34話 ゲットレディ 力を合わせれば
遂に四神を名を冠する四人の力が一つとなり、人々の希望となりて悪を打ち払わんとしている。ただ相手であるピクシーもそのままやられるわけにはいかない。その場に落ちていたり、壁にめり込んでいた朱里と宗玄の放った銃弾を操り、攻撃を行う。
「銃撃が逆に利用されるなら!」
宗玄がスタンロッドを手に突撃する。殺傷力自体は低い武器であるが、一時的に行動不能にさせる程度ならできるだろう。銃から放たれた時とは違う曲線的な動きをする弾を避けながら近くまで近寄った。後は押し当てて高圧電流を食らわせるだけだったのだが。
「お巡りさん、後ろ!」
後ろにいる人々を守るために銃弾を爪で切り裂いていた虎白が、頑丈に固定されているはずの展望台の強化ガラスが微かに振動しているのを見逃さなかった。
誰かが触っているわけでもなく、風が強く吹いているわけでもない。ならばこのガラスを動かせるのは、物に触れずに物体を動かす能力を持つ、ピクシーのみ。途端に大きな音を立ててガラスが粉々に砕け散る。それは宗玄の背後に散乱して落ちていくのかと思いきや、その細かい破片の全てが空中で静止した。
「あの攻撃、まさか!」
龍二は二度目のピクシーとの戦いで、似たような攻撃を食らった事を思い出す。あの時は手鏡を使った少量の破片であったが、今はそうではない。助けに入る間も無く、破片が宗玄に全て突き刺さる。
その身で突き刺さる破片を食らった龍二とは違い、硬い装甲がある玄武自体には大きなダメージは与えられていない。だが、大量の細かい破片は装甲と装甲の隙間に食い込むように刺さり、薄いインナースーツと宗玄の皮膚を突き破ってきた。
「ぐあっ……」
宗玄の動きが止まり、スーツの内側で見えないが赤黒い血が流れる。メットの中では装着者の身体へのダメージを感知し、警告メッセージが表示された。
「まったく、こんな機能切っとくべきだったかな……!」
視線でインターフェイスを操作し、警告表示を削除。二度と表示されないように設定をいじると、重い体を無理矢理動かし、立ち直って再度向かっていく。未だに止まらない宗玄の様子を見たピクシーはそれならと表情を少しも動かさずに、次の行動に移った。
今も操られている銃弾を相手に、人々を守り続ける宗玄以外の三人。小さい上に小回りの効いた動きに翻弄されつつも、ギリギリの所でなんとか凌ぎ続けていたのだが、そろそろ限界が近づいていた。
「まったく厄介だ、景気良く撃ち続けたツケがこれか!」
「アンタの弾なんだから、責任取って全部その機械の体で受け止めてみたらどう?」
「やめろ白虎! 目の前に集中しろ!」
軽口を飛ばす二人を咎めながら戦う龍二。もうこれ以上は無理かと思ったその時、今まで軽快に宙を飛び回っていた銃弾が床へ転がり落ちる。
「止まったか、次は何をしてくる……?」
相手がただで攻撃をやめるわけがない。だからこそ次の行動を用心深く見極めなければ、その時、ガラスが振動をしていることに気付く。しかも前とは違い、今度は展望台を囲む全てのガラスが。
次こそ確実に仕留める気の総攻撃か、そう思い龍二は身構える。激しい音と共にガラスが砕け散り、無数の破片が辺りに散乱する。一つ一つが鋭い切っ先となり宙を舞う。次にその餌食になるのはだれなのか、気を引き締めたが、それに反して破片はだれも傷つける事なく一つの場所へと集まっていく。その場所は破片を操る主人の周り、ピクシーを守護するように球状に取り囲む破片。
「攻撃、してこないのか……?」
宗玄が構えていたスタンロッドを一旦収める。シールドのような物に遮られていては接近戦どころではない。
「私達に恐れをなして、閉じこもっちゃったんじゃないですか?」
「それならこのまま逃げるなりすればいい、これも何かの策なのか……?」
シールドの向こうを挑発するように煽る虎白、だが朱里はこの防御行動に何か意味があるのではないかと勘ぐっていた。
透明なガラスで出来たシールドはまさに結界、外からも中の様子が見えるようになっている。今も表情を全く浮かべないピクシーは、その裏で何を企んでいるのか予想がつかない。
「ともかくこれでは攻撃できない。何かこちらも策を考えなければ……」
龍二も一度策を練ろうと構えを解く。このまま何もしてこないのであれば、警察の増援を頼る事や、ひとまずは戦う力のない人々を避難させるのもいいだろうかと考える。ともかく急ぐ必要はないはずだと考えていると、宗玄がメットに手を当て、誰かと通信しているのが目に入った。
「はい、兵藤さん。こちらからもシノビを飛ばして確認します」
宗玄が背中に搭載されている小型ドローン、通称『シノビ』を空に飛ばすと、他の三人に声をかける
「やっぱりただ守ってるだけじゃなかったか……みんな聞いてくれ、この近くを飛んでいた報道用のヘリコプターが、コントロール不能に陥ったらしい」
「まさか……それが奴の仕業だと言うのか!?」
このタイミングでそのような事件が起こるとなれば、ピクシーが無関係だとは思えない。
「そのまさかだよ、奴はヘリをこのスカイタワーの展望台にぶつけようとしているのさ」
「なら早くこいつを倒さないと!」
焦りを隠しきれない虎白に対し、宗玄は冷静なままで首を横に降る。
「それはダメだ、コントロールを奪われたヘリは本来なら飛行不能な姿勢で飛んでいる。自由の身にしても墜落するだけだ。中にはまだ人もいるらしいしね」
マリからの通信によると、乗っているのはパイロット、カメラマン、リポーターの三人。今は命に別状はないらしいが、このままでは危険だ。
「ではどうするつもりだ、ヘリには燃料だって積まれているだろう、衝突させるわけにもいかない」
朱里が顎に手を当て策を練ろうとする。朱雀の飛行能力を活かせば中の人間は助けられるだろうが、それでも墜落は避けたくある。そもそもの話、ピクシーのバリアを破る手段も無い。
「僕がここでヘリを受け止めよう。その上で対象を撃破すれば、犠牲は最小限に留められる」
「受け止めるって、そんな事本当に可能なんですか!?」
「大丈夫、こいつでがっちり踏ん張るよ。それでも止められるのは……持って三十秒ぐらいか。その間に向こうは頼んだよ!」
いくら警察の最新装備とはいえヘリを受け止めるなど可能なのか、そんな不安に宗玄は軽く答えながら、足に装備された安定性を増すためのアーム、アウトリガーを伸ばす。
「短い間に一発勝負……賭けとしては分が悪いな。だがなんとか方法を探すしか無い」
考え込む三人、その中で最初に答えを出したのは朱里だ。
「私の兵装で総攻撃する。この火力なら奴の撃破も可能なはずだ」
「いや、それではバリアを破るのに時間がかかる。タイミングが掴めん。俺のドラゴニックレックなら――」
朱雀のすべての兵装を使いバリアと真っ向勝負をする。火力面でも現実的な案ではあるのだが、一斉射撃中いつバリアを突破するのか読みにくい以上、タイミングが第一な今の場面には龍二の言う通りあまりそぐわない。圧縮した火球を投げつける技、ドラゴニックレックでの一点への集中的な一撃での攻略を提案する。
「なんですかその変な名前の技! そんなことしなくても、あんなガラスの塊、私が突撃すれば全て終わりです!」
「変な技ではない! それにただ突撃するだけでは危険だ、ここは俺に任せろ」
龍二の提案を一蹴する虎白、確かにタイミングの合わせやすさや素早い撃破を考えれば白虎の突撃が手っ取り早いが、バリアの前では危険性も高い。指摘自体はまともなのだが、妙なところに突っかかったせいで語気が荒んで行き、そこに朱里も乗ってくる。
「いや、お前の……何と言ったか忘れたが、よくわからん技ではバリアは壊せても、そこで威力が弱まって中にいる敵を貫けはせん。今必要なのは圧倒的な力だ。怪物共は黙ってみていろ」
「怪物ぅ!? 好き勝手言って! なら怪物だらけのこんなところからは、そこの金持ちでも連れて逃げてればいいでしょう!?」
朱里の言葉が虎白の琴線に触れてしまう。朱里のベルゼリアンへの憎悪から出てきて言葉が、本来は人間だった者に、しかもそれを受け入れる時間さえ無かった虎白に突き刺さる。
互いに思うところがあるとはいえ、今はそのような衝突を起こしている場合ではない。側から見ていた一人が、我慢ならないと人混みから一歩踏み出して、大声で叫ぶ。
「あーもう! 良い争いしてる場合じゃないでしょ!? どうして協力できないのさ!」
声の主は愛だった。頰を大きく膨らませ、両手を腰に当てる事で怒っていますよとアピールしてくる。
「協力すれば絶対に勝てるのに、こんな所まで一人で戦わないでよ!」
そんな様子の愛に怒られた事で、三人はなんだか今までの自分が大人気なかったのではと思ってしまい、何も言い返せない。その様子を見た愛は、打って変わって落ち着いた様子で考えを話し始める。
「まず龍……青龍君がドラゴン……えっと、何とかでバリアに穴を作る。そこに朱雀さんが総攻撃で完全に破壊して、その隙に白虎ちゃんが懐に入って一撃! これで誰かが一人でやるより確実に、素早く倒せるんじゃない? どうよ!」
お互いの主張を無理矢理一つにまとめただけではあるが、言葉通り確実性は高くなっている。問題は三人がうまく息を合わせられるかだ。
「そろそろ目視できるぐらい近づいてきた!準備はできてるかい!」
失敗は許されない、一度限りのチャンスに互いに信頼し心を重ねる。一抹の不安がよぎるも、それ以上の策が出ないなら賭けるしかない。宗玄の言葉で時間がない事を察した三人は顔を見合わせ、覚悟を決める。
「単純な一斉攻撃だが、可能性はある……朱雀、白虎、やれるか」
「これ以上四の五の言っている時間は無い……少々癪だが、私は乗るぞ」
「さっきは熱くなりすぎました……でも、私があいつの息の根を止めれるならばその作戦に異論はありませんよ。今度こそ止めを刺す!」
お互いが異なる存在である以上、争いやいがみ合いは避けられないのかもしれない。たとて分かり合えなくとも、今この時だけは力を合わせる。ここにある多くの命を守るために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます