財宝を求める少年たち

 デリメイという街の北門から街道へ出てしばらく行ったところにダンジョンが見つかった。

 その報せに領主は喜び、ダンジョンまでの道を整備することと、探索者ギルドへの連絡を指示した。

 ダンジョンが近くにあれば探索者が集まり、宿屋や各種商店が繁盛し、結果街全体の景気が好くなる。

 領主は将来自身の懐へ入るであろう大金を妄想し、笑みが浮かべた。


 豪華な領主館とは真逆の、貧乏人が暮らすスラムにもダンジョン発生の報せを聞き笑みを浮かべた者がいた。

 スラムの子供たちの中でも体格がよく、喧嘩の腕が自慢のランブという少年だ。

 街中に出ていた仲間からダンジョンが現れたという話を聞いた彼は、すぐに準備を始めた。

 ダンジョンと言えばお宝だ。

 自分が大人よりも早く入って、中の宝を掻っ攫ってやろうとほくそ笑む。


 ランブはリュックに必要になるだろうアイテムを詰め込み準備を整え、子分の少年二人を連れて街の外へと向かった。

 いざダンジョンへ向かわん。

 そう意気込む彼が北門を抜けようとした時、出鼻を挫くように衛兵に声をかけられた。


「ちょっと待てお前ら」


 普段から小遣い稼ぎに外の魔物を倒しに出向くことがあるが、滅多に声をかけられないというのに、どうして今日は声をかけるのか。

 自然と睨むように衛兵を振り返る。


「どうした。そんなに険しい顔をして」


 人の好さそうな衛兵の青年が心配そうに聞いてくる。


「なんだよ兄ちゃん。俺たちがなんかしたって言うのかよ」

「いや、なんだ。もうすぐ日が暮れるっていうのにどうしたのかと思ってな」


 ダンジョンに向かうことがバレた訳ではないようだ、と安堵しながらも頭では今から外へと向かう理由を考える。


「ちょっと急用で金がいるんだ。ちょちょっと魔物を狩って来るだけ」

「夜になるのにか。視界が悪くなる分危険だぞ。止めとけって」


 衛兵の腕がランブを捕まえようと迫ってくる。

 それを躱しながら更なる言い訳を並び立てる。


「衛兵の兄ちゃんと違ってこっちはすぐに金がいるんだ。そうしなきゃ明日生きてられるかも分からないんだ。兄ちゃんは俺たちに死ねって言うのかよ」


 その言葉に衛兵の動きが止まった。


「そう言われっとなぁ。……分かったよ。くれぐれも気を付けるんだぞ」


 頬を掻きながら苦い顔を浮かべ、衛兵は見送る言葉を掛けた。


「分かってるって。じゃあな兄ちゃん」


 衛兵に見送られながら、三人は北門を抜けた。

 目の前には人の往来で均されて道となった街道が続いている。

 街道沿いならばほとんど魔物は出ない。

 外にはダンジョンから溢れ出た魔物が存在しているのだが、それらはダンジョンにいるものよりも弱く、無闇に近寄ったり腹を減らしていなければ積極的に人を襲わない。

 腕に覚えがあって弱い魔物を相手にするのであれば、子供でも魔物を倒すことができる。

 だからこそ衛兵も通したのだ。

 もしもランブ達が新たに現れたダンジョンに向かうと知ったならば全力で止めただろう。



 日が暮れてもランブ達は休むことなく街道を行く。

 持って来ている携帯食も二食分だけなので、進めるだけ進む必要があった。


 道中、ランブについてきた子分のアキとナラは休みたくなっても眠くなっても頑張って付いて行った。

 夜になれば街道脇で焚火でもして眠るかと思ったが、ランブに聞けば自慢げに魔石灯という棒の先が仄かに光る魔道具を見せつけて「休まず行くぞ」と告げられて絶望の表情を浮かべながらも黙って付いていった。


 この魔石灯は魔道具といっても比較的安価で手に入る。

 かといってスラム暮らしの子供には十分高い。

 日々の魔物狩りで得た小遣いを奮発したランブのとっておきだ。


「そんなの持ってるなんてランブ君って凄いなぁ」

「僕らには絶対買えないよ。いいなぁ、魔石灯」


 などと、アキとナラは褒めちぎった。

 本心は文句を言いたかったが、そうするとランブに殴られると身に染みて分かっていた。



 やがて陽が昇り始め、朝となってようやく旧道跡を見つけた。

 周りより背の低い下草と最近誰かが通ったような痕跡。

 これを辿った先にダンジョンが発生したのだという話だった。


「アキ、ナラ一度休むぞ」


 ここでやっと初めての休憩をとるとランブは告げた。

 疲れで崩れるように草をベッドに眠ったアキとナラだったが、ランブは興奮であまり眠気も無い。

 だからこそ二人を寝かせ、自身は着火用の魔道具を使って火を焚く。

 着火用の魔道具を取り出した時にはチラリと寝ている子分を見やった。

 これも褒めてもらいたかったのだが、寝ていては寝言しか言えない。

 舌打ちを一つして焚火を前にどかりと座り、携帯食を取り出して齧った。

 この携帯食は腹が膨れて栄養が摂れればいいという探索者御用達のもので、味はいまいちだ。

 だがスラムの者にとっては、日持ちして腹も膨れるありがたい食事と人気がある代物。

 

 昼前には子分を蹴り起こして二人にも食事をさせると、再出発した。  

 獣道のような街道跡をランブが先頭に立って進む。

 道中では見知った魔物である中型犬ぐらいの大きさをした芋虫や、葉っぱが何枚も繋がって人型を取る葉人形を見かけたが、これは足が遅いので無視して進む。

 幸い足の速い魔物には遭遇することは無かった。


 陽が中天に達する頃、不自然に草も木も生えていない空間が忽然と現れた。

 その中心にこれまた不自然に洞窟が口を開けている。


 あれがダンジョンの入口だろうと当たりをつけ近づくと、何とも言えない不気味な感覚が三人を襲った。


「行くぞ」


 ランブが自身を奮い立たせるために発した言葉に、アキとナラは従って付いていく。

 入口から中を覗くと、凸凹とした下り坂が伸びていた。

 だが陽の光が届かない奥は見通せない闇が広がっている。

 明かりがなければ進めなかっただろう。

 アキがすかさず、

「流石ランブさん。魔石灯が無ければ進めませんでしたね」

とおだてる。


「俺は探索者なんだ。当たり前だろ」


 探索者としてギルドに認められるのは12歳からとなる。

 ランブはまだ11歳なので、正確にはギルドに出入りしているだけの見習いなのだが、喧嘩が強いことと魔物を狩ってきた経験をもって一端の探索者を気取っていた。


「いつも通りにアキと俺が並びで、ナラはちょっと後ろを付いて来い。ナラには魔石灯を持たせるけど、絶対に落とすなよ」


 普段の狩りではランブとアキが木剣を使って魔物を倒し、ナラは石を投げて誘き寄せや援護に回っている。

 ダンジョン内でも同じ役割でいこうと思っていたが、暗いので明かり持ちが必要なためこの布陣にした。


 三人はそれぞれの持ち物を固く握り、ダンジョンへと踏み入っていく。

 

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