョンの出来を見直す。



 第一層は七部屋。

 入口に通じる何も置いていない一部屋。

 大芋虫と大バッタ、大ダンゴムシを一種ずつ生成配置した三部屋。

 これらを混成配置した部屋が二部屋。

 落とし穴と宝箱を設置した行き止まりの一部屋。


 第二層も七部屋。

 通路を一層よりも長く、複雑にしてある。

 最初の部屋に大ダンゴムシ。

 三部屋に一層で出る三種の魔物を混成配置。

 二部屋に宝箱を置いて、一つは毒ガス、もう一つは吊り天井の罠付き。

 三層に下りる階段に通じる最後の部屋には大ムカデを配置。


 第三層は八部屋。

 迷宮蝶を各部屋に配置。

 地図で見ると八角形状の造りで、どの部屋からも三本以上道があり迷宮蝶の混乱鱗粉で迷わせる目論見。

 三部屋に突撃角虫、もう三部屋には大鋏虫を各種配置。

 宝箱は二つ。

 どちらも開けると、三層に出る魔物が部屋に追加生成される。


 第四層も八部屋。

 第二層同様、通路を複雑にし、落とし穴、槍衾、落下刃を無数に設置。

 三部屋に大ムカデと突撃角虫、大鋏虫を混成配置。

 宝箱だけを置いた部屋が二部屋。

 この部屋には魔物が部屋内に生成される罠の箱も無数に置いている。

 それとは別に宝箱を置いた部屋が一つ。

 そこは大蜘蛛を配置し蜘蛛の巣で覆われた造り。

 最後の部屋には大カマキリを配置。


 第五層は六部屋。

 単純な直線構造。

 一つ目の部屋には一層の魔物を混成配置。

 二つ目の部屋には二層の…といった具合に、各階層毎の魔物を集めた四部屋が続く。

 五つ目の部屋には、人間大の石人形を二体配置。

 六つ目の部屋が最奥で、宝箱のみ設置。



 これが今の私のダンジョンだ。

 いい出来に口が綻ぶ。

 早く成果をこの目で見たい。


 少女は三角座りをして膝に顎を当てた体勢になると、また操作盤に入口の映像を映して見つめ始めた。

 それから二日日経ち、念願が叶うこととなる。

 やって来たのは三人の少年たち。

 二つ目の部屋で、まさかの大芋虫に惨敗。

 やろうと思えば大量に生成できるような芋虫にだ。

 笑いが漏れる。

 人間の死を目の当たりにし、喜色を顔に浮かべたのも束の間、最後の一人が逃げ出した。


「はぁっ、一層の二つ目の部屋で帰るとかなんなわけ、こいつ」

「得たかても微量です。次に期待しましょう」

「微量でもないよりはマシか。ってことで取りこぼしはもったいないよね。『転移』」



 相対した少年は、驚きの表情でこちらを見ていた。

 構わず道具生成で、剣を出し接近。

 構えられた木剣に怒りが湧く。

 あれで私のダンジョンを攻略しようだなんて、舐めすぎだ。

 両手を切り飛ばし、五月蠅く喚くその首を切り飛ばす。

 血を噴き出しながら倒れた身体を、ダンジョンに吸収されるまで突き刺し、切り刻んだ。

 ちょっと吸収されるのが早いな、と不満もあったがそれでも少し気分が晴れた思いだ。

 私の造ったダンジョンのギミックで死ぬのを見るのもいいけれど、直接手を下すのはよりいいものだ。

 だがコアから苦言を呈された。


「マスター、今回は弱い人間でしたから良いですが、直接手を下すのは危険を伴います。管理部屋から造り上げたダンジョンがもたらす死を鑑賞することをお奨めします」

「私だって弱いって知ってるから殺しに来たの。危険なこともあるってくらい分かってるわよ」

「ならば結構です」

「必要なことは言わないくせに、小言は指示しなくてもいう訳ね」

「小言ではありません。提案です」

「あっそ」


 コアの言葉をあしらい、先ほど人間を殺した際に感じた喜悦を振り返る。

 この人間を手にかけた時の感触と高揚感は止めろと言われて止められるものではない。

 これからも弱い人間が入ってきたら積極的に狩りに行こうと決めた。

 強い人間が来たらダンジョンの糧にはなるが、自分が狩りに行けない。

 弱い人間が来たら私自ら殺しに行ける。

 どちらがいいのか悩ましいところだが、次に来るのはどちらだろうか。


「とりあえず戻りましょうか。『転移』」


 少女は在るべき場所へと帰り、またダンジョンは次なる獲物が来るまで静寂に包まれる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る