35話 ユーキャンフライ 決着の青き空

 宗玄が空へ向けて手を大きく伸ばす。視線の先には底面をこちらに向けて飛んでくる、本来ならあり得ない状態のヘリコプター。本来のスピード以上に速く向かってくる鉄の塊を今、正面から受け止めようとしているのだ。


 そんな無茶に体を突き動かすのは、市民を守る警察としての使命感。とはいえ怖くないといえば嘘になる。この玄武を信頼していると言っても、普通の人間ならペシャンコに押しつぶされるのが関の山だろう。それでも犠牲を出さないためには今ここで自分がやるしかない。足の震えを気合で止めて、眼前に迫るヘリをまっすぐに見据えた。


「来た! 後は頼んだよ、お嬢さんたち!」


 三人に合図を出すと、ヘリコプターが元々はガラスの枠組みだった鉄骨をへし曲げて腕に衝突してくる。ズシンとくる衝撃が腕から体全体へ伝わっていく。歯を食いしばりながら踏ん張っていると、インターフェイスに赤い警告アラートが表示され鳴り響く。


「邪魔臭いけど、こっちは切れないのか!」


 危険なことは重々承知している、だからこそアラートは切ったはずなのだが、通常の損傷を知らせるものと違い、この装着者の身体に甚大なダメージを与える危険性とやらを知らせるアラートは切れないらしい。


 「向こうは始まったか、行くぞ! ドラゴニックレック――ッ!!」


 宗玄の様子を確認した龍二が手はず通りに火球を相手のバリアへ投げつける。圧縮された炎は高速で動き続けるガラスの壁を貫通するも、その中にいるピクシーには届かなかった。


「朱雀の火力を刮目せよ!」


 龍二が作ったバリアのほころび、それを逃さずに朱里が総攻撃をかける。両腕から現れた四丁のガトリング、スカートの中から飛び出すナイフ、目から飛び出すビームに鋭い刃と化したカチューシャ。そのすべてがバリアと正面からぶつかっていき、人が通れる程の穴を開けた。


「私が仕留める! これで、終わりだぁ!」


 朱里の攻撃が止むとほぼ同時に、虎白が一気に距離を詰める。白虎の速度は音速を超え、その姿は誰の目にも捉えられずに鋭い一撃をピクシーに叩き込み、確実に体を引き裂いた。


「二度も私の前に現れて、しつこいったらありゃしない。ま、死にぞこないにはお似合いの最後なんじゃないの」


 瞳から光を失い倒れこみ、鮮血を溢れさせるピクシーを見下しながら、虎白が冷たく笑う。鋭く長い爪が伸びた腕は血で濡れており、それをうっとおしく思ったのか、虎白が腕を払うと、赤い飛沫が床に飛び散った。




「やったか! 朱雀、白虎、手間を掛けさせたな」


 敵が戦闘不能になったことを確認すると、龍二が構えを解き、戦うために生み出した剣も消えていく。肩の力がどっと抜けるが、見知らぬ人間や警察もいる以上、人間の姿に戻る訳にはいかない。


「ぼさっとしている場合か! 玄武を支援するぞ、助けられなかったでは後味が悪い」


 勝利の余韻を味わう暇もなく、朱里は後ろを振り向くと、いまだにヘリの重みに耐え続ける宗玄の支援へ向かう。


「おっと助かった! とりあえず機体は固定しといたから、中にいる人を助け出してほしい」


 宗玄の言う通りに、朱里がヘリの中にいまだに取り残されていた人たちを助け出す。


「もう安心ですよ、さあ私の手を取ってこちらへ」


「あ、ありがとうございます……助かったぁ」


 一人一人、ゆっくりと手を差し伸べると、皆礼を言いながら降りていく。感謝の言葉を聞くと朱里は人の命を助けたという実感が心の中で湧いてきて、仮面の下で優しい笑みを浮かべた。


「やった、やったよ! 大勝利だー! 私のおかげ、だよね?」


 ヘリの中にいた人間も助け出し、やっと一息つけると思っていた龍二のもとに、愛が駆け寄って勢いよく抱き着いてきた。


「お、おい抱き着くな! 確かに愛のおかげで皆がまとまったのは事実だが……」


「でしょでしょ! 意外と私って、参謀とかの才能あるんじゃない!?」


 得意げな顔をする愛に対し、龍二は苦い顔をするが、実際あの時喝を入れられなければ作戦が纏まらなかったと考えると、何も言い返せない。


「いや、あれは参謀ってより叱りつける母親っていうか……」


「かっこよかったよ、皆に向かってビシッて!」


 未だに龍二から離れない愛のもとに、里美と七恵の二人も寄ってくる。戦いの緊迫した空気は一転しどこかに消え去ってしまい、四人の間にはいつもの空気が流れていた。


「皆様、無事で何よりですわ。まさかあなた方も巻き込まれていたなんて」


 そんな場面に咲姫がやってきた。のはいいのだが、その顔にはマスクをつけており、前に見たことがある龍二以外は仮面をつけた不審な人間が近づいてきたことに若干の警戒を見せている。


「ど、どちらさまでしょう!?」


「いやいや、なんとなく察せませんこと!? 朱雀のパートナー、この高貴なるオーラを身にまとう人間など一人しかいないでしょう!」


「あ、あーっ!紅が――」


「あー! ストップストーップ! 分かってほしいけど名前は言ってほしくなーい! ですわ!」


 名前を思わず口走りそうになってしまった愛の口を無理やり咲姫が塞ぐ、この場には警察もいる以上やはり正体がバレるのは避けたい。


「うーん、僕としては知っておきたい所だったんだけどなぁ……」


「あっ、宗玄さん!」


 救助がひと段落した宗玄も話に加わってくる。玄武のメットは未だに被ったままであるのだが、前にも会ったことがある里美だけはその正体を知っていた。


「こっちの正体は筒抜けなのにさ……やぁ里美ちゃん、久しぶりだね。君もまた特殊生物絡みに巻き込まれるなんて運が悪い」


「あはは……ほんと勘弁してほしいですけどね……宗玄さんの活躍、ニュースで見てますよ。その、なんて言っていいのかわからないですけど、頑張ってください」


 一度宗玄に助けられて以来、里美は玄武に関連したニュースをつぶさに観察してきた。龍二と朱里、おそらくこれからは虎白も拘束対象とされる以上、手放しで応援をするわけには行かないが、一度命を助けられた相手の活躍を祈らずにはいられない。


「ありがとう、手放しで応援されることばかりじゃないし、そういうの励みになるなぁ……それはさておき」


 宗玄が龍二の方向へ視線を向ける。今まで里美に向けていた朗らかでさわやかな笑顔とは正反対である、凛々しい警察の顔に一瞬で切り替わったことが、メット越しでもわかるようだった。


「君が青龍君だったかな。拘束対象として、一応は挨拶しておこうと思ってね」


「……やれやれ、戦闘は終わったと思ったのだがな。不本意だがこちらは大人しく捕まってやるわけにはいかん、そちらがその気なら全力で答えるが」


 辺りの空気がひり付く、龍二は先ほどの戦闘で疲れ切った体にもう一度エンジンをかけるように、体に力を入れながら宗玄を睨みつけた。怪物に変身する者が警察に捕まれば、どのような扱いを受けるのは未知数だ。たとえ丁重な扱いを受けるとしても、この力で守りたい人がいる限り組織に縛られるのはごめんである。だが、敵意をむき出しにする龍二に対し、宗玄は気の抜けた声で答えた。


「おいおい、随分血の気が多い男なんだな君は。後ろにいる人たちの表情を見てごらんよ、こんなムードで即捕獲なんてしたら世間からの評判がどうなるか……手でも出さない限り、今日のところはなあなあで済ませてやるさ、この玄武も無茶してもう限界だ」


 宗玄が後ろで助かったと歓喜の声を上げる人達に視線をやる。命を懸けて自分たちを守ったヒーロー四人を称える声が沸き上がり、この前でまた争いなど起こす気にすらならない。


「もー! また喧嘩始めるのかと思った! なんでみんな仲良くできないかなぁ……」 


 にらみ合う二人を真剣に見つめていた愛がどっとため息を一つ。




「う……私……」


 穏やかな雰囲気を取り戻した輪の外で、一人の怪物が意識を取り戻した。その怪物は、頭の中の靄がすべて晴れるように消えていき、今まで自分が何をしていたかわからないが、スッキリした心と裏腹に体は傷だらけで動きたくても動けずに、ガラスの飛び散った床で血を流しながら倒れている。ピクシーが死の間際に支配から逃れたのだ。


 唯一動かせる目を動かして、周囲の状況を把握しようとする。近くにいる人間はもはや命を失ったとこちらに一目もくれない。そしてそんな人間たちが称えているのは、見覚えのある力を持つ者たち。その中には、愛する者を奪った龍二の姿もあった。


 本来ならあの姿を見るだけで憎悪が頭の中で溢れ、憎き仇を殺すために体が勝手に動き出すはずなのだが、今ではそんな体力はもう残っていないらしい。どうやら自分の命はじっとしていても持って数分。能力を使ったとしても一度きりで死に至る。根拠など何もないがピクシーは直感でそう感じていた。


 自分に残された最後の命の灯で、最大限やれることは何か。奴に、きっちりトドメを刺したと確認しなかったことを一生後悔させるために何ができるか? そう考えた時に視界に入ってきたのは仇である龍二が一番気にかけていた女、愛であった。


「目には目を、歯には歯を……なんてね」


 誰も見ていない隅で弱々しく笑うと、一残った命の全てを使うことで、今まで動かせなかった人の体をこの一度だけ動かした。




「おおっとっと!?」


 その時愛は突然の浮遊感に襲われた。丁度抱き着いていた龍二から離れようとした瞬間だったので、足を滑らせたかと思ったが明らかに何かがおかしい。なんとか踏ん張ろうと思っても足が空を切るようで、次第に自分が展望台の外へ近づいているのがわかった。


 周囲がそんな愛の異変に気付いた時にはもう遅かった。本来はガラスで守られているはずの、手すりなどない窓から、愛は六百メートル以上の高さを真っ逆さまに落ちていく。


「愛――ッ!!」


 一番近くにいた龍二が愛の手を掴むも、引き上げるには至らない。むしろ急速に落下する愛に引かれ、龍二までもがスカイタワーから落下する。


「愛ちゃん!? 愛ちゃぁぁぁん!!」


 普段大きな声など出さない七恵の叫びが耳に入ってくる。だがその叫びも、落下し展望台から離れていくにつれて聴こえなくなっていった。




 二人は繋いだ手を決して離さないまま空中でもがき続ける。強い風が体全体に叩きつけられ、目も開けるのがやっとの中で龍二は愛をまっすぐ見据えてどうにか助け出そうと考えを巡らせる。それでも青龍の能力では飛ぶこともどこかに掴まることもできない。


 地面に激突するまで残された時間はそう長くないはずだ、何か行動を起こさなくては、そう思うと体が勝手に愛へと近づこうとしていた。繋いでいない方の腕を使い相手の体を掴み引き寄せ少しずつ近づく、そうすると龍二が愛の肩を掴み、話せる距離までそっと抱き寄せた。


「愛、俺を下にしてクッションにするんだ。無意味かもしれないができるだけの事は――」


「なにそれ、龍二君を下敷きにするなんてやだよ」


 混乱する頭の中で龍二が考えた苦肉の策、もちろんこの高所から落ちて、人一人をクッションにしたところで無意味に過ぎないのだが、もはや愛を守るために龍二ができることは、それ位しか無くなっていたのだ。


「すまない、俺に朱雀のような飛行能力があれば……いや、あの時俺の側から君を離さなければよかったんだ! ああ、くそっ! 今さら悔やんでもどうしようもないと言うのに!」


「ごめんね、私が落ちたせいで巻き込んじゃって……プレゼントは壊すわ人質にはされちゃうわ、なんだか最近龍二君に迷惑かけてばっかりだなって思ってたのに、まさか最後にこんなことになるなんて」


「最後なんて言うな! それに全て君のせいじゃない、君が転落したのもおそらく奴の能力で――」


「でも、死ぬなら私一人でよかった! 一人じゃ何もできないくせに、他人にばっかり迷惑かけて、こんな……こんなっ!」


 愛が大粒の涙を目から零す。涙は宙を舞い、龍二の頬にまで飛んできて、冷たい雫が戦いで火照っていた体を優しく冷ましていった。愛が悲しんでいるというのに、今の龍二は慰めの言葉すら浮かばない。ただ重力に身を任せ地面に向けて落下するしかできない。だが、お互い相手の手だけは絶対に離さなかった。


「ねえ、一つお願いしていいかな」


 愛が泣くのをやめて龍二に呼びかける。その声には不安と焦燥が入り交じり、ひどく震えていた。


「なんだ、愛の頼みなら何だって聞いてやる」


 そんな声を聞いた龍二は、いま自分がやるべきことが、彼女の望みを叶える事なのだと感じた。死が避けられない運命なら、せめてそのぐらいは……少しの沈黙ののち、思い切って愛が口を開く。


「ぎゅって抱きしめてほしいの。怖くて震えが止まらないから、一ミリも動けないぐらいに強く、強く――あなたの体温を感じたいな」


「そのぐらいなら造作もない。俺も――今は愛の傍に居たい」


 龍二が愛を力強く抱きしめる。するとお互いの体の温もりが肌を通じて伝わり、一つになったかのように交わる。こんな非常事態だというのに心地よくて、甘い香りは胸を高鳴らせる。


「ねぇ……ずっとずーっと、思ってたことがあるの。こんな機会じゃないと、多分言葉にできないと思うから」


 愛が耳元でそっと囁く。体に叩きつけられている強風とは違う、耳を優しく刺激する吐息がくすぐったい。今ではないと伝えられないことなど、どんな事なのだろう。龍二は愛が何を思っているのか、聞きたくてたまらなかった。


「私、ずっと龍二君の事が――ンガッ!?」


 体全体に強い衝撃が走る。地面に激突するにはまだ距離があったはずだが、一体何があったというのか。ただ一つ言えることは、愛の心中で日に日に募る恋心は、今この時は伝えられなかったということだ。




「よし、全部伸びたか! 後は引き上げるだけだ! そこの虎ちゃんは手伝ってくれよ!」


 スカイタワーの展望台の縁、空との境界線上で宗玄が右腕から伸びるワイヤーを、左腕で徐々に引っ張っていく。宗玄は、愛と龍二が落下する間際に、何とか玄武の新装備であるワイヤーを命綱代わりに取り付ける事に成功していたのだ。


「壊れたせいで伸び切っちゃうし、巻き取りもできないし! 最新装備とか言ってもポンコツなんじゃないですか!?」


 虎白は宗玄の体を掴み、一緒になって床に全力で踏ん張る。ここで宗玄まで転落しては元も子もない。


「ヘリを受け止めるなんて無茶、想定しちゃいないんだよ! ともかく今は無事を祈って引っ張るしかない!」


 愛と龍二の命を繋ぐべく、必死になって持ちこたえる二人、そんな二人をよそに、一つの人影が展望台から下に向かっていく。だがこれは落下しているわけではない。飛んでいるのだ。




「な、なにこれ、浮いてる……?」


「いや違うな、俺の体にいつの間にかワイヤーが巻き付いていたんだ。こんなことができるのは……玄武、奴か」


 空中で宙づりになった二人が、唖然として空に伸びる一本のワイヤーを見つめる。上の様子は見えないが、何とか地面に墜落はしないようだ。


「ふぅー……ともかく助かったんだよね、私たち! これでもう命の危険はないわけでしょ?」


 危機が去ったと感じた愛が、この日二度目のため息をつく。だが龍二は対照的に、気を抜いてはいなかった。


「いや、そうとも限らん。これだけ長いワイヤーの耐久性も不明だ、もしどこかで千切れでもしたら……」


「ちょっと! 怖がらせるようなこと言わないでよ! ……ってなんか揺れてない!? どうなってんのこれ!」


 愛の言う通り、二人の体は振り子のように左右に大きく揺れていた。


「これだけ吊り下げられていれば当然風の影響をもろに受ける。このままスカイタワーの鉄骨に激突でもすれば……降りるにしても高さが有りすぎる。登るにしても方法がない。どうしたものか……」


「う、嘘ー! 私馬鹿だけど高いところは好きじゃないですー! 早く誰か助けに来て―!」


 未だに危機は去っていないのだと気づいた愛が、青空へ向かって叫ぶ。こんな場所では叫んでも誰も助けられない、と思っていたのだが、上から急降下してくる人影が一つ。


「暴れるとさらに揺れが激しくなりますよ、遠藤さん」


「そ、その声は……! 朱里さーん! ヘルプ、ヘルプですー!」


「もちろん、すぐお助けいたします」


 朱里がブーストを吹かして自由自在に空を飛ぶ。このワイヤーを上から引き上げていては時間がかかると思い助けに来たのだった。二人の体を優しくすくい上げ、上昇していく朱里、その最中、険しい表情を浮かべつつ、龍二に言葉をかける。


「青龍、お前を助ける義理などないが……貸しを一つ作るだけで許してやる。愛する女を離すんじゃないぞ」


「あ、愛するだと!? いや、その……ええい! 茶化すんじゃない!」


 本来敵である龍二を助ける。朱里の行動原理とは離れているが、もはや当たり前のようになってしまった協力関係。それを素直に認められない照れ隠しにも似た軽口が、龍二を動揺させる。


「ふっ……相変わらずだな、お前は」


 喚く龍二を気にもせず、朱里は一気に加速して展望台へ上っていく。





「愛ちゃん! よかった……」


「もう、今回ばかりは本当にまずいんじゃないかって思った……寿命確実に縮んだよ」


「先輩、ご無事で何よりです。すみません……私がキチンとトドメを刺せていれば」


 朱里に助けられ、また展望台に戻ってきた二人に、七恵、里美、虎白の三人が駆け寄ってくる。虎白は最後の一撃を任されたにも係わらず、仕留めそこない最後の足掻きを許してしまった自分を責めているのか、俯きながら現れた。


「いや、あの場で確実に殺せたかを確認しなかったのは全員のミスと言っていい。お前だけのせいではないさ」


「二度とこんな事は起こさないよう、肝に銘じます。ところで、その……ずっと抱き合ってるつもりですか?」


 虎白が宙吊りから助かっても未だに密着したままの二人に困惑した様子で顔を逸らす。付き合いたてのカップルのように情熱的に抱き合う様子は直視できるものではない。


「ん……そうだな。愛、そろそろ離れてくれると嬉しいんだが」


「嫌でーす! 今日はこうしてずっとくっついてまーす!」


 龍二は愛の体から手を離し、離れるように言うのだが、愛は一向に離れようとしない。それどころかさらに力を入れて抱きしめてきた。


「おい、公衆の面前だぞ!? さっきもそうだが、そうやってべたべたくっつかれるとだな――」


「えー、だって私の頼みなら何だって聞いてくれるんじゃなかったの?」


 確かに、空を落下している途中にそういったことを約束してしまったのも事実だ。痛い所を突かれた龍二が口ごもる。


「なんなのそれ!? 高い所から落ちて死ぬかもしれないって時に、あんたたちは何やってたわけ!?」


「ずるい! 私も愛ちゃんにくっつく!」


 知らない間に親密な約束を交わした二人に思い思いの反応をする里美と七恵。里美は顔を真っ赤にしてまくし立て、七恵は龍二に負けじと愛に思いっきり抱き着いた。


「いやーよくわかんないけど、青春だねぇ……うんうん」


 騒がしくもある賑わいの外で、宗玄はやっと一仕事が終わったとメットを外し壁にもたれかかりながら愛達を見つめていた。そんな青春の様子を見ているのは、宗玄だけではなく、朱里と咲姫もその様子を見つめているのだった。


「無事に助かったんですもの、このぐらい羽目を外したって、ね?」


「少々緊張感が無さすぎる気もしますが……まあ、これにて一件落着ですね」



 日本中を騒がせた、夏休み最後の大騒動。その幕は四神の名を背負う若者達によって今、閉じられるのだった。

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