スケール
まきや
測り屋
「レイリーのお目々には、きっと小さな目盛りが付いているのね」
祖母の言葉を借りると、そうなるらしい。それぐらい僕は小さい頃から、何でも
かなり変わった趣味嗜好だと周囲に思われているのは、重々承知している。ただ自我が芽生えてから
周りの子どもたちがバットやボール、戦車や飛行機で遊んでいるのをよそに、僕はひとりだけその手に物差しを持ち、ポケットに手のひらサイズのノートと分度器を入れていた。そしてとにかく目に見えるものを何でも数値にして記録していった。白い帳面が数字と記号で真っ黒になるのを、僕は嬉しそうに眺めたものだ。
当然そんな行いをする僕が、学校でいじめっ子たちの格好の標的になるのは道理と言える。
「おい、
口にするのもはばかられる、そいつを指差した上級生たちに、からかわれるのが日常だった。
「いやです」
僕が断れば、それがまた奴らに餌を巻く事になる。その時はいじめっ子のひとりが追いかけてきて、僕の肩をつかんだ。そいつは自分のズボンをパンツごと下に降ろした(彼には若干の脱ぎグセがあった)。
「ほら、見ろ! お前のチンケな定規じゃ測れないサイズ――馬並みだ!」
僕は素直に目を反らすべきだったが、ついつい
「それぐらいなら測らなくてもわかります……となりで飼っているペキニーズ犬のロッキーのと同じぐらい。2インチ弱って所かな」
まもなく僕は、顔を真っ赤にしてズボンを履き直したそいつに殴られ、土と砂の上に倒された。もみあげの上からブーツで顔を踏まれ、傷みに悲鳴を上げる。
「お前の顔の骨が折れるまでの時間を測ってやる!」
「やっちまえ、ダイラン!」周りが男子の歓声と女子の悲鳴で騒がしくなって来る。
そんな中、ひとりの女の子が進み出てきた。
「やめなさいよ!」その勇気ある少女は学校の中でも『強い女子』のひとりだった。名前は……あまり思い出したくない。親が町の権力者だった事だけは言っておく。
そんな背景もあって、いじめっ子は――捨て台詞を吐いたものの――僕の顔から足をどけ、大人しく去っていった。
僕は痛む頬を押さえながら、半身を起こした。左手に握っていた物差しが折れていない事を確認してホッとする。人に無関心な僕は少女に礼を言うことすら忘れていた。
「大丈夫?」少し年上の少女がかがみ込んで、心配そうに訊いてきた。
ここで僕が本当に自分に正直で一途だという証拠を見てもらいたい。どこかの物語なら小さな恋が芽生えてもいいぐらいの場面。でも僕の心はぶれず、信念を貫くことを求めるのだった。
「短いですね。だいぶ短い。これまで見た中では最短かもしれない。是非、正確に測らせてくれませんか?」
「え?」
「あなたが履いているスカートの長さです。『パンツが見えるぐらい短い』は、具体的にどれぐらいの量なのか? その答えは僕のノートに記録しておくに値しますから」
少女の目が点になった。僕は返事をもらう代わりに、手痛い平手を頂戴した。翌日から少女は、僕が卒業するまでいじめる側のメンバーのひとりに加わった。
子供の頃の思い出はそれぐらい。とにかく青春とか友達とかに恵まれない、痛みの記憶だけだった。
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