4話 フラッシュ 共に戦おう
「昼間からずっと俺の周りをちょろちょろと! 一体いつまで付いてくるつもりだ!」
イラつきが表に出た龍二の怒号が、物陰からこっそりと後を付けてきていた三人へと向かって放たれた。ギョッと驚いて身を震わせた後、三人は物陰から龍二の前に現れる。愛はバツが悪いと思いながら、あははと苦笑いしてどう言い訳しようかと思考を巡らせる。
昼休みに四人で昼食を食べていた時には、龍二が渋々付き合ってはいても、愛達の周りには良好な雰囲気が流れていた。しかしそれだけの時間で龍二と完全に打ち解ける事が出来た訳ではない。昼食の後もしつこく声をかけてきては何かと振り回してくる愛に、慣れない龍二はストレスの元でしかないと、次第に逃げるかのように距離を置き始める。終いには、下校をしている所を付けてきたとなれば怒るのも無理はない。
「ごめんね、昨日の所に今日も行くのかなぁとか気になっちゃってさ……二人は悪くないの、私が言い出した事でさ」
頬を掻いて気まずそうに、二人を庇う愛。
「もはや小芝居で諦めるとは思わん、俺が昨日地下研究所でお前たちを助けた事は認めよう。だが何故付きまとう、これ以上の詮索は容赦しないと言ったはずだ」
龍二がため息を一つついて、愛達に昨日から何度目かの拒絶を示す。
「うん、それは言われた……しつこく付きまとったのも謝る……でもさ、私は龍二君を放っておけない。龍二君と違って私に力があるわけじゃないけどさ、ずっと一人であんなのと戦ってるなんて、寂しすぎるよ、私も一緒に戦わせて!」
「一緒に戦うだと? お前に何が出来ると言うんだ、部外者を巻き込みたくはない……俺は一人で良い!」
「だけど!」
「だけどじゃない! 近頃増えている行方不明事件や怪死事件も奴らの仕業だ、力の無い者を奴らは容赦なく食うんだ! そこにお前の人の好い感情など通用しない! 俺の近くにいれば危険に晒されるのが何故解らない!」
昨日の地下での事を彷彿とさせるような言い合いが白熱する二人、その間に意外にも割り込んできたのは里美だった。
「なんか、解ってきた気がする、愛があんたを放っとけない意味」
「自分の事を考えて行動してないんだよ、誰に頼まれたわけでもないのに戦ってるのも、私達から遠ざかろうとするのも、全部他人をあいつらから守るため……でしょ? それで全部一人でやろうとして孤独ぶってさ、そういうのって愛が絶対お節介焼きたくなっちゃうんだよ」
「流石サトミン、私の事分かってるぅ!」
少し表情が硬くなくなったように見える
「わかったような事を、ク――ッ!」
突然頭を押さえ顔をしかめる龍二。
「奴らか……昨日の裏山の方向だ、いいか絶対に近づくんじゃないぞ」
裏山へとダッシュで駆けていく龍二
「絶対に行くなって言われると、行きたくなるもんだよねぇ、何かできるってとこ、見せつけなきゃだし! 二人は先に帰ってて!」
龍二に気づかれないよう少し待ってから愛も裏山の方向へ走る。
「ちょっと愛! まったく、一人だけ危険なとこに行って知らないふりは出来るわけないんだから!」
「ふ、二人とも待ってってば……」
里美が愛のすぐ後を走っていく。それに対して、不安と恐怖で足を踏み出せなかった七恵も、勇気を出して追いかけた。
「三日連続で現れるなど、今までなかったというのに!」
豊金高校の裏山、鬱蒼と茂る木々によって夕日は遮られ、少し薄暗い森の中に、『奴』の光る眼が蠢いている。近くに現れれば、頭痛でその居場所を教えてくる忌々しい存在。動いていた目が龍二に狙いを付けたことでその動きを止めた、それに合わせて龍二も戦闘態勢を取る。彼が戦う為の青龍の姿に変わった。
「速い――ッ!」
茂みから飛び込んできた敵は、四足歩行らしく、前足の爪で龍二へ攻撃をしてくる。それを回避しようとしたものの、予想を超えた攻撃速度に完全な回避が出来ず、掠めただけでも龍二の皮膚から鮮血が左腕から飛び出る。その痛みを味わう暇も無く、敵は二回目の攻撃をしようと龍二に向かっていた。
同じような攻撃を二度も当たるわけには行かないと、今度は直線的に突撃してくる相手のタイミングを読んで、回転することで尾を使い攻撃をいなし、胸に手を当てた。龍二の胸部から痛みを伴いながら、剣が生み出される。攻撃をいなされた敵は、また茂みに隠れ、かく乱しようと龍二の周りを回り始めた。
暗い茂みの中で、眼光が現れては消え、また違う場所に現れては消える。龍二は全神経を集中させ、その動きを読もうとする。しかし、夜目が利くのは相手のようだった。
木々の葉を揺らす大きな鳴き声と共に、三度目の突撃を繰り出してくる相手に、カウンターを決めようと龍二が剣を振りかざす。しかし、それはコンマ数秒遅かった。剣を握っていない左腕に再度の斬撃。今度は掠める程度では済まずに、確実に爪が突き刺さっていた。だが、ただ龍二もやられてばかりではない。剣を持った右腕は、追撃を仕掛けようとしていた相手の爪を確実に防いでいる。至近距離で巨大な獣と小さな龍がにらみ合う。
「もう戦い始まってるか!龍二くんを苦戦させるなんて、あいつ強いね」
「愛、こんなところに付いてきて何しようって言うの?」
「そりゃ今から考える!」
龍二を追いかけていた愛と里美が、木の後ろに隠れて戦闘の様子を覗き見る。
「あ、あれっておっきい猫かな……?」
少し遅れて七恵が息を切らしながら二人に追いついた。途中で転んでしまったのか、膝には擦り傷が出来ていて、目には涙を貯めている。
「七恵も付いてきたの!? こんな馬鹿に付き合わなくたって!」
「ひどいな、馬鹿って! 今日のテストも散々だったけどさぁ! それどころじゃないか、猫、猫ねぇ……」
暗い茂みから飛び出し、龍二とのにらみ合いで動きが止まった相手の姿がやっと鮮明に見える。その姿は大きな耳に口の近くから生えているひげ、ピンと逆立て相手を威嚇する尻尾は、七恵の言葉通りに猫の特徴そのものだった。しかし、巨大な体、鋭い爪にギョロリと見つめる眼光には、普段見る愛玩動物としての可愛さは欠片も存在しない。
「こんな馬鹿についてきちゃったサトミンさんに一つお願いがあるんだけど……スマホ貸して?」
「この状況でどこに電話するって言うの!?警察とかに連絡したってこんな化け物どうしようも――」
どこか余裕の表情を浮かべた愛が里美に手を伸ばす、里美も愛をまくし立てながらも、制服のポケットから自分のスマホを取り出し手渡した。
「ああもう! 別に電話するわけじゃないって! サンキュ! 行ってくる!」
「行ってくるって! ああ、やっぱり馬鹿!」
里美からスマホを受け取った愛がポケットから自分の物も取り出して、二つのスマホを操作してから、木の陰を飛び出していった。
「やぁやぁやぁ、遠からん者はなんとやら、近くば寄って目にも見よ! 特にそこの龍二君は、私も役に立つってバッチリその目で見とく事!」
龍二と化け猫がにらみ合う地点の、20メートルも離れていない場所で愛が突然の名乗りを上げ、龍二の気が逸らされる。
「馬鹿! 来るなと言ったはずだろう! なぜお前は俺の言う事をいつもいつも!」
「二人も揃って馬鹿馬鹿って、ほんとひどい! まぁ見てなって、カモン化けにゃんこ!」
愛の挑発が伝わっているかはわからないが、突然大声を出した愛に化け猫が狙いを変えて飛びかかろうとする。なんの戦う手段も持たない人間が飛び出してくるなど、人を食う化け猫からすれば、デザートが出てきたようなものだ。
「相手が夜目が利く猫だってんなら……はい、チーズ!」
襲い掛かる化け猫を限界まで引きつけて、愛がスマホの画面をタッチする。その瞬間、眩しいフラッシュが暗い森を包み、化け猫が怯む。その隙を龍二が見逃す訳が無かった。渾身の一突きが化け猫の左後ろ脚を
貫き、悲鳴のような鳴き声が耳をつんざく。
「や、やった! ナイス龍二君!」
眩い光と巨大な化け猫が襲ってくる恐怖から、思わず目を瞑っていた愛が目の前の状況をやっと理解する。龍二が化け猫にとどめの追撃を刺そうとすると、化け猫は刺された足を庇いながら茂みの中へ引き、先ほどと違い動き回らずにこちらをじっと見ていた。
「俺の動きが少し遅ければどうなっていたのかわからないのか!」
「それでもバッチリフォローしてくれるって私信じてたもん、それよりさ、私のおかげで有効打、決められたんじゃない?」
「それは否定しないがな……機動力は奪った、次の一撃で仕留める。お前は俺の後ろに居るんだ、離れるなよ!」
龍二が愛の一歩前に出て化け猫をにらみ返しながら、剣を置き、両手を口の前に構える。
「ハァァァァァ!」
構えられた手の中に口から蒼い炎が溜まっていき球状に形作られる。左手を腰の後ろに下げ、対する右手から必殺の一撃が放たれる!
「ドラゴニックレック――ッ!」
渾身の叫びと共に放たれた火球が化け猫の体を貫き、止めがついに刺された。
「やった……やったよ龍二君!」
「離れろっやめ、やめろ!」
龍二の後ろに隠れていた愛が龍二に抱き着き、突然の抱擁に前によろめく龍二。どうにか振りほどこうとするが愛は一向に離れようとしない。そんな二人の後ろから、里美が駆けてくる。
「馬鹿馬鹿馬鹿! 心配したんだからぁ!」
里美が泣きながら、龍二に抱き着いている愛に更に抱きついた。すると愛のせいで既にバランスを崩していた龍二が遂に倒れ、三人が総崩れになる。
「大丈夫?みんな……」
遅れて近づいてきた七恵が心配そうに三人に駆け寄った。
「ふふっなんかいいなぁこういうの!青春って言うの?」
「早くどけっ!」
いつの間にか元の姿に戻っていた龍二が愛と里美の下でもがきだす。慌てて二人が飛び退くと愛の笑い声が豊金高校の裏山全体に響き渡った。
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