2-1 「死の雪」
「これからどうする?」
「とりあえず、人の居るところを見つけたいな。情報も欲しいし」
「……どうやって?」
「ちょっと待ってて」
俺は「力」を周囲に広げた。俺の念力はただものを動かすことだけじゃなくて、まるで手のように物を感じ取ることもできる。
何にもない。もっと広く探知をしてみよう。多分これで、百キロくらいか?
……森がある。何故ここだけ?
「多分森の中、割と大きい屋敷を見つけた」
「……?」
ディアがこちらを見ながら首をかしげている。傍から見たら、何をしているかさっぱり分からないんだろう。目を閉じてぶつぶつ言ってるだけだもんな。
「念力探知って俺自身は呼んでる。『力』を使って周囲を調べたんだよ」
「よく分らんが、ともかく人間が居そうなところを見つけたんだな」
そういうとディアは黒い雪が降ってくる中に飛び出した。「何をするんだ?」と聞く前に、その答えが知れた。
ディアが龍に変身した。グロい変身の仕方だった。煙とか光とかが目隠しになっていつの間にか変身している、というものではなくて普通に現実味のある変身。彼女の骨格と皮膚がそのまま進化するように変形した。ドラゴンから人間になるときにも見たが、なんというかこっちのほうがインパクトが強い。少女の皮を被った化け物が飛び出してくるみたいだから。
「吾輩が連れて行ってやろう。この身体なら、この程度では傷つかない」
「ああ、道案内は任せろ……今度から変身するときは服を脱いだ方がいいな。破れるから」
ドラゴンの下敷きとなった、ビリビリに敗れた服。せっかく調達してきたのに、なんだか勿体なかった。こいつが人間に戻るときは、服を用意しておかないとな。
「あ、すまん」
「まぁいい。とにかく出発するぞ」
ディアケイレスは大きく羽ばたいた。塵旋風が辺りに吹き、その巨躯がふわりと浮き上がる。その風貌には、確かに「混沌邪神龍」と詠われた名残が感じられる。曇天から差し込む鈍い光を受けて、美しく至極色に輝く鱗。そして、堂々たる威厳で俺を見下ろす金色の瞳。
……何となく察したけど、俺って獲物みたいに運ばれるのか?
ディアの大きな足の爪が、俺の体を鷲掴みにした。
「これが安全策だ。我慢しろ」
「はぁ」
念力で飛んで行ってもいいのだが、まぁいいだろう。こういうのも異世界なりの趣だ。少々格好は付かないが、こうしておけばディアの体が傘代わりになって、俺は雪のダメージを受けずに済む。道案内はディアの角をぐいぐいとその方向に引っ張ってやればいい。
☆
飛行を始めてからそこまで時間はかからなかったはずだ。俺に配慮をして、割とゆっくりと飛んでくれていたが、それでも十二分な速度だった。なかなか爽快であったが、爽快すぎて寒かった。結局風から身を守るためにバリアを貼ったし。
「――――うぉっ!?」
ディアの突然の旋回に驚き、思わず声が漏れた。同時、俺の視界の端に禍々しい黒色の光の柱が見えた。結構な距離があるはずなのに、あの光の柱から漏れ出る熱が俺の頬を撫でるのを感じた。
間違いなくあれは俺たちへの攻撃だ。そう確信した。
「なんだ? 何が起こっている!?」
「さあな。吾輩が目立ちすぎたか」
ディアは着陸の準備をする。ところが、刺客の攻撃は的確にこちらを狙ってくる。ディアの図体がでかいから、避けるためには大きく動かなければならない。正直酔いそうだ。
ディアが避けなければならないほどの攻撃……只者ではない。
「人間……いや、吸血鬼か」
「吸血鬼?」
俺は下にいる存在に目を向けた。遠目からじゃよくわからないが、不健康な緑色の森の中で一人こちらを見ているのは、どうやら銀髪の男だった。そして、その背中には真っ黒い蝙蝠の翼が生えている。
睨まれた。
その瞳は、遠目からでもはっきりわかる紅い色をしている。
人間ではない、根拠はないがそう確信した。
「ディア、俺を離せ!」
「大丈夫なのか?」
「ああ」
空中に飛び出し、念力で浮遊する。雪を振り払いながらバランスを保つ。
ディアに向かって放たれる魔法を念力で掴み、そのまま違う方向へ逸らす。良かった、俺の念力は魔法に対抗することができるらしい。奴はそれに驚いたのか、咄嗟に逃げ出した。
だが念力とは便利なものだ。念じるだけでいいのだから。
銀髪の男を捕まえるイメージで、力をかける。その瞬間男の動きは止まり、力にもがく。が、彼には何もできない。
「すっげぇ力だな」
かなりの力をかけている。一般人ならあっさり潰されて死んでいるレベル。それ以上でなければ、抑えることが出来ない。
やばい、制御が利かなくなってきた。早めに降りないと、俺が吹っ飛んでしまう。
地面に叩きつけられてしまう恐怖と戦いながら、何とか地上に降りた。
……ディアも降りてきたが、人間に戻ろうとしていた。
「待て待てディア、今変身したら真っ裸だろ」
「あ」
変態と勘違いされるよりかは、ドラゴン使いの変な奴として認識されたほうがいい。相手を潰すつもりはないから、変な警戒心を持たせてしまっては駄目だ。
吸血鬼のところへ来た。まだ俺の念力から脱出しようともがいている。それにしても端正な顔立ちをしている。鼻筋が綺麗に通り、大きな真紅の瞳と綺麗な白い肌をしている。やはり吸血鬼なのか、異様に長い犬歯も生えていた。それから百九十はあるだろう長身。
「離せッ!」
その綺麗な顔をゆがませて、こちらを睨みつけている。
どうやら、「殺意」というよりかは「恐怖」という感じだ。額に冷汗をかき、睨みつける紅色の瞳はわずかに震えている。それも無理はない。近くにいるのは混沌邪神龍。そんなドラゴンの前で身動きが取れない状況にあるのだから。彼女の魔力とやらが、おぞましい量をしているのは間違いない。
「えっと、別に殺しに来たわけじゃないんだ」
「嘘をつけ! 僕を殺しに来たのは分かってるんだからな!」
……どうやら、酷く怯えさせてしまったらしい。
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