第3話 紅 響子は悲しむ

目が覚めるとそこは何もない部屋だった。床はコンクリートで出来ていてお尻と腰が痛い。手は手錠によって柱に着けられて何とか上下に動かすことが出来た。足はロープで両足をくくられて1cmたりとも動かない。


「お、目が覚めましたか。おはようございます」


私の前にはユウジ君…いや、が立っていた。


「ここは…どこなの?」

「それは言えません。いまから電話を掛ける相手に話されては困りますから」

「警察に電話してやる」

「出来るものならどうぞ。掛ける前にスマホがどこにあるか探さなきゃいないですけど」

「スマホなら私の左ポケットに…」


私は伸ばされていた足を折り曲げ、ジャンプをすると同時に手を上に上げて何とか立ち上がることが出来た。

しかし、気づいてしまった。左のポケットのなかに何もないことに。


「あ、気づいた。スマホはここにありマース」


デ〇ノートのLのように親指と人差し指でつまんで持っていた。


「返して!」

「返すわけないでしょ!ロックは解除してあるから。よし掛かった」


『もしもし響子。遅いよ。何してるの。早く帰ってきなさい』

「もしもし。紅響子さんのお母様ですか?」

『そうですが…。そちらはどちら様ですか?』

「あ、名乗るのを忘れていました。私はあなたの娘さんを誘拐したものです」

『え、誘拐…』

「はい。今から要求を言いますのでメモの用意をお願いします」

『はい』


少し間が出来て、数秒もしない内にまた男は話し始めた。


『準備できました』

「それじゃあいいますよ。明日の15時30分までに南公園近くの公衆電話の中にアルミのアタッシュケースに1億円をいれておいて置いてください。娘さんの解放はお金の確認後に連絡をします。すぐに決められないと思いますので明日の10時頃にまた連絡させていただきます。そして最後に嘘でないことの証明に娘さんの声を聞かせます」


 そして、私にスマホを向けられて一言。


「お母さんです。助けを存分に求めてください」

「お母さん助けて!お願い!早く!」


また耳にスマホを男は耳に当てた。


「それでは良い返答お待ちしてます」


スマホをポケットに入れた。


「なにか聞きたいことはありますか?」


少し考えて聞いた。


「何歳なの?」

「プロフの通りの18歳ですよ」

「何でこんなことしたの?」

「金が必要だったんですよ。クズ親が残した1億円の借金を返すために」


私は疑問に思った。まだ18歳なのに借金に苦しめられる彼がどんな人生を生きてきたのか。


「どんなことがあったの?」


男は少しため息のようなものを吐いて語り出した。


「僕は小学校の頃から一人だったんです。両親は2人揃ってギャンブル依存症で家に帰ってくると誰もいなくて一人ぼっちで誰か来るとしても、怖いヤクザか返金を催促する親戚でした。

そんな日が約6年続いたある日のことです。僕は幸いにも勉強ができて友達もたくさんいました。その友達の家に2泊3日でお泊りをして帰って来た中学2年生の夏の日、家に帰って来ると家の前によく見る隣の部屋のおばさんがいました。その人はよく僕の面倒を見てくれた人で勉強も教えてもらってました。おばさんは『ユウくん。あなたのおうちとても臭いわよ』と言いました。僕は『すいません』と謝ってドアを開けた。扉の先には両親の首吊り自殺の死体があった。

おばさんは叫んで警察を呼びに行きました。僕は両親が死んだと普通なら感じてはいけない感情を感じました。

ヤクザは『俺もお前のことはよう知ってる。せやさかい20になるまで利子付けずに待ったる。その代わりに20なったら耳揃えて払えよ』と言って待っています。

中学卒業と同時に一人暮らしと仕事を始めました。月20万で借金返済するために月2万貯金しても全然足りなくてこうやってあなたを誘拐したんです」

「そっか…」

「僕は寝ます。あなたも寝ておいてくださいね。大事な人質なんですから病気になっては困ります。それでは」


歩いて近くにあったドアを開き何処かに入った。

その日の夜は全然眠れなかった。


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