8-2
ダラムクス新ダンジョン調査。
従来のものの近くで見つかったこのダンジョンは、「魔素濃度が高い」という理由で、ギルドはかなり警戒している。今回の緊急調査もそれが理由である。
過去、探索されたダンジョンには、過去文明が埋まっていたという記録も残っているため、それも兼ねた調査も行われる予定だ。といって、過去文明が見つかっても、それを扱えるほどの技術がダラムクスには無いため、見つかっても見つからなくても大した騒ぎになる予定は無い。
そして、その調査には「ミヤビ・オウブミ」、もとい桜文雅という名の冒険者も加わっている。彼女は、今回参加している金級冒険者の中で唯一女性であるが、最強と言われている。転生者で「祝福」を受け取っていることも大きな理由の一つであるが、それ以上の「戦闘センス」がある。敵の行動を見極め、彼らの首筋を鮮やかに切り裂いていく。
彼女の活躍と、ギルドマスター考案のパーティ編成もあってか、特に大きな負傷者が出ることもなく、調査はスムーズに進んでいた。
ミヤビ率いるパーティにて。
「やっぱ、アネゴって化け物だなぁ」
「レディにそういうこと言うからモテないんだよ、ジョン」
ミヤビの飲み仲間、もといセックスフレンドであるジョンは、彼女のパーティに配属されていた。
「あ、アネゴ、怪我はありませんか?」
アネゴ、と呼ぶのに慣れていない新米
「アネゴの事なんて気にするなよ、嬢ちゃん。化け物以上に化け物なんだから」
ミヤビにとって、ジョンと同じような位置にあるニックもその場にいた。
奇しくも、ミヤビがモトユキを連れてギルドを訪れた時に出会ったメンバーが、彼女のもとに集まっていた。それぞれはソロで行動することが多く、ギルドマスターに指名されたのも全くの偶然。にもかかわらず、小隊の中ではトップクラスの連携を見せていた。
十階層。
迷宮型のこの階層は、その名の通り入り組んだ地形になっていて、魔物に挟み撃ちされることも珍しくない。ただ、それは、魔物がどの方向から来るのか絞りやすいため、「警戒しやすい」ということにもなる。行き止まりを背にして、調査隊は一旦動きを止めることにした。
そろそろ魔物を倒すのにも余裕がなくなってきた頃だったため、ギルドマスターが隊を再編成することにした。大人数で隊を築いていたのは、ダンジョンをくまなく見て回るためであったが、ここまでの過去のダンジョンとの相違点が「魔物が強い」ことと「地形が違う」くらいしかなかったため、安全を重視した「少数精鋭」という形でいくことになった。(ダンジョンのそれぞれの階層で地形が違うことは珍しいことではない。例えば、迷宮型、極寒型、砂漠型、森林型、洞窟型など様々な形がある。過去のダンジョンとそれらの順序が違えど、さほど問題ではないと判断したのである)
その結果、金級5名、銀級2名、
「なんか俺たち、アネゴのおこぼれをもらってるみたいになったな」
ニックが笑いながらそう言った。銀級で残ったのは、ミヤビ班だったニックとジョンの二人だけであり、ギルドマスターに活躍を認められた結果ではあったが、二人は他の銀級の目が気になるのであった。
現在、休憩時間。見張りは他に任せて、彼らは焚火を囲いながら、まったり談笑していた。
「はぁ、死にたくねぇ……」
「頭が輝いてるから、ジョンはすぐに食われそうだねぇ」
「やめてくれよアネゴ、へへ」
「ジョンさんって、禿げてるんですか?」
「剃ってんだよ。魔物に掴まれてしまう危険があるから、本当は身なりなんて気にせずこうするのがいいんだ」
ジョンは、アーリーンの質問にやや食い気味で応える。
彼の頭が火の光を受けて輝く。それは彼の真面目さの証であったが、ミヤビとニックにとっては面白くて仕方がなかった。
「相変わらず真面目だなぁ、お前」
「なんか、意外です」
「――――ジョンは早いうちに家族を亡くしてるんだよ」
「おい、アネゴ。その話はしんみりするからあんまり……」
「いーじゃねぇか! 聞かせてやれよ」
「わ、私、聞きたいです」
「こいつは、まだ子供のころに、フォルティス・ウルフに家族を食われたんだってさ。そのせいか、私が出会ったときには、誰にも口を利かない偏屈な野郎だった」
「だったなぁ……反抗期のガキみてぇな感じ。でもその頃から禿げ頭で、目つきが悪かったから、誰も寄り付かなかったな。でも、アネゴだけが執拗にちょっかいかけてたな」
「私がハゲをいじってるうちにキレて……それで、仲良くなったっけ」
「ったく、アネゴはずっとハゲハゲうるさいんだよ」
「ハーゲ」
「だから剃ってんだよ!」
三人のやり取りにアーリーンは微笑んだ。初めは変な人たちだと思っていたが、こうしてクエストをこなしていくうちに、彼らの本当の姿が見えていくようで面白かった。
「そういえば、なんで……あ、アネゴはアネゴって呼ばれてるんですか? あと、なんで仮面をつけてるんですか?」
未だ、彼女は「アネゴ」と呼ぶことが気恥ずかしく感じていた。
「そりゃ、強ぇからだよ。仮面は確か……あれ、なんでだっけ?」
「腕相撲なら勝てんだけどなぁ……」
「ハハハ、殺し合いなら負けないよ」
「さらっと怖いこと言うなぁ」
「この仮面をつけてるのは、単純にかっこいいから。みんなの記憶に残りやすいでしょ」
「悪い意味でな」
ミヤビは華奢な体をしている。傍目からだと「強い」とはとても思えない。しかし、現に魔物を簡単に殺していく姿を見ていたものだから、アーリーンは不思議と鳥肌が立った。
「ニックさんはなんで『ロリコン』って言われてるんですか? とてもそういう風には……」
「え、えーと……」
「こいつは、娘と妻を魔物に食われたんだ。と言っても、私がここに来る前の話だから、私も顔知らないんだけどね。……それで、小さい子を見ると、娘を思い出してついつい目で追ってしまって……それだけならいいんだけど、顔が怖いから『ロリコン』って呼ばれてるんだよ」
「えー、可哀そうですね……」
「同情してくれてありがとよ」
「よくよく考えてみると、すごいパーティだよねぇ。ハゲ、ロリコン、クソビッチ……ハハッ」
「おいおい、アネゴ、酒飲むのもほどほどにしておけよ」
「え!? それお酒だったんですか!? マスターに駄目って言われてませんでした?」
「まぁ、私、チ〇コ握ってるから! ハハハッ」
「ち、ちん……!?」
「気をつけろ、そいつは酒はいると、男ドン引きの下ネタ言い出すぞ」
「一体何人、チ〇コ握られてんだか……」
☆
しばらくして、見張り交代の時間になり、ニックとジョンがその場から抜けた。そして彼らは、雑魚を殺しながら話すのであった。
「なぁ、今日のアネゴ、少しおかしくないか?」
先に口を開いたのはニックだった。
「……最近、ルベルちゃんが問題起こしてるらしいよ。それで、ストレスたまってるんじゃねぇかな」
「いつもだったら、クエスト中は絶対酒飲まねぇのにな」
「しょうがない。ニックの方が分かるだろ? 娘がもし今も生きてたとして、よからぬことをしてたって考えてみろよ」
「……まぁ、確かにな。シラフじゃ上手く話せねぇかも」
「確かにアネゴはクソビッチだが、人間として大事なモンは持ってるはずだ。あんまり心配しなくてもいいだろ」
「エモッ、お前」
「事実だろ。アネゴが居なきゃ、俺は今頃死んでた。お前だって」
「……」
「そういや、この前……ほら、『紅い月』の後、俺、ルベルちゃんが怒鳴ってるのを聞いたんだよね」
「あぁ、知ってる。例の『ビルギット嫌い』だろ?」
「実際お前はどう思ってる? あの機械野郎」
「うーん、守ってくれるんなら、それでいいんじゃねぇかな。ちょっと気味悪ぃけど」
「……美人だよな、あの機械」
「良い趣味してるぜ、作ったやつ」
「つーか、あの乳本物なのかな?」
「カッチカチだったら面白いな」
「夢ねーなぁ」
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